1.あらたな校則
夕陽が差し込む、放課後の生徒会室。
「諸君!」
金の髪に、サファイア色の瞳をしたアドレー・リューファスが、高らかに宣言した。
「今日は男女交際について、話し合いたい!」
アドレーは王立魔術学園の三年生、生徒会長だ。
リューファス王国のきらきらしい王太子で、クリスティンの元、婚約者である。
「学園は学業を修めるところだ、男女が交際する場ではない! 違うか!?」
アドレーは、生徒会のメンバー一人一人を見回す。
「違わない」
冷たい美貌のラムゼイが、椅子の背に腕をかけ、半ば面倒くさそうに答えた。
「男女交際の場ではない、ええ、その通りですよ、殿下!」
クリスティンの義兄スウィジンが深く頷く。
「そうです! 色恋にうつつを抜かすと、風紀が乱れるし!」
魔術剣士のリーも、強く賛同した。
四人は、何やら一致団結している……。
生徒会メンバーは前年と同じで、彼らのほか、クリスティン、隣国皇子ルーカスが所属している。
メルはクリスティンの近侍として、いつも付き従ってくれている。
アドレーは勢いづいた。
「そう、我々はまだ学生なんだ! 学業に専念すべきだ。他生徒の模範となるべき生徒会役員が、男女交際などしている場合ではないだろう!? 禁止にしよう、男女交際を!」
「どうでもいいが、どちらかといえば、おまえの意見に賛成だ」
「異議なしです」
「殿下、たまにはよいこと言います!」
「リー、私はいつも、有意義な発言をしている、たまにとは何だ!」
ラムゼイ、スウィジン、リーが男女交際禁止に賛成し、クリスティンとルーカスは皆の勢いに引き気味、メルは無言だった。
「では多数決により、決定だ!」
──王太子の強権発動で、学園にあらたに男女交際禁止の校則ができた──。
◇◇◇◇◇
最近、ゲームの攻略対象の様子がおかしい。
クリスティンはメルと昼食を摂りながら、近頃の皆の異様さを思い、溜息をつく。
この春、進級し、魔術学園の二年生となった。
メルと想いを通わせたクリスティンだが、話し合い、卒業までここに留まることにした。
二人の関係も周囲に内緒にすることになった。
クリスティンとしては、今すぐにでもメルと国を出る覚悟だったのだが、彼は先日こう言ったのだ。
「二年間よく考えてください」
クリスティンは首を傾げた。
「どうして? わたくしのこの気持ちは、変わったりしないわよ。二年後でも今でも同じなのに……」
「お気持ちを疑っているのではありません。後悔のないようにしていただきたいからです。一生のことです。帝国に行けば、簡単にこの国に戻ることはできなくなるでしょう。皇太子妃として、縛られることも多くあるはずです。クリスティン様に無理を強いてしまうなら、私はむしろ使用人でいたいと思います。あなたのお傍にいられれば、それが何よりの幸せですから」
「メル……」
「卒業までどうかよくお考えください」
メルは、帝国に戻るかどうか、二年後に返事をすると帝国側に連絡をした。
皇太子という身分を知るのは、この王国においてはクリスティン、ルーカス、ソニアの三人だけである。
ソニアは今、聖女の使命により聖地に赴いていて、数ヵ月は、首都に戻らない。
今すぐにでも、メルと結婚をしたいというのが、クリスティンの正直な気持ちだ。
好き合っているのに、主従という今の状態でいなければならないなんて。
が、情熱のまま突っ走るより、考える時間があったほうが、メルにとっていいとクリスティンは思い、了承した。
昼食を食べ終え、クリスティンは隣のメルをじっと見つめた。
光を弾くプラチナブロンドの髪に、濃い紺の双眸、高く細い鼻梁、甘やかな唇、綺麗なフェイスライン。
どの角度から見てもとても整っていて、見惚れてしまう。
彼は瞬いた。
「クリスティン様?」
ここにはひとけがない。秘密の訓練場で二人だけでお昼を摂っていた。
寮は別々。今は二人だけで過ごせる貴重な時間である。
クリスティンは彼の指を摘まんだ。
「クリスティン様……」
メルは目を僅かに見開き、クリスティンの手を握りしめた。
互いに近づき──。
「……いけません」
しかし彼はそう言って、耳を赤くして俯いた。




