17.謎の少年1
捕らえられていたけれど、肌も瞳も艶々していて、元気そうでほっとする。
「どこから来たの」
「遠く。ボク、この国の人間じゃないんだ」
(『ボク』?)
とても可愛らしい子だったので、性別不明だった。
小さな頃のメルをちょっと思い出す。
一応、念のため、確認する。
「……あなたは男の子なのかしら?」
「そうだよ」
天使のように可愛らしい子は、きゅっとクリスティンの手を握る。
「ボク、この国にきて、力をいっぱいいっぱい使っちゃって、戻れなかったの……。それであの男たちに、捕まっちゃったの……」
クリスティンをじっと見る。
「ボクをあなたのところに置いて」
帰る場所がないのなら、父に頼み、公爵家で引き取ろうか。
「ええ。どこへ行くか決まるまで、家にいらっしゃい。わたくしの名は、クリスティンというの」
男の子はもう片方の手も添え、クリスティンの手を両手で掴む。
「クリスティン。ボクと契約しよ?」
「? 契約?」
「うん。ボクの主になって。あなたが傍にいると、ボクの力強くなる」
屋敷に来るという意思表示だろうか。
「ね、いいでしょ、クリスティン?」
「ええと……。あなたを引き取るのはよいのだけれど……主というのはどういうこと?」
「クリスティン様!」
そのとき、クリスティンは自分を呼ぶ声に気付いた。
(メルだわ)
突然消えてしまったので、心配して捜しているのに違いない。
クリスティンはその子と手を繋ぎながら、移動した。
すると辺りを見回し、必死に捜しているメルの姿がみえた。
「クリスティン様!」
彼はこちらまで駆けてくる。
「一体、どうしてこんなところに!? あなたの特徴を通行人に話し、この道に進んだと聞いたときは、まさかと思ったのですが……ここは貧民窟です!」
「その……色々あって。ごめんなさいね。突然いなくなってしまって」
声に導かれて、廃墟に行った。
でも広場まで届くはずはない。
一体なんだったのだろう?
実際、捕らわれた子供がいたのだが。
(不思議)
少年が閉じ込められていた部屋の扉は吹き飛んだし。
「メル、広場にいた迷子は?」
「捜していた母親がすぐに見つかり、泣き止んで母親と帰りました」
「そう。良かったわ」
「……その子供は?」
クリスティンの後ろに隠れている子をメルは訝しげに見下ろす。
男の子は恥ずかしそうに、クリスティンの後ろで、ちら、ちらとメルを見ていた。
(……どうしたのかしら……恥ずかしがり屋さんなのかしらね)
クリスティンは不審そうにしているメルに向き直った。
「人買いに捕まっていた少年を、今助けたところなの」
「!? どういうことなのですか」
クリスティンが、転がした男たちのところまでメルを連れていき、一部始終を話すと、彼は眉を顰めた。
「声が聞こえて……? よくわかりませんが……。広場を離れる前に、なぜ一言私に話してくれなかったのです?」
「話すべきだったのだけれど、その余裕もないくらい、急がなくては、と強い切迫感を覚えてしまったの」
「お願いですから、お一人で行動なさらないでください」
「ええ」
何も告げずに消えてしまったのは、いけなかった。
彼は建物を眺める。
「今にも崩れそうです。行きましょう」
クリスティンたちは移動し、警邏隊のもとに向かった。
人買いは捕まり、廃墟はその後すぐ崩れ落ちた。
男の子は、公爵家に預けようと思った。
だが。
「あなたがいるところがいいの」
公爵家に行くまでの道のりで、男の子はクリスティンを仰いで、そう言った。
「わたくし、学園の寮で暮らしているのだけれど」
「そこがいいの」
彼は強く主張する。
「女子寮だ。君が来ることはできない」
メルは渋ったが、陽も暮れるし、とりあえず一旦学園に戻って話し合うことにした。




