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闇の悪役令嬢は愛されすぎる  作者: 葵川 真衣
第一章

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33/116

33.夜の訪れ2


「……唇を合わせるということですよね? それも条件としてあるのでしたら……それをしてもよろしいですか」

「そこまでしてもらうのは。あなたにも悪いし、わたくしも恥ずかしくて仕方ないわ……」

「クリスティン様の体力が快復することです。もし許していただけるなら、私に任せていただきたいです。私と唇を重ねたり、やはり嫌でしょうか」


 クリスティンはメルに向き直る。


「嫌なんてことはない。メルにならいい。他のひとにされるのは考えられないけど」


 メルは瞳を艶やかに光らせた。


「クリスティン様、私ならいいのは、何故ですか……?」

「あなたを信頼しているわ」

 

 クリスティンは彼を見つめる。

 他のどんなひとにも抱いたことのない想い。


(メルのことを……好き……)


 安心できて、惹かれてもいる。

 今まで自分の気持ちに気づいていなかっただけで、前から彼のことをきっと想っていた。


「でもいくら治療の一環とはいえ、わたくしなんだか抵抗感もあって……」


 惹かれている相手に触れられれば、心地よいけれど恥ずかしい。治療だが恋人同士の触れ合いみたいだ。

 

 メルは葛藤するようにクリスティンに視線を返した。


「……クリスティン様が抵抗を覚えるのでしたら、いたしません。体力を快復させるお力になれればと思いますが、逆効果になってしまってもいけませんから」

「逆効果になることはないわ」


 宿屋でも、体調は快復した。あの後、大立ち回りをしたが何も支障はなかった。


「でもそんなことするの嫌ではない? これは継続的にする必要があるって書かれていたし……」

「継続的に……」


 メルは瞠目する。


「……私は私以外の者がクリスティン様にこういうことをするのは、絶対に嫌です。クリスティン様がご不快でなければ、今後も私に任せてください。本に書かれていること以外はいたしません」

 

 考えすぎているのだろうか。

 唇を合わせて触れられ、しかも相手は惹かれていると気付いた彼。

 

 ──治療を施し力になってくれようとしているのだ。

 発作もおさまるかもしれないし、現に宿屋では体調が快復した。

 クリスティンは勇気をふり絞って頷く。


「いい、ですか?」

「ええ……」

 

 メルは瞳に熱を灯らせ、クリスティンの肩に手をのせた。

 綺麗な顔が近づき、クリスティンの唇に彼の唇が擦るように重なった。


 クリスティンの心臓は早鐘を打つ。


(メルと……キスをしている……!)

 

 幼い頃から傍にいて。好きだと自覚した相手。 

 治療の一環だが、ときめいてしまうのをとめられない。


 唇が何度も触れ合う。互いに震えている。クリスティンは涙が滲みそうになる。


「クリスティン様……」


 二人は熱く見つめ合った。


「……ごめんなさい……座ってもいい?」


 立っていられない。


「大丈夫ですか……? ご気分が悪くなったりしませんか?」

「大丈夫……」

 

 クリスティンは寝台の端に座り、彼の指に指を絡める。

 

 彼はもう片方の手でクリスティンの頬にそっと触れた。

 恋をしている相手と口づけ、身が蕩けるよう。


「心配です。お傍についていたいです」


 メルは眼差しを揺らせ、瞼を赤らめて睫をおろした。


 彼はクリスティンの隣に座る。

 夜着を通し、ぬくもりが伝わってくる。清らかな触れ方だ。

 

 月の灯りのもとで、彼はクリスティンに唇を寄せた。

 心臓が怖いほど強く打ち付ける。

 立っていたなら、確実に倒れていた。

 互いに瞳を潤ませ、唇を重ねる。

 

 

 ──あっという間に時間は過ぎた。


「それではクリスティン様……。私は失礼いたします」


 メルは、ぐったりした感じで立ち上がった。


「メル、大丈夫?」


 クリスティンは甘やかな痺れに包まれている。

 エネルギーが満ち、幸せな心地だが、彼はなんだか疲れているよう。


「ひょっとして、この治療、あなたからエネルギーを吸い取ってしまうものなのかしら」

 

 そういったことは記されていなかったけれど……。

 

 心配になってしまうと、彼は急いでかぶりを振った。


「違います。己と戦い、精神的に疲れただけなのです。エネルギーを吸い取られたわけでは決してないので、ご心配なさらず」


(……どういうこと?)


「己と戦う?」

「……いえ。クリスティン様がよろしければ、これからも私に任せていただきたいのです。私以外にはどうか絶対に頼まないでください」

「あなた以外にこんなこと決して頼んだりしないわ」


 メルはほっと息をついた。


「では……クリスティン様……おやすみなさいませ」

「ええ……おやすみなさい」

 

 クリスティンは、隣室に帰るメルを見送る。

 なんだか切ない感覚を覚え、その夜はなかなか眠れなかった。


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