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闇の悪役令嬢は愛されすぎる  作者: 葵川 真衣
光の王太子殿下は不憫すぎる

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6.君との時間


 アドレーが唖然とすると、リーの隣でスウィジンが胡散臭い笑みを浮かべる。


「殿下、次は僕が妹に歌を教え、リーが剣術を教えます。それが終わったあと、皆で話をしましょう。きっと楽しいですよ。時間はたっぷりあります。僕たちも泊まりますから」

「待て! おまえたち、ここに勝手に来た上に、泊まる気か!?」

「はい!」

「そうですよ」


 笑顔で当然とばかりに返す彼らに、アドレーは、苛立って眩暈がした。


(な……なんと邪魔な男らだ……っ!)

 

 

 

 ──結局、彼らも王宮に泊まり、翌朝皆で朝食を摂った。


(二人で過ごしたくて、彼女を呼んだというのに……)


 アドレーはもどかしく、焦れた。

 なんとか気を取り直し、クリスティンを誘う。


「クリスティン。ダンスのレッスン後、二人で湖まで行こう。馬に乗って」


 以前は、彼女は身体が弱かったが今は違う。

 乗馬も大丈夫だろう。


「……え? アドレー様と二人で……」


 クリスティンの声が、恐れるように固くなる。

 アドレーは更なるショックを受けた。


「私と二人では嫌だろうか……」

「いえ、嫌とかそういうことではありませんわ……」


 彼女は続いて呟いた。


「──アドレー様と過ごしていると、未来のことを思い、生きた心地がしない……けれど、ゲームの攻略対象が何人もいるこの状況より良いわ……」

「?」


 ゲームが、なんとか聞こえたが。


「何て?」

「い、いえ。なんでも。おほほ。はい、湖までご一緒します」




 それで、アドレーは朝のダンスのレッスンをした後、クリスティンと二人で、森にある湖まで、馬で駆けた。


 ようやく、邪魔されずに二人きりになれる!


 同行しようとする、メルを含め護衛は全力で退けた。

 メルはひどく渋ったが、王太子として命じた。

 自分も腕に覚えがある。そう遠出するわけではないし、日が暮れるまでに王宮に戻る、危険などない。

 

 

 木々が生い茂った森の中の湖は、辺りの景色を映し、陽光を受け煌めいていた。


「まるで宝石を散りばめたよう……。きらきらしていますわ」

 

 馬から降り、クリスティンは笑顔をみせた。その表情をアドレーは美しいと思う。


「とても綺麗だ」

「本当、素晴らしい景色ですわ」

「君のことだよ、私が綺麗だと言ったのは」

「え」


 間近で視線を交わす。


「君とようやく二人きりになれて、嬉しい。君と過ごす時間が一番好きだ」


 彼女の髪に掬い取れば、彼女の瞳はみるみる色を失っていった。


「……クリスティン? どうした?」


 クリスティンは冷や汗を浮かべながら口を開く。


「そういったことは違うかたに、本当に想うかたに、どうぞおっしゃってくださいませ、アドレー様」

「違うかたって……。私に他に想う相手がいるようじゃないか。そんな相手などいないよ。婚約者である君以外に言うほうがおかしいだろう。私は不誠実な男ではない」

「ですから今後……」

「私は君を大切にしたい。君以外、誰も見ていないよ。でも君は全くわかってくれない。以前は、君も私を慕ってくれていたように思うんだが」

 

 クリスティンは視線を彷徨わせた。


「お慕いしておりました……。アドレー様は王国の全女性の憧れです。婚約が決まる前から、その後も。ずっとお慕いしておりました……だからこそ……」


 よく見れば、彼女は震えていた。

 一体、何に怯えているのだろう……。


「ではなぜ? 万一『花冠の聖女』が現れたとしても、目移りしない。誓うよ」

「誓いなど、必要ないですわ!」


 クリスティンはぴしゃりと言う。


「……どうして?」


 彼女はふうと淡い息を零す。


「真面目なアドレー様ご自身が、苦しまれることになるかもしれません。誓いなど、全く必要ありません。アドレー様はわたくしには過ぎたお相手ですし、アドレー様を想っても……。わたくしもう諦めております。すぐに身を引きます。ですから、断罪などはどうか……」

「クリスティン、一体……何を言っているの? 時々、君の言っていることが私は理解できないよ。なぜ、正式な婚約者である君が身を引かなくてはならないんだ。私の気持ちは君にこそあるんだ。今後もずっとだ。だからそんな気弱なことばかり言わないでくれ。哀しくなってしまうよ」


 クリスティンはアドレーの言葉を聞いているのかいないのか、ぶつぶつ呟いている。


「……惨殺も……孤島送りも回避したいわ……」


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