第十八話
わたくしは、自分からラインハルザ様の唇を奪うつもりでしたが、逆に奪われる結果になってしまっていたのです。
ラインハルザ様との甘い口付けは、わたくしを熱くさせたけど、キス以上のことはさせていただけませんでした。
わたくしが、唇を尖らせてむくれていると、ラインハルザ様は、そんなわたくしを甘やかすように抱きしめて、囁いたのです。
それはとても甘い声で、わたくしは胸がキュンとなってしまいました。
「君の本当の名前を教えてくれ」
「わたくしは……、わたくしは、セラヴィタリアといいます……。今までラインハルザ様を騙していたこと……」
わたくしがそう言うと、ラインハルザ様は、わたくしをぎゅっと抱きしめてくれたわ。
「いいんだ。何か事情があったんだろう?」
そう言ってくれる、ラインハルザ様の優しさにわたくしは応えたかった。だから、包み隠さずに、わたくしの身に起こったことと、お義兄様に掛けた術について、全てを明かしていた。
わたくしの話を聞いたラインハルザ様は、少しだけ怖い顔をされたけど、それは一瞬で、すぐにいつもの優しいお顔に戻っていたわ。
それからわたくしは、ただの平民の女として、ラインハルザ様にお仕えすることになった。
だけど、それは使用人と言うことではなくて、ラインハルザ様の妻としてです。
ラインハルザ様がいろいろと手回しをしてくれたのか、思いのほか周囲の反対は少なかったのよ。
それどころか、周囲はわたくしとラインハルザ様の結婚を祝福してくれたわ。
幸せの絶頂のわたくしは、この幸せをラインハルザ様にお裾分けするように、彼を可能な限り甘やかしたわ。
お仕事に励むラインハルザ様の休憩時間には、お茶とお菓子をもって執務室に行き、恥ずかしがるラインハルザ様にあーんって、お菓子を食べさせたり、わたくしの膝枕で休んでいただくようにしたわ。
結婚前の過剰なスキンシップをはしたないと思われても、今までの時間を埋めるべく、わたくしはイチャイチャしたかったのです。
ですから、誰になんと言われようと、わたくしは恥ずかしがる可愛らしいラインハルザ様を周囲の人に見せびらかすように甘やかして、甘やかしまくりましたわ。
そんなある日、ラインハルザ様は、お仕事で数日屋敷を留守にすることになってしまったの。
本当はわたくしも付いて行きたかったのですが、ラインハルザ様にあることを頼まれてしまっては、それを断って付いて行くことなど出来る訳もなかったのです。
そう、ラインハルザ様との結婚式に着るわたくしのウエディングドレスの本縫いをするために、わたくしは屋敷に残ることになったのです。