第五話
翌日、唖然とするお義兄様の視線を背に受けながらわたくしは、屋敷の扉を開けてとても清々しい気持ちで旅立った。
実は、わたくしの発動させた魔術は、周囲にわたくしとお義兄様を逆に認識させるというものだった。
この術は強力なものだけど、厄介な条件もあった。その条件が、術を発動させるには、双方の同意が必要と言うものだった。
お義兄様があの時、心からわたくしの言葉を受け入れてくれるかは賭けではあったけど、こうして無事に術は発動した今となっては、今まで従順な振りでいろいろ堪えた甲斐があったというもだわ。
これで、わたくしは愛おしいあの方の元に大手を振っていける。全てをわたくしにくれたお義兄様に感謝しかないわ。
そして、わたくしとなったお義兄様には、わたくしの代わりに肥え太った醜いヒキガエルのようで気持ち悪いと評判の伯爵に嫁いでいくこととなるでしょう。
ふん。いい気味だわ。
ざまぁみろ!!
騎士学校までの旅路は、わたくしにとってとても楽しいものだった。
これからの未来が希望に照らされて、眩しくて想像もできないくらい輝かしいものに思えたわ。
だけど、わたくしにはまだ、準備するものがあったの。だから伯爵家の馬車に揺られながら、魔術であるものを丁寧に、だけどできる限り急ぎで作り上げた。
そしてわたくしは、馬車の中で一つの黒い鎧を作り上げたのだった。