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闇の悪役令嬢は愛されすぎる  作者: 葵川 真衣
第一章

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38/116

38.覚醒1

 

 ソニアはその後、覚醒した。

 ゲームのどのルートよりも、たぶん早い。

 覚醒は、ヒロインが愛情をその身に強く抱くことにより、慈愛を知り、起きる。

 

 つまり攻略対象と恋をし、それによって覚醒が促され、恋が無償の愛に達したとき、ヒロインは『花冠の聖女』となるのだ。

 ノーマルは、誰ともくっつかないエンド。

 その場合、ヒロインは世界へ愛を抱く。

 

 そのルートに入っているのだろうか……?

 花祭りには一人で出かけていたし、ノーマルエンドが可能性として最も高い。

 

 だが……ひっかかるのは、覚醒が早すぎる点だ。

 本来ノーマルは覚醒が遅かったはず……。


(今はゲームのどのルートでもない……?)


 ソニアから渡された手紙の内容から、もしかしてとは思うが……クリスティンに愛を抱いて覚醒──?

 血の気が引いた。


(いえ、まさか、そんなことはないはずよ……)


 気にかかる点はあるが、きっとこれはノーマルなのだろう……。


 また、一番の懸念事項は、悪役令嬢の断罪イベントである。


(ノーマルエンドでも存在するから……孤島送り……)


 惨殺よりマシだが、孤島送りも辛い。

 それにまだ惨殺の危機がなくなったともいえない。



◇◇◇◇◇



 ソニアが『花冠の聖女』であることが判明してから、彼女を見る周りの目は百八十度変わった。

 それまで平民と蔑んでいた者たちは、掌を返し、普通の人間とは違うと思っていた、神々しさがあったと口々に言い始め、彼女は憧憬の対象となったのである。

 ソニアは慢心することはなく、今までと同じ態度で学園生活を送っている。

 

 だが、クリスティンに手紙を差し出したあとから、いつもしていた忘れ物をしないようになった。



◇◇◇◇◇



 生徒会室に行くと、役員皆集まっていた。

 ソニアはどのルートであれ、今の時期には生徒会入りをしているのだが、所属していない。

 それもゲームとは違う。



「クリスティン、君のいうとおり、『花冠の聖女』が現れたね」


 アドレーがちょっと感心したように眉を上げる。


「驚いたよ」

「ずっと申しておりましたでしょう」

「だが当たったのは、それについてだけだ」


 アドレーはにっこりと笑う。


「外れたこともある。私はその人間に惹かれると君は言った。だが惹かれることは全くなかったよ。メルに聞いて接触を図ったが、可愛らしい少女ではあったけれど、それだけだ」

「いいえ、それだけではありませんわ。彼女は『花冠の聖女』で──」

「クリスティン!」


 アドレーは語気を強める。クリスティンはぱちぱちと瞬いた。


「アドレー様……?」


 彼は生徒会長の机の前に座り、両手を組み合わせた。


「私が言いたいのはね、私の運命の相手は、君ということだ。私は君のほかに誰にも惹かれることはないよ」


 目映い王子の、普通ならうっとりできる口説き文句だが、クリスティンはそうならなかった。

 ただ唖然とするばかりだ。

 生徒会室で、皆がいる前で宣言したものだから、皆、こちらを注目している。


「クリスティン嬢、殿下にこんなに熱烈に愛されて、すげぇな」

「素晴らしいね」

 

 リーとスウィジンは茶化すように明るく言うが、その顔は強張っている。

 何か思うところがあるようだ。

 メルは目線を伏せて俯き、ラムゼイは不機嫌に眉を寄せ、ルーカスは窓辺からこちらをじっと見ている。


「アドレー様……」


 クリスティンは、父から知らされたことを口にした。


「『花冠の聖女』とアドレー様との結婚話が出ていると、父から聞きましたけれど」

 

 するとアドレーの顔色が変わる。


「クリスティン、それは……」

「そういえば、そうらしいですねえ。僕も聞きましたよ、殿下」


 スウィジンが言い、ラムゼイが頷いた。


「オレも聞いた。どうするんだ、アドレー」


 アドレーは忌々しそうに、天井を仰ぐ。


「話があるだけだ。私の結婚相手はクリスティン以外ない」


 クリスティンとしては穏便な形で、アドレーと自分との婚約がさっさと流れてくれることを願っている。

 恐ろしい夜会前に。


「わたくし、アドレー様は『花冠の聖女』とご結婚なさるべきだと思いますわ」

「いいや」

 

 アドレーはかぶりを振る。


「私はクリスティン、君と結婚をする」



◇◇◇◇◇



 ──が、数ヵ月後、クリスティンとアドレーの婚約は一旦、白紙に戻ったのだった。

 クリスティンは歓喜した。


(やったわ、穏便に婚約が流れたわ!!)


 スウィジンからそれを聞き、寮に知らせに来てくれたメルの手を取って、思わずクリスティンは飛び跳ねてしまった。


「メル、今までの苦労が報われたわよ!」


 彼はくすっと苦笑する。


「アドレー様との婚約が流れて、これだけお喜びになられるのはクリスティン様くらいですよ?」


 しかしその後すぐにアドレーから呼び出しがあり、一旦解消となったが、王に掛け合って、またすぐ婚約すると言われたのだった。

 クリスティンは、がくんと肩をおとす。


(余計なことをしないで、アドレー様ーー!)


 

◇◇◇◇◇



 クリスティンの必死の祈りが通じたのか、事態は動いた。

『花冠の聖女』は王宮に呼ばれ、馬車の事故で亡くなったと思われていた、王女であるとはっきりしたのだ。

 ソニアは国王の亡き兄──先王の娘で、アドレーとは従兄弟だった。

 王家の人間であることが判明し、アドレーとの婚約は間近と噂された。

 

 クリスティンは天にも昇る気持ちだった。

 運命の夜会が開かれる前に、アドレーとソニアが婚約してくれれば、断罪イベントはないはず!

 

 すると、放課後、ソニアに校舎裏へ来てほしいと声をかけられた。


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