第九話
わたくしがそう言うと、ラインハルザ様は飛び上がるようにしてわたくしの膝の上から降りてしまっていた。
はぁ。もう少しラインハルザ様を抱っこしていたかったのに……。
残念に思っていると、慌てたようにラインハルザ様は言ったわ。
「悪い!!聞かなかったことにしてくれ!!」
そう言って、駆け込むようにして自室に行ってしまったのだ。
わたくしはと言うと、「何か言い方がまずかったかしら?」と首を傾げるだけだった。
次の日から数日間、ラインハルザ様の様子がおかしかった。
わたくしを避けるようになったのだ。
わたくしは、昨日の迂闊な行動を後悔したけど遅かったみたいで、距離を取られても仕方ないと項垂れながら過ごしていた。
だから油断していた。
その日、ラインハルザ様は家の用事で外出していた。学園の外で一泊して戻るという話だったので、わたくしは久しぶりに鎧を脱いで部屋で過ごしていた。
いつもは、ラインハルザ様を気にしてさっと短時間で済ませていたお風呂の時間を長めにとることにした。
久しぶりにバラの香油を湯に垂らして、ゆっくりと湯に浸かった。
髪や肌もバラの香油を塗り込み手入れをする。
切る暇もなくて、ずるずると伸びてしまった髪を手入れしながら、成長のない体を眺める。
子供の時から身長が全く伸びていない小さな体と、それに見合うくびれの少ない細い腰。
小さなお尻と、絶壁かと思える胸を見て、わたくしはため息を吐かずにはいられなかった。
もう14歳になるというのに、このお子様体形……。
なんだか虚しくなったわたくしは、いつしかクラスメイト達が見ていたエッチな絵物語に描かれていた胸の大きな女性を思い出していた。
クラスメイト達が、女子生徒に隠れてみんなでその艶本を見ていた時、あのラインハルザ様もその中にいたのだ。
わたくしは、ラインハルザ様の好みの女性が知りたく、その場にいたクラスメイト達に聞いたのだ。
「女の胸の大きさについてどう思う?」
わたくしがそう言うと、様々な意見が飛び交ったのだ。
「俺は断然巨乳派!!タユンタユンのおっぱいにぱふぱふされたい人生だった!!」
「美乳派。大きさじゃない。形と感度」
「俺は、ささやか派だなぁ。ちっぱいを俺が育てる!!」
なんていうことだろう……。絶壁に人権はないのか……?
わたくしみたいな、膨らみのない人間は需要ゼロなの?
「絶壁は?」
わたくしがついそう口にすると、その場にいた男どもは一斉に言ったのだ。
「無いな」
「ないに決まってる」
「それって、男でよくねぇ?」
くっ、お前ら!!好きで絶壁を築いたわけじゃない!!
わたくしだって、大それたことは望んでいませんわ!ちょっとした程度の膨らみを求めているだけなのよ!!誰かわたくしにおっぱいを分けてください!!
悲しみに打ちひしがれるわたくしだったけど、ラインハルザ様の反応が気になって、彼を見ていると、ラインハルザ様は、小さな声で言ったのだ。
「別に、胸なんてどうでもいいよ。好きな人なら、あってもなくてもいい」
「ふーん。まっ平の絶壁とタユンタユンのパフパフなら?」
貴様!!ラインハルザ様になんて質問するのよ!!ぶち殺しますわよ!!
だけど、ラインハルザ様の答えが気になったわたくしは彼の答えを大人しく聞いていた。
「二択なら……。たゆ……。なんでもない!!」
ラインハルザ様!!わたくし今しっかりと聞きましたわ!
そうですか、そうですか!!
コンチクショウですわ!!
そんなことを思い出していたわたくしは、自然と胸のマッサージをしていた。
別に、大きくなればとかなんて思っていませんわ!!
熱心に胸を揉んでいると結構な時間が経っていたことに気が付いたわたくしは、全く変化のない胸を見なかったことにしてお風呂場を後にしていた。
そして、透けるように薄いネグリジェ姿で一人きりのリビングルームでぼうっとしていた。
そうしている内に、気が付けば眠ってしまっていたわ。