01
誰もあたくしには逆らえない。あたくしはお姫様、なにをしても許されるのだから。
「おやすみなさいませ、アイリーン様」
側付きの侍女が出ていき、ベッドに入る。明日はどんなふうに過ごそうかと考えながら。
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「アイリーンよ、この者はお前に指示をされたと言っているが」
「お父さま、お言葉ですがあたくしはこのような薄汚いモノは知りません。ソレの戯言です」
「そうか……。衛兵、この者は三日後に処刑せよ」
場面は変わり、処刑場所。
「俺を雇ったのはアンタだって、なんで……。なんで知ってんのに!!殺されなきゃならないんだ!!」
「なぁに、自分のしたことをあたくしに押し付ける気?見苦しいわね」
「絶対、許さない……!!お前も、地獄にっ」
男は呪詛のような言葉を吐き切る前に死んだ。
また、場面は変わった。
「お父さま!!そのような下賤な生まれの者の言葉を信じるのですか!?あたくしがそんなことをすると信じるのですか!?」
「アイリーン、お前に期待を僅かばかりでも抱いていたのが愚かだった。いつかは変わると、そう信じていたがな……。ロイド、これを棘の塔へ入れろ」
キーキーと喚き散らす女。豊かな金髪を縦巻きにし、コルセットで脂肪を無理やり押し込めているせいでドレス姿は見苦しい、丸々と太った豚のような女。父と女が呼びかける男は王座にゆったりと腰掛けてはいるが、その表情はこちらを蔑むもので。女が連れていかれた場所は、高い塔にあるかび臭い部屋。女は、そこで誰にも世話をしてもらえずに餓死した。
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「あれは、あたくし、なの……?」
嘘だ、あんなの嘘だ!!信じられない、あれがあたくしだなんて。あんな豚のような醜い女が、あたくしだなんて!!
「っ、いた、い!!ちがう、あたくし、は……、わた、しは……」
激しい頭痛、思い出されるのは先ほど視た恐ろしい光景。違う、ちがう、あれは私じゃない、そう思った時、私はとある記憶を思い出した。
「わたしは……」
それは、この国とは違う街並みに住む一人の女性の記憶。前世だと、なぜか悟った。そしてそれと同時に私は転生したのだと気づいた。
「私、もしかしなくてもあの王女様……?」
私は、さきほど視た光景に覚えがあった。そう、それは前世で私が大好きだった乙女向けゲーム「トキメキの世界~アナタは誰を選ぶ?~」の世界の登場人物にそっくりで、名前どころか死に方まで一緒だったからだ。そう、アイリーン・レインヴェルク。ヒロインを苛め抜く最低との称号をプレイヤーより与えられた悪役令嬢、そしてヒロインの住む国の第一王女。
攻略対象者によってアイリーンのエンドも違うけれど、当て馬なだけあって最後は悲惨な最期だ。プレイしていた身としては因果応報だ、とも思う。だけど、それが自分であるとするならば話は別だ。あれは物語の中の話で、自分はアイリーンを断罪する立場だった。だから私にとってあの話は、当たり前ながらゲームなのだから、フィクション。
「いや、これ絶対ゲームじゃない……」
ベッドから身体を起こしてムチムチのほっぺたを思いきり引っ張る。めちゃくちゃ痛い、これは夢でもないしゲームでもない、現実なんだと私が再認識した瞬間だった。