異世界転生なんぞ糞食らえ
「生きてるだけで丸儲け」
そう宣ったのはどこぞの有名人だっただろうか。もう昔の世界に俗に言う「異世界転生」を果たしてから一体何年が経っただろうか。俺は昔、事故で死んだ。バイクに乗り飲酒運転していた世間から見る「不良」に跳ねられ、その後放置され路傍で失血死したのだ。血が床を赤く広く染めつつある時、こう思った。「ああ。理不尽な死に方をした。信仰深い方では無かったが、そうだな。流行りの異世界転生とやらで幸せな毎日を送れたらいいな。」
...甘かった。異世界転生なんぞ現実に絶望したものが頭の中で描く理想郷だったのだ。異世界転生は、果たしたのだが。そこにあるのは今まで生きてきた現実よりも過酷な毎日だった。これが俺の、手稿となるプロローグだ。
朝、5時に起き、生きる為に仕事を探す。寝るベッドすらもなく、藁屋の床で眠り、腰を痛めた最悪な朝が来る。「異世界転生」というように、俗に言う前世のRPGの世界観ではあるが、ギルド、クエスト、ダンジョン、様々に全てが用意されていた。チュートリアルのようなものはなく、ただ生きる為に世界に順応する。生前、美しい女神とハーレムライフ、世界で一番俺が強い、などと言った夢物語を謁見したことがあったが、とんでもない。ただの理想郷だ。さて、今日の仕事は、エルフと呼ばれる耳のとんがった種族の殴られ屋だ。俺の体を一発殴るたびに、10ルピー。ルピーとは、この世界でいうお金である。10ルピーは、前世でいうところの、5円程度。これを一日中、死なない程度に請け負う。俺は怒りや痛みなどとうの昔に捨て去った故、殴られても何も感じなかった。そして22時、ようやく仕事が終わった。今日の報酬は、合計500ルピー。計50回殴られたことになる。50回殴られ、前世で言うたったの250円。この世界では、ようやく一食安飯が食べられるようなものだ。そして俺は酒場に行き、脂肉ばかりの焼き豚と安酒を飲む。エルフのウエイトレスは、ゴミを見る目で料理と酒を出し、背を向けて定位置に走り去る。このやり取りも、もう慣れてしまった。毎日がこれだ。汚れ仕事を請負い、安い賃金を貰い、安酒に溺れる。最初の方は「異世界転生なんぞ糞食らえ」と思っていたが...まあいい。考えても事態が好転するわけでもないのだから、さっさと藁屋の床に戻ろう。そう思い、俺は千鳥足で店を出て、藁屋の床に倒れこむのだった。