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闇の悪役令嬢は愛されすぎる  作者: 葵川 真衣
第一章

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41.麗しいひと



※※※※※



 ソニアは校舎裏を出て寮へ向かいながら、手で顔を覆った。


(どうしよう……。クリスティン様に抱き着き、キスをねだってしまった!)


 クリスティンはソニアの憧れのひとだ。

 入学式の日、講堂でぶつかってしまった時から、クリスティンは優しかった。



 ──ソニアは寒村で育った。

 偶然村を通りかかった王都の役人が、ソニアに『光』の魔力があることを知り、法で定められているからと学園に入学するよう命じた。

 王都に来たことはなかったし、貴族の子女ばかりが集まる学園で新生活を送ることを、ソニアは心細く感じていた。

 


 入学式の日、極度の緊張できょときょとしていたら、クリスティンに体当たりしてしまった。

 彼女はソニアを気遣ってくれた。

 すらりと背が高く、凛と美しいクリスティンに、ソニアは目を奪われてしまった。

 貴族のなかの貴族という気高さをその身に纏わせながらも、親しみやすさのある笑顔と物腰。

 同じクラスになれて、ソニアは神に感謝した。


 講堂で同様にぶつかってしまった、フレッド・エイリングともクラスが一緒だった。

 フレッドとは、すぐに友達になった。本の虫で、親切な少年だ。

 彼から聞いた話によれば、クリスティンは王太子の婚約者で、国でも一、二の大貴族のご令嬢らしい。

 自分とは別世界の人間だ。学園でクリスティンは男女問わず人気の、憧れのマドンナだった。

 彼女に近づきたいと思う人間は沢山いて、クリスティンのファンクラブは王太子より多い。

 

 けれど孤高のごとく、誰も寄せ付けずに、彼女が傍に置くのは近侍のメルのみだった。

 抜け駆けする者がでないよう、皆威嚇し合っていて、親しくなりたいと思いつつ、ソニアも近づけなかった。

 

 だが一度忘れ物をしてしまった際、クリスティンが届けてくれたのだ。

 ソニアは歓喜した。

 忘れ物をすると、あの美しいひとはソニアの物を持ってきて、渡してくれる。

 それに気づいてしまったソニアは、わざと忘れ物をした。

 

 クリスティンはいつもソニアをさりげなく助けてくれる。

 自惚れかもしれないが、見守ってくれている気がした。

 学園で心細い思いをしていたソニアの心をクリスティンが救ってくれていた。

 毎日、クリスティンのことを考えていた。

 

 麗しい姿をうっとり眺め、よく通る涼やかな声に痺れ、四六時中どきどき胸を高鳴らせていて、気づいた。

 

 自分が彼女に恋をしていることに。

 

 女性に恋をするなんて、今まで想像したこともなかった。

 性別を超越した魅力を彼女はもっていたのだ。

 家柄、容姿、運動神経、成績、すべて抜群によく、性格も優しく、クリスティンは非常に魅力的だった。

 けれど時折ふっと、気だるく厭世的な翳りの表情をみせるのである。

 なぜなのだろう。すべてをその手にしているのに。

 

 それが気にかかり、更にソニアは彼女に激しく惹きつけられた。

 クリスティンの婚約相手である王子を筆頭として、生徒会役員の少年達は皆人気が高かったが、ソニアはその誰にも、惹かれなかった。

 学園内で偶然彼らと顔を合わし、話をする機会があったのだが、彼らより、クリスティンのほうがよほど魅力的だ。比べようもなかった。

 

 手の届かない星のような存在。想いを遂げることはできないだろう。

 でも、いつかもし気持ちを告げることができたら……。

 

 ソニアは花祭りの日、クリスティンへの想いを綴るレターセットを探しに街を歩いた。

 出すあてのない手紙。ただ抱えているのも辛く、渡せなくてもせめて、したためようと思ったのだ。

 大きな花屋のある路地に、可愛い雑貨屋があると女子生徒が噂しているのを耳にしたことがあった。

 細くわかりにくい道沿いにあるが、とても可愛らしく良いものが置いてあると。

 

 ソニアはその店を見つけ、便箋と封筒を購入した。

 弾むような気持ちで店を出、買ったものを眺めていると、大通りに出る道とは逆に進んでしまったのだ。

 道に迷ったことに気づき、引き返そうとしたが、柄の悪い男たちに囲まれて建物の中に引きずりこまれた。

 

 このまま自分は、むさくるしい男たちにいいようにされてしまうのか。

 絶望し、泣いているとそこに、一人の人物が現れたのだ。

 仮面をかぶった、すらりとした人が颯爽と。

 

 線が細く、美しい声の少年で、彼は俊敏に動き、あっという間に二人の男をのしてしまった。

 舞うように華麗でしなやかな動き。

 ソニアは状況を忘れて、胸をときめかせ、見惚れてしまった。

 少年は大男に向き合い、ソニアに逃げるようにと告げた。

 それで建物の外に出た。自分がいても役に立てないどころか、邪魔になる。

 

 しかし心配だしそのひとが気になって、外で立ち尽くしていると、助けてくれた少年が出てきた。

 彼はソニアの手を取り、大通りまで連れていってくれた。

 

 今まで、ソニアはクリスティンに恋をしてきたが、そのひとに同じくらいの強さで惹かれてしまった。

 名乗ることなく、少年は姿を消したが、ソニアはしばらくその場でぼうっとしていた。

 仮面をしていても、口元や顎のラインから美しい顔立ちであることがみてとれた。

 優雅でありながら力強い身のこなしで。

 

 学園に戻ってからも、クリスティンを想いつつ、そのひとのことを考えていた。

 もう二度と会うことはできないだろう。

 そんな折、ソニアは女子生徒に呼び出されて、制服をナイフで切られた。

 今まで嫌がらせをされることはあったが、刃物で切り付けられたのは初めてだった。

 命の危機すら感じた。

 

 するとその場に、なんと花祭りの日、ソニアを助けてくれたひとが再度現れ、ソニアを救ってくれたのだ。

 運命だ、と思った。


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