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闇の悪役令嬢は愛されすぎる  作者: 葵川 真衣
第一章

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31/116

31.遭遇する2


 髪をかき上げて建物から出れば、入口の傍にソニアが心配そうに立っていた。クリスティンは目を瞬く。


「なぜ逃げず、ここにまだ?」


 大通りに向かったと思っていた。


「あなたが心配で、行けずに……。大丈夫ですか? お怪我はありませんか?」

「大丈夫。さっきの男たちの仲間がまだいるかもしれないし、大通りまで送ろう。こっちだ」


 クリスティンは、彼女の手をとり大通りへと誘う。

 しかし……ヒロインの窮地に皆は一体何をしているのだろう。

 攻略対象たちに苛立ちを覚えながら、彼女を連れて足早に歩く。

 

「こんなひとけのない路地に、女の子一人で来てはいけない。連れは? はぐれたの?」

「いいえ、わたし一人で花祭りに来ていたのです。友人を誘ったのですが、勉強するからと断られてしまって」


 その友人とはフレッドだろう。


「路地に可愛い雑貨店があったので、中に入って見て……。そこを出たあと、方向を間違ってしまったようで」

 

 恐らく今は、まだ誰のルートでもない。

 

 

 大通りに辿り着くと、クリスティンは彼女から手を離した。


「今後ひとけのないところには、一人で行かないように気をつけて」

「はい、助けてくださってありがとうございました……! わたし、ソニア・ブローンといいます、魔術学園に通う一年生です!」


 よく知っている。


「あの、あなたは?」


 彼女はクリスティンに気づいていないようだ。男装し、しかも仮面をつけているから当然だ。

 唇を引き結んで、その場を離れ人込みの中に入る。

 ソニアの目の届かない場所まで来ると、仮面を外した。

 アイスクリーム売り場に戻るが、もうそこにはメルの姿はない。

 きっと買い終え、クリスティンがいないことに気づき、捜しているのだろう。

 どうしようかと思っていると、聞きなれた声が自分を呼んだ。


「クリスティン様!」


 メルが人の波の間からこちらに駆けよってくる。クリスティンはほっとした。


「メル」

「姿がみえなくなったので、どうなさったのかと……。一体どちらへ行かれていたのですか?」


 クリスティンは彼と会えて、身体が弛緩する。


「実はさっき、ソニアさんを見かけて。説明は後でするわ。まず洋服店に行かなくては」

「洋服店?」

「着替えないといけないのよ」


 この格好でまたソニアと出くわしたら、クリスティンが変装していたとわかってしまう。

 バレてはいけない訳ではないが、彼女とは極力接触しないようにしている。

 屋敷内ならまだしも外で大立ち回りをし、男装していたのを知られれば、クリスティンだけでなく公爵家の評判にもかかわる。

 メルと洋服店に入り、出来合いの青いワンピースを買って、店内で着替えた。

 

 

 そのあと二人でカフェに入った。


「一体どういうことなのです」


 紅茶を頼み、クリスティンは先程の一部始終を彼に話してきかせた。


「クリスティン様、危ないではないですか!」

「あなたやリーに稽古をつけてもらっていたから、危なくもなんともなかったわよ」

「それでもいけません!」

「突然消えて、心配をかけてしまったのは謝るわ。ごめんなさい」


 クリスティンはメルに深く謝罪して許してもらったあと、先程食べ損ねたアイスクリームを買って食べた。

 

 海沿いに行き、潮風を受けながら二人で歩き、大通りに戻ると、アドレーとラムゼイとスウィジンが向こうからやってくるのがみえた。

 隠れる間もなくばったり出くわし、クリスティンは身が強張る。

 三人も驚いた顔をしている。


「体調が悪いからと言っていなかった? クリスティン?」


 アドレーに目を細められ、クリスティンは汗がどっと出る。


(……変装をやめてしまっていたのだった……)


「ええと……」


 口ごもると、手前の店からリーとルーカスが出てきた。

 リーは肩を竦める。


「あれ。皆お揃いで」


 リーの横で、ルーカスが眉を寄せクリスティンを見る。


「用事というのは、彼らと見て回ることだったのか」

「いえ……」

 

 しかしクリスティンはリーとルーカスを意外な組み合わせだと感じた。


「……リー様とルーカス様、ご一緒に花祭りにいらっしゃったの?」


 リーは頭の後ろで両腕を組む。


「いいや、おれ一人で来てたんだけどさ。先輩も来ているのをさっき見つけて。一緒に見て回ろうってことになったんだよ」

 

 スウィジンは笑顔を浮かべる。


「生徒会の皆が勢ぞろいだねえ。丁度良い。役員全員で一緒に花祭りを楽しもうよ」

「……ですけれど……」

 

 このメンバーで歩いたら目立ちすぎるではないか。

 王太子、その右腕、大貴族の令息、魔術剣士、神秘的な留学生。

 攻略対象勢ぞろい。皆、目映い人気者、有名人だ。彼らと一緒に歩くなんて。クリスティンは震撼する。

 メルと花祭りに来ているのに。

 視線をメルに向けると、彼は小さく囁いた。


「スウィジン様に無理だと言っても、聞いてくださいません、たぶん……」


(……そうね……)


 スウィジンはにっこり笑いながら、無言の圧をかけてくる腹黒である。

 そろそろ日も暮れるし、それまでの我慢だ。


「……わかりました」

 

 それで日没までの間、生徒会役員皆で花祭りを見て歩くという、恐ろしい状況となった。

 

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