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闇の悪役令嬢は愛されすぎる  作者: 葵川 真衣
 

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番外編 二人の風邪2


 クリスティンは丁重に断ったのだが、押し切られ、寮まで送られてしまった。

 少々時間をロスした。

 もどかしく思いながらアドレーに挨拶をして別れ、急いで最上階に行く。

 

「メル、起きているかしら」


 仕切りの扉を小さくノックすると、返答があった。

 

「起きています」

「入るわね?」

「はい、どうぞ」


 クリスティンは、扉を開け、彼のいる寝台に駆け寄る。


「体調はどうかしら……」

「大丈夫です、クリスティン様」


 だが、その言葉を鵜呑みにはできない。

 試しに彼の額に手を置けば、朝より体温が高くなっているではないか!

 

「熱が上がっているじゃないの……!」


 クリスティンは激しいショックを受けた。


「横になっていれば、明日には治りますよ」


(医師は風邪だと言っていたけれど、本当にただの風邪なわけなの……っ?)


 すこぶる不安だ。

 彼を置いて、登校したことが深く悔やまれる。


「……わたくし、あなたが良くなるまで、傍にいるわ」


 すると彼は慌てた。


「いけません。うつってしまいます」

「ひとにうつしたら、早く治ると言うじゃない?」

「クリスティン様にうつしてしまえば、私は申し訳が立ちません」


 クリスティンは両手を腰にあてる。


「登校はしたわ。あなたが熱を出しているのに、呑気に過ごしてなんていられないもの。看病はします」


 有無を言わさず宣言すれば、メルは諦めたように嘆息した。


「……わかりました……ではお願いできますか……?」

「ええ!」


 クリスティンは彼の夕食を作りに、調理室へと向かった。

 食べやすく、消化によい、おかゆとスープを作る。フルーツを切り、横の皿に並べた。

 トレイに載せて部屋に戻れば、彼は寝台から身を起こし、頭を下げた。


「すみません、クリスティン様。わざわざ作っていただいて……」

「気にしないで。日頃はわたくしがあなたの世話になっているのだから」


 寝台脇の椅子に腰を下ろし、掬ったおかゆを彼の口元に運ぶ。

 反応をみていると、彼は頬を綻ばせた。

 

「卵がふんわりしていて、優しい味で、適度に塩味がきいていて、とても美味しいです」

「よかった」


 孤島送りになった場合に備え、メルに学び、料理の腕は上がったのだ。

 食事を終え、後片付けをし、クリスティンは盥を持ってきた。


「じゃ、今度はあなたの身体を拭くわね」

「え」


 メルの動きが止まる。


「上半身だけでも汗を拭ったら、すっきりするでしょう?」


 彼は目に見えて焦った。


「そこまでしていただくわけにはまいりません!」

「遠慮なんてしないで」


 クリスティンは腕まくりして、盥の水に布を浸す。


「脱げなければ、手伝うけれど?」


 彼はクリスティンの様子を窺う。


「……どうしてもなのですか?」

「そうよ」


 クリスティンが当然とばかりに頷けば、メルは静かに目を伏せた。

 

「……わかりました……脱ぎます」


 彼は両手をクロスさせ、着ていたシャツを脱いだ。

 逞しい身体が露わになり、クリスティンはどきりとしてしまう。


 顔だけみれば、美少女で通るが、意外なほど強靭な筋肉がつき、引き締まっている。野生の美しい獣を思わせ、男性的だ。


「…………」


 クリスティンは動揺した。何をしようとしていたのか、一瞬忘れてしまった。


(どうして彼に脱ぐように言ったのだった……?)


 ──そう、彼の汗を拭おうと思ったのだ。


「…………。ええと……。では拭きます。まず背中を……」

「お願いします」


 後ろを向いた彼の背に、布をそっと当てた。

 滑らかな肌だ。肩幅は広く、彫刻のように均整がとれている。

 彼の背には蔓のようなアザがある。

 見惚れてしまいながら、首筋、背、腕など後ろ側をどうにか拭き終えた。

 

「じゃ、次はこちらを向いてくれるかしら?」

「はい」


 彼はクリスティンのほうに向き直った。

 もう一度布を水に浸して絞り、彼の厚い胸板に置く。

 

(どうしましょう……とてつもなく、どきどきしてしまうわ……)


 心臓が跳ねあがる。

 

 ──無心に。無心になろう──。

 

 視線を感じ、彼を見ると、メルがこちらをじっと見つめていた。

 熱のためか、いつもより表情が艶っぽい。


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