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闇の悪役令嬢は愛されすぎる  作者: 葵川 真衣
第一章

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28/116

28.花祭り2

 

 二人はテラス席で、クリスティンはオレンジジュースを、メルはレモンジュースを飲んだ。

 

 その後、大通りをまた歩きはじめた。


「この大通り、地面が柔らかいわ」

 

 なんだか、ふわふわと雲の上を歩いているみたい。

 クリスティンの横を歩くメルが、不思議そうな表情をした。


「柔らかくはありませんよ?」

「そう? ふわふわしている」

「クリスティン様、足元がふらついているようです……ちょっとこちらにいらしてください」

 


 大通りから離れ、路地にメルはクリスティンを移動させる。


「ひょっとして、ご気分がお悪いのでは?」


 彼は心配そうにクリスティンの顔を覗き込んだ。クリスティンは首を横に振った。


「いいえ、発作の起きる前兆はないし。それどころかとても良い気分」

 

 今朝、少しだが身体を重く感じ、『星』魔力者用の薬を飲んだけれど。

 今は気分が良い。

 そのとき、前から歩いてきた男性が、クリスティンにぶつかりそうになった。

 しかし咄嗟にメルがクリスティンの肩を抱き寄せ、庇ってくれたので、ぶつかることはなかった。

 

「大丈夫ですか?」

「大丈夫」

 

 引き締まったメルの身体がクリスティンを包む。プラチナブロンドの下で煌めく、メルの濃紺の双眸が瞬いた。

 最近、女装姿の彼ばかり見ていたので、彼は男性なんだ、とあらためて感じた。


「すみません」

 

 慌ててメルは腕を解く。


「いいの。なんだか……恋人同士みたいね。花祭りでプレゼントを渡し合って、抱きしめられて」


 ふふっとクリスティンが頬を綻ばせると、メルは困ったように、眉尻を下げ呟く。


「……さっきのジュースに、きっとお酒が入っていたんだな……」


 クリスティンは可笑しくて、彼の背に両手を回す。


「少しだけ、こうしていて」

 

 どきどきするけれど、とても落ち着きもするのだ。

 

 するとふくよかな中年の女性が、傍を通り過ぎながら、こちらを見やった。


「男同士じゃなく、抱き着いているほうはお嬢ちゃんか。花祭りには皆、カップルは開放的になるねえ」

 

 男装しているが、近くでみれば、クリスティンが女だとわかるみたいだ。


「いえ、そのような。カップルではありません。このかたに失礼です」


 去っていく中年の女性の背に向かって否定するメルに、クリスティンは笑ってしまった。


「わたくし達、カップルにみえるのね」


 メルはこちらに視線を戻して、溜息を洩らした。


「やはり、クリスティン様、酔われているようです……。さっき飲んだジュースにアルコールが入っていたんでしょう。クリスティン様はお酒、ひどく弱いから……」

「アルコールが入っていたとしても、少しよ。別に酔っているわけではないし」

「酔われています」

「酔っていないわ」

「酔っ払いは皆、自分は酔っていないと言うものです」

 

 弱り切っているメルを、もっと困らせてみたくなって、手に力を込めてみた。


「クリスティン様……」


 くすくす笑っていると、ぐるんぐるんと世界が回った。


(?)

 

 クリスティンは意識がすうっと薄らいでいくのを感じた。



◇◇◇◇◇



「……?」

 

 目を開けると、木の天井がみえた。

 小さな窓から、光が差し込んでいる。

 自室でも寮の部屋でもない。固い寝台の上に横たわっていた。


(ここ、どこ?)

 

 すると寝台脇の椅子に座っていたメルが、クリスティンに声をかけた。


「良かった、お目覚めになられたのですね」

「メル」

 

 半身を起こすと、頭が少し痛んだ。


「痛……」


 少々吐き気もした。


「クリスティン様、まだ横になっていらしたほうがよろしいです」


 クリスティンは室内を見回す。


「ここは?」

「王都の宿屋ですよ。お酒の入ったジュースを飲み、倒れられたのです。近くにあった宿屋にお運びしました。覚えていらっしゃいますか?」

「ええ……なんとなく……」

 

 クリスティンはお酒が弱い。少し飲んだだけで、気分が高揚し、倒れることもある。


(美味しいジュースだと思ったけれど、結構強いアルコールが入っていたのね)


 しかも朝方飲んだ薬と、お酒は飲み合わせが悪く、副作用が出ることもある。


「具合はどうですか?」

「少しだけ頭痛がするわ」

 

 発作の薬は持ってきている。だが発作ではないので飲んでも意味はない。

 心配そうにするメルに、クリスティンは謝った。


「ごめんなさい。折角花祭りに来たのに」

「体調が第一です。どうぞお休みになってください」


 メルはクリスティンに再度横になるよう促す。

 布団を肩までかけてくれた彼の胸元から、ペンダントがみえる。

 クリスティンは自分のペンダントトップと彼のものを、ぴたりと合わせてみせた。


「お揃いね」

「はい」


 彼は微笑んで椅子に座りなおそうとしたが、二つのペンダントが絡んでしまい、その反動で額がこつんとぶつかった。


(痛っ)


「す、すみません、クリスティン様」

 

 彼は身を引くが、そうするとチェーンに引っ張られ、互いの首元に痛みが走る。

 それに気づいた彼は上体を寄せ、クリスティンも同様に彼に近づいたので、唇がほんの一瞬だが触れ合った。


「「……!!」」


 互いに目を見開く。


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