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闇の悪役令嬢は愛されすぎる  作者: 葵川 真衣
第一章

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48/116

48.告白2


「治療のときも、焦げるような気持ちで、あなたに触れていました……。申し訳ありません……」


 恥じるように俯いたメルの手に、クリスティンは自分の手を重ねた。

 彼は顔を上げる。


「クリスティン様……」

「あなたと口づけをしているとき、わたくし、その甘さを味わっていたわ……」

「治療としてではなく、あなたに触れても……?」

 

 頷くと、彼はクリスティンの顎に指を添え、頬を傾け唇にキスをした。

 優しく触れるだけの口づけを解き、メルは艶やかに光る双眸で、クリスティンを見つめた。

 

「クリスティン様……ドレスが濡れてしまいます……私は先程噴水におちたので……」

「わたくしはあなたにもっと近づきたい」

 

 次の瞬間、息も止まるほど抱きしめられ激しく口づけられた。抉るように口内を探られる。

 治療でしていた口づけとは違う、情熱のこもったキスだった。

 

 ──すると、その場に足音が響いた。


 クリスティンは膝が震え、腰が砕けて、動けない。


(どうしよう)


「……隠れて。人影が立ち去るまで」


 クリスティンが言い、メルが木の裏側に移動するのと、ひとつの声が聞こえたのが同時だった。


「クリスティン?」


 クリスティンはそちらに視線を向けた。


「ルーカス様」


 木々の間から現れたのは物静かで気品あふれるルーカスだった。


「こんなところで、どうした?」


 彼は繊細な眉を寄せる。

 木の裏にメルが隠れたことには気づいていないようだ。

 ルーカスがこちらに来ようとするので、クリスティンは手を前に突き出して必死でそれを止めた。


「ルーカス様、わたくし、一人で涼んでいたいのです」

「顔が赤いようだけど……」

「ええ。アルコールを飲んで、暑くて。ルーカス様は、どうしてこちらに」


(誰もこないような場所なのに)


「大広間にいても仕方ないから、庭を歩いていたんだ。君とアドレーの婚約を祝うような夜会になど、いても楽しくないから」

「え?」

 

 ルーカスは横を向いた。


「……いや。この庭は美しいから、ずっと歩いていたら迷ってしまって。クリスティン、体調が悪いのか?」

「ええ少し。それでここで涼んでいるのです。ルーカス様ここから──」

「大丈夫か」


 彼はクリスティンの傍まで近寄ってくる。

 木の後ろには噴水におちて上半身裸のメルがいるのに。クリスティンは俯いた。


「クリスティン……?」


 美しい眉目のルーカスは喉を上下に動かし、クリスティンを見ていた。


「ルーカス様……?」


 彼は視線を彷徨わせ、クリスティンの胸元へと指先を向ける。


「ドレス」


 ──ドレスが少々着崩れている。

 焦ってクリスティンは直そうとする。

 しかし腰は砕けているし、メルのことを気づかれたらと動揺し、震えうまくいかない。


「俺が直そう」 

 

 ルーカスはそう言って、頬を紅潮させ、そのまま固まってしまった。


「──俺がこの間読んだ本に、異性の『風』術者が『星』術者の心臓の上に手を置き解し、唇を合わせれば、『星』術者の体力が快復するとあった。君は『星』で俺は『風』」


 それはそうだが……それがどうしたのだろう。


「俺は君のことを……好きだった。アドレーに渡したくはない」


 彼が更に近づいてきて、クリスティンは後ずさった。


「ルーカス様?」

「本の内容を試そう」


(試す?)


 クリスティンは青ざめた。


「何をおっしゃっているのです。こんなところに、こうして二人でいれば誤解されますし、あなたもお困りになるでしょう。わたくしの体調を案じたメルが薬を持ってここにまいります。今すぐ大広間にお戻りください」

「困らない。君は以前アドレーの婚約者だったが、今は正式に婚約してはいない。クリスティン、俺とギールッツ帝国に来てくれ。俺と結婚してほしい」

 

 クリスティンは唖然とする。


「君をずっとみていた。好きだったんだ」


 ルーカスはクリスティンの肩に手をのせる。


「俺と君は風と星。相性がいい。俺が君に触れ、口づければ、きっと君の体力は快復する。それを今、証明──」


 言葉の途中で、ルーカスは横に吹き飛ばされた。

 木の後ろから出てきたメルが、ルーカスを殴ったのである。


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