第十話
小鳥の鳴き声で目を覚ましたわたくしは、自分の状況に肝が冷えていた。
目が覚めると、朝だったのだから。
慌てて周囲に意識を向けると、だまラインハルザ様は帰ってきていないことが分かったわたくしは、急いで自室に飛び込んでいた。
別に姿を見られても術の効果で、お義兄様と思われるだけですが、ここまで鎧姿を通した今では、生身の姿を晒すのが怖くなっていたこともあり、わたくしは慌ててしまっていたの。
わたくしがドキドキする胸を押さえていると、部屋の扉が開く音が聞こえた。
ラインハルザ様が帰ってきたのだ。
間一髪のところで目を覚ました自分を褒めながら、いつもの鎧に身を包み何食わぬ顔で自室を出てラインハルザ様を出迎えた。
帰ってきたラインハルザ様は、目の下にクマを作っていたけどなんだか清々しい顔をしていた。
何かあったのかと思い声をかけると、嬉しそうな声が返ってきたのだ。
「ハルザ?何かいいことでもあった?」
「ああ。ヴィー。おはよう。ああ。俺、決めたよ」
「何を?」
「秘密だ」
そう言って、明るく笑うラインハルザ様は、とても眩しくて心臓が痛いくらいに高鳴った。
それからというもの、何故かわたくしがラインハルザ様を甘やかそうとすると、ラインハルザ様はそれを嫌がるようになったというか、逆にわたくしを甘やかそうとするようになったのよね。
ある時、ソファーに座るラインハルザ様をいつものように抱っこしようとしたら、逆に抱っこされそうになったの。
でも、鎧の重さのお陰で抱き上げられることはなかったけど。
よく分からないけど、前以上にラインハルザ様とくっつけることが嬉しいわたくしは深く考えずに、その幸福な時間を味わい尽くすことに決めたの。
そして、2年最後の試験の時、わたくしは盛大な我を通していた。
本来、2年最後の試験は、将来のパートナーを決めるため、剣士科と魔術師科の生徒でペアを組み挑むところを、わたくしは「魔術も剣術以上に使える。僕はハルザと組む。それ以外とはあり得ない」と言って、実際に魔術を教師たちに見せつけて無理やり納得させたのだ。
そんなわたくしにラインハルザ様は、呆れたようだったけど、何も言わずに一緒に試験を受けてくれたのだ。
これって、脈ありだと考えてもいいのかしら?
と、お花畑なことを考えた後に、ガクりと項垂れることになった。
だって、ラインハルザ様は、わたくしのことお義兄様だと思っている訳で……。
そうなると、脈があるのはお義兄様……?
くっ!くそ義兄……、じゃなくて忌々しいお義兄様ですこと。
とにかく、異例に異例を重ねたわたくしは、試験を無事突破しラインハルザ様のパートナーの座を獲得したの。
その後、騎士学校を卒業した後は、そのままラインハルザ様と王国の騎士団に入団した。
そこでも、パートナーとして共に行動して過ごしたわ。
とても幸せだった。
人生で一番幸せな時だったと思えるくらい。
だけど、人生そこまで甘くなかった。
二年ほど騎士団で過ごした時、ラインハルザ様のお父様であるリンドブルム侯爵様が急逝した。