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闇の悪役令嬢は愛されすぎる  作者: 葵川 真衣
第二章

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3.攻略対象は


「お兄様」

「スウィジン様」


 立ち止まれば、スウィジンは柔らかく微笑んだ。


「ちょうど良かった。メルに使いを頼みたくてねえ」

 

 嫌な予感がし、クリスティンは目が据わった。


「メルはわたくしの近侍ですわ。メルに用事を頼むのはおやめください」


 スウィジンは口角を上げる。


「でもねえ。メルはおまえの近侍である前に、公爵家に仕えているんだ。公爵家の跡取りである僕の言葉には従ってもらわないとねえ?」

「お兄様──!」

 

 反論しようとするクリスティンをメルが目線で止めた。


「スウィジン様、どういった御用でしょうか?」


 スウィジンは片目を細めた。


「うん、ちょっとね、屋敷に取りに行ってもらいたいものがあるんだよ。この間の休みに忘れてきてしまった本なんだけどね。急いで今すぐ取ってきてよ」

「かしこまりました」

「急いで今すぐ? お兄様、本当にそんな至急に必要な本なんですの?」

「ああ。僕はすぐに読みたい。だから、至急だよね」

「別に今すぐでなくても良いでしょう? これから午後の授業があるんです」

「いえ、クリスティン様。次の授業は自習ですから、支障ありません」

「でも、メル」 

「今すぐ取って参ります」

「流石、メルは優秀だ! クリスティンの信頼も厚くてねえ? ははは」


 スウィジンは嫌味たらしく言う。

 メルはスウィジンから、本のタイトルと場所を聞き、屋敷へと向かった。

 クリスティンは、きっ、とスウィジンを睨んだ。


「お兄様っ!」

「な、何だい、クリスティン?」


 吊り上がり気味の瞳で、怒りをこめて鋭く睨めば、さすがに腹黒の兄もたじろいだ。


「それほど必要なら、ご自分で取りに行けばよろしいじゃないですか! メルをこき使うような真似をなさらないで!」

「こき使ってなんかいやしないよ? メルは使用人だ、僕の命に従うのは当然じゃあないか?」

「当然なんかじゃありません! メルは──」


 隣国の皇太子だ。

 しかしそのことは、今は秘密にとメルから言われている。クリスティンはきゅっと唇を引き結んだ。


「クリスティン?」

 

 公爵家にメルは仕えている。その子息のスウィジンに逆らうことはできない。

 が、特に急ぎでなさそうなのに、学園から屋敷にわざわざ取りに行くよう命じるなんてひどい。

 ただの嫌がらせではないか。


 クリスティンの立ち上るような怒気に、スウィジンは後ずさった。

 じゃあね、と言って兄はその場からそそくさと立ち去る。

 

 最近──メルに対する風当たりが強い……。


(……お兄様だけではないわ。生徒会の皆がそう……)


 今までは気さくにメルと会話していたのに、近頃はほとんど無視か、メルに用事を言いつけてくる。

 メルは全く気にしておらず、それどころか、毎日、機嫌が良い。

 しかしクリスティンは、生徒会メンバーの態度にムカムカする。

 

 メルのことを好きだと話してからそうなった。


(言わなければよかったのかしら)

 

 特定の相手が皆にはおらず、恋をするクリスティンを妬み、女である自分ではなくメルのほうに怒りが向き、きつく当たっているのか。

 とんでもない人たちだと、クリスティンは憎しみを覚えた。

 

 ゲームの攻略対象は、敵である!




◇◇◇◇◇




「魔力の強い術者は、異空間を作れる。その中では平衡感覚を失い──。どうした、クリスティン。元気がないじゃないか」


 ラムゼイ・エヴァットが、本からこちらに視線を流した。

 その日、クリスティンは魔術の指南を受けるため、ラムゼイの元に来ていた。

 銀髪に、灰色にもみえる青の冷たい瞳をしたラムゼイは、氷の貴公子と呼ばれる美男子だ。


「まあ、大体の理由はわかるがな……」


 彼は本を机にばさりと置き、椅子に腰かけた。

 生徒会室のある校舎一階に、彼専用の研究室がある。

 貴族社会で、ファネル公爵家と権力を二分するエヴァット公爵家の嫡男なので、彼は特別扱いされていた。

 

 クリスティンは怒りをかみしめる。


「皆様、メルにきつく当たっている気がします……」

 

 が、ラムゼイはまだマシだ。

 態度は、以前とそれほど変わらない。

 というか彼は元々冷血人間なのである。


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