第十九話 ※ラインハルザ視点
俺は、愛するセラヴィーの不安の芽を取り除くために、掃除に出掛けていた。
セラヴィーには、仕事だと言っていたが、本当はごみを掃除するために愛する彼女の元を数日間も離れなくてはならなかった。
しかし、このごみは念入りに掃除しなければならなかったのだ。
俺が最初に向かったのは、リムドール伯爵家だった。
彼女の養父だった男を始末しなければならなかった。
幼い彼女の服を剥いて、手ずから服を着せるなどウラヤマけしからんことをする男に、俺は猛烈な殺意を抱いていたのだ。
俺は、何食わぬ顔で、伯爵邸を訪れていた。
伯爵家は、セラヴィタリアが暴露した話が周囲に広まったことで、仕事の取引もなくなり、社交界でも干されていたのだ。
没落寸前まで追い込まれた伯爵家の財政はぎりぎり家財を売って保たれていたのだ。
そんな時、金も名誉もある俺がきたことで、伯爵は、何を勘違いしたのか猫なで声で言ったのだ。
「これはこれは、侯爵様……。娘がお世話に―――」
俺は、やつの無駄話に付き合う気はなかった。
だから、単刀直入に懐にしまい込んでいた物を取り出して、伯爵に命令していた。
「家が大事なら、今すぐ自害しろ」
「へ……?えっ?」
驚く伯爵に構わず、俺は低い声で命令していた。
「いや、回りくどいのは性に合わないな。俺は、お前をぶち殺したくて仕方ないんだ。愛するセラヴィーにしたことの代償を支払っていただく。選べ、毒で苦しんで死ぬか、俺の手で苦しんで死ぬか」
そう言って俺は、選択肢などあってないような二択を迫っていた。
俺に睨まれた伯爵は、震えながらズボンを濡らしていた。
そして、俺の足に縋りついて、喚いたのだ。
「お願いです!!命だけは、命だけは!!何でもします!ですから、どうか、どうか!!」
そんな命乞いをする無様なブタに、俺は冷徹な笑みを浮かべて言ったのだ。
「そうか、なら命だけは助けてやってもいい」
俺がそう言うと、伯爵は、醜い顔を上げて、俺の靴にキスをした。
汚らしいキスにイラっとしながらも、俺は伯爵にいくつか指示をした後に、伯爵家を後にした。
数時間後、指示の通り、長男に家督を譲った男は、逃げずに約束の場所に現れた。
俺は、ある店の従業員の男に銘じて、約束の場所に現れたブタを拉致した。
そして、ある店にブタを連れて行ったのだ。
その店は、危険な薬物を取り扱う店だった。
違法な毒物を取り扱う店ではあったが、貴重な薬も扱う稀有な店でもあった。
そんな店の店主は、代々我が家の影の仕事を請け負っていたのだ。
俺は、久しぶりに顔を合わせた店主に、ブタを引き渡して冷酷に告げた。
「この豚は好きに扱っていい。だが、絶対に殺すな。切り刻んでもいいが、必ず治療しろ。正気も保たせろ。自害もさせるな。丁重に扱え」
「へぇ、旦那がそんな命令するなんて、この豚さん何したんです?」
「お前が気にすることではない」
「はーい。それじゃ、豚さん?お注射しましょうね~」
そう言った店主は、ブタに特製の劇薬を注射したのだ。
それは、感じる痛みを何倍にも増幅させて、しかも正気も失わせないという、拷問時に使う秘薬だった。
しかし、今回は拷問がメインではない。
拷問に似たことはするが、それはあくまで新薬開発のための実験なのだ。
皮を剥ぎ、肉を切って、骨を削る。
体をナイフで切り刻み、切った後はきちんと縫って傷を塞ぐ。
その際に、薬の効きを確かめるために、麻酔薬などの薬剤は投与しない。
しかし、これは拷問などではない。
毒や良薬を開発するための実験なのだ。
ブタが、何度も殺してくださいと頼んでもやつの寿命が尽きるまでこの実験は繰り返されるのだ。