第十四話
忍び込んだわたくしは、寝所で寝酒を呑んでいたラインハルザ様の背後からそっと近寄り、振り絞るようにして声をかけていた。
「ラインハルザ様、お慕いしております」
その声に驚いたラインハルザ様は、わたくしの方を振り返ろうとしたけど、わたくしはそれを押しとどめて、更に続けて言った。
「ラインハルザ様が、誰を想おうと、わたくしの想いは変わりません。一番でなくても構いません。愛人で構いません。わたくしをラインハルザ様のものにして欲しいのです。わたくしの全てを―――」
わたくしが、「全てを差し上げます」と言おうとしたけど、ラインハルザ様によってそれは口に出すことが出来なかった。
「待って、待ってくれ!!ヴィー……。いや、その前に君の本当の名前を教えてくれ。ローラも本当の名前じゃないんだろ?」
そう言って、振り返ったラインハルザ様は、わたくしをぎゅっと抱きしめたのだ。
まさか、この姿のわたくしが、あの偽りのヴィクターと結びつくとは思えずにいると、ラインハルザ様がゆっくりと口を開いていた。
「実は……、君が騎士団でいろいろとぶちまけた話は聞いていたんだ。君が騎士団を去ったと便りをもらって。それで、初めはすぐにでも君のことを探そうとしたけど、君が約束を破るはずないと思って、君を待っていたんだ。君が屋敷で働きたいって門前で揉めているのを見た時、俺は、君の姿を見てすぐに君だって分かった。でも、君は正体を隠したがっていたから、何も聞かずにメイドとして雇うことにしたんだ」
まさかわたくしのことに気が付いていたなんてと驚きつつも、それを嬉しいと感じるわたくしもいて。
大人しくラインハルザ様の腕の中にいると、彼はソワソワとしながら言ったわ。
「初めて、明るいところで見た君があまりにも……」
そこで言葉を止めたラインハルザ様をからかうようにわたくしは口を出していた。
「ぶす?」
「ちっ、違う!!君はかわっ!いや、違くて!!」
「そうですか。ぶすすぎて驚きましたか?」
なんとなく、ラインハルザ様が何を言いたいのか分かったけど、敢えて不貞腐れたように言ってみた。
すると、ラインハルザ様は、わたくしをぎゅっと抱きしめて言ったの。
「違う!!君は可愛くて、綺麗で!!だから、君が他の男と接しないように、君の仕事の割り振りに口を挟んだりしてしまったくらいだ!!」
「まぁ!」
「君は気が付いていないかもしれないけど、屋敷中、いや、この領地中の男が君を視線で追っているんだよ!!かくいう俺だって、いつも君を!!」
そんな嬉しいことを言ってくれるラインハルザ様が可愛くて、わたくしは無意識に笑みを浮かべていたけど、気になる言葉についつい質問してしまっていたの。
「あら?でも、わたくし、お屋敷に勤めるようになってから、ラインハルザ様をお見掛けしたのは数えるくらいですのに?」
そう言って首を傾げていると、ラインハルザ様は小さな声で言ったの。
「隠れていつも君を見ていた……」
「まあ!!」
驚くわたくしに、ラインハルザ様は諦めたように全てを話してくださいました。




