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2.3.1:青の少年


「ブルー・スイートの新設?」


 司令官執務室に、ジェリスの訝しむ声が響く。


「どうにも急な話ですな。ミショニストの選定が難航していると聞いていたが、それは解決したので?」


 カルムナントはくつろいだ様子でソファに深く腰掛け、ジェリスの方は向かずに、窓の外の青空を見上げながら軽く答える。


「いや、結局のところ、芳しい人材は今も発見には至ってはいない。しかし、このままブルーを空席のまま放っておくわけにもいかない。故に、僕自身でその任を負うことに決めた」


「……ほお?」


 ジェリスは露骨に納得のいかない表情を見せる。


「これでも多少の魔法の心得はある。幼いころより剣術の手ほどきも受けている。十分な活躍を保証できる、とは言い切れないまでも、足手まといとまではいかないはずだ」


「……信じましょう」


 ジェリスはいつものように手短に話の流れを断ち切った。


 どの道自分はお飾りの司令官でしかなく、ゼオリムの御曹司がそう言うのなら、自分の立場としてはそれに尻尾を振って従うよりほかにない。あの日以降の自分など抜け殻に過ぎない。すべては成り行きに任せればいい。どうでもいい。


 そう諦める自分が居る一方、それで納得がいくものかと吠えたてる自分も居るのを、ジェリスは確かに感じてもいた。


 黙ってカルムナントの目を見つめる。

 その瞳の奥で、老獪な精神が何かを企んでいることは確かだ。しかし、それが何か、はっきりと見通すことはできない。


「……どうかしたかい?」


 少年が薄く笑う。


「いえ、べつに」





「ブルー・スイート……ねえ」


 訓練の合間の休憩時間。ミショニストたちが集まり、語らい合う。

 話題は当然そこへと流れ着き、ファインがぼんやりと言葉を宙に浮かべた。

 それにレーンが腕を組み、思案げな表情で続く。


「ようやく、と言うか。今更、と言うか。カルムナント・ゼオリム財団理事代行、御仁自ら前線に出張ってくる、ってのも変な話だよな」


「私、あの子なーんか苦手なんだよなー。可愛い顔してんのに、可愛げの欠片も無いっていうか。なんか、不気味じゃない?」


 カノンがそう率直な印象を述べた時、ふいに部屋の扉が開いた。

 その向こうから、カルムナントがゆったりとした動きで入ってくる。

 瞬間、カノンの表情が強張る。


「やべ、聞こえたかな、今の?」


 カノンが隣のモミジに小声で言うと、モミジはそれに笑顔で答えた。


「聞いて確かめてみましょうか?」


「おいばかやめろ」


 そんなやり取りを横目に、カルムナントは微笑みながら口を開いた。


「すまないね。聞き耳を立てていたわけではないが、聞こえてしまったよ」


「へ、へへ、どうも。すみません、理事代行閣下」


 カノンは変な汗をたらしながら、苦笑いを浮かべるしかない。


「そんな畏まった呼び方はやめてほしい。これからは僕も君達の仲間、それも後輩だ。カルム、と呼び捨ててくれて構わない」


 少年はツカツカと靴を鳴らし、笑顔で皆に近寄る。


「それに、人間どうしたって好き嫌い、合う合わない、というのは当然あるだろう。しかし、できれば和気藹々といきたいと思っている。そのために僕の方でも合わせるべきところ、直すべきところ、そうしたものがあるなら全力で善処もする。だから、君達の方も、僕をちゃんとした仲間として受け入れてくれると嬉しい。よろしく頼む。いや、よろしくお願いします」


 カルムはそう言うと、皆に深々と頭を下げて見せた。

 ファインがそれに小さく苦笑し、応える。


「こちらこそ、よろしくお願いします。カルム」


 顔を上げたカルムが、笑顔を崩さないまま、片方の眉を上げてみせる。

 ファインはもう一度苦笑を浮かべ、改めてもっと砕けた言い回しで答えた。


「そうだな。分かったよ、カルム。頼りにしている。よろしく頼む」


 カルムが満面の笑みを浮かべる。

 それからカルムは、アリルへと視線を移した。


 その瞬間、アリルは背筋に寒気を感じ、震えた。

 見られている感覚。覗かれている感覚。


 アリルは震えを抑えながら、冷静になろうと努力する。

 直接目と目が合っているんだ。見られているなんて当たり前だ。僕は何を焦っているんだ。


 そう理性が説得するが、感覚がそれを否定する。

 そして気付く。自分はカルムの感情を読めないことに。

 小さく視線を動かし、室内の他の仲間たちを順に見ていく。エーテルを介して、皆の感情には触れられる。改めてカルムに視線を戻すが、そこには何も無かった。


「どうかしたかい? アリル」


「……何故、ミショニストに?」


 そのアリルの問いを予想していたように、カルムは滔々と答えた。


「無論、世界の平和のためだ。そのためにも、君の傍で学び、戦い、自分を磨き上げたいと思っている。重ねて、よろしくお願いするよ」


 本心で言っているんだろうか。底が読めない。


「え、ええ。よろしくお願いします、カルム」


「そして、君の手助けもできれば、と思っている」


「手助け?」


「そう。あのグレンデルを、そしてすべての冥獣を討ち、君のお姉さんと、故郷、すべての犠牲者の仇を討つ。彼らの無念を晴らす。その手助けを」


「仇を……討つ」


 アリルはそれにどう答えるべきか迷い、黙り込んだ。

 そんなアリルを、カルムは微笑みながら、じっと見つめ続けた。





 薄暗い室内で、アリルがベッドに寝転がり、天井をじっと見つめる。


「敵討ち……」


 改めてカルムとの会話を思い出す。

 ここまでは成り行きで来てしまった。それでも、成り行きなりに努力はし、力は付いた。今の自分なら、グレンデルとも十分に渡り合えるかもしれない。あるいは、一人では無理でも、仲間となら。


「……そうしたら、姉ちゃんは喜んでくれるかな?」


 その無念は、晴らせるだろうか。

 心の中で問いかけるが、それに対する答えは返ってはこない。


 結局、アリルは結論を先送りにし、今は眠りに落ちようと、目を閉じた。

 その瞬間、室内にけたたましい音が鳴り響いた。

 緊急臨戦警戒警報。

 続いてミショニストを呼び出す放送が流れ、アリルは反射的に飛び起きた。


 すぐさま身支度を整え、部屋を飛び出す。

 迷いは晴れぬまま、アリルは戦いへと走りだした。



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