第十三話
その後、わたくしはローラと名前を偽ってラインハルザ様の領地にと言うか、ラインハルザ様の屋敷でメイドとして働いていた。
どうしてもラインハルザ様を諦められないわたくしは、結ばれなくてもいい、傍に居たいという思いだけで、ラインハルザ様の屋敷に向かったのだ。
突然、平民の娘が働かせてほしいと屋敷を訪ねたのに、なぜかわたくしはそれを許されていた。
下級メイドになったわたくしは、毎日掃除と洗濯に明け暮れていた。
屋敷で働き出して、ラインハルザ様をお見掛けしたのは数えるほどだった。
一番初めにお見掛けしたのは、屋敷で働かせて欲しいと門前で騒いだ時だった。その時、屋敷から出てきたラインハルザ様が、驚いた表情をした後に、困ったような表情でこう言ったの。
「雇ってやりなさい」
ただ、それだけの言葉だったのに、わたくしは嬉しくて泣いてしまいそうだった。
ラインハルザ様と離れて数週間だっけど、久しぶりに会ったら、思慕の念が一層募って行くのが分かった。
それからは、ラインハルザ様のことだけを考えて、誠心誠意勤めた。
だけど、最近メイド仲間からラインハルザ様が塞ぎがちだという話を聞いてわたくしの胸は騒めいていた。
そして、ラインハルザ様を心配するわたくしに、メイド仲間の一人が言ったのだ。
「旦那様のあのご様子……。恋ね。間違いないわ」
「コイ?」
「ええ。間違いないわ。きっと、どこかのご令嬢に恋をしたのよ」
恋……。ラインハルザ様が、恋?
その言葉を聞いたわたくしは、気が狂いそうだった。
ラインハルザ様が見知らぬ女を抱きしめる姿を想像してしまい、その見知らぬ女に殺意を覚えた。
だけど、こんなわたくしにはラインハルザ様に想いを伝える資格なんてない。
自分を偽り、今までラインハルザ様を騙していたわたくしには、ラインハルザ様の幸せを阻む資格なんてない。
ラインハルザ様の幸せを思うなら身を…………、引ける訳もなかった。
その夜、わたくしはラインハルザ様の寝所に夜襲を掛けた。