表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
闇の悪役令嬢は愛されすぎる  作者: 葵川 真衣
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/116

25.使命

  

 研究室に通いつめ、薬は完成した。

『暗』寄りではないが、ルーカスと同じ『風』術者のメルが協力してくれたからだ。

 薬草の種類と、割合を変え、効き目は以前のものよりアップした。

 

 完成品を持って、早速クリスティンは中庭へと向かった。

 メルはスウィジンに呼ばれ、今日はいない。

 

 

 この間ルーカスと出会った辺りに行ってみれば、彼の姿が見えた。

 木にもたれ、プラチナブロンドを風に揺らせ、読書をしている。

 こちらに気づくと、彼はぱたん、と本を閉じた。


「クリスティン」

「ルーカス様、ごきげんよう」

「ごきげんよう。俺に何か用?」

「はい。こちらをお渡ししようと思いまして」

 

 クリスティンは薬の入った瓶をルーカスに差し出す。


「これは?」

「魔力で体調が崩れたとき、飲むと効く薬ですわ。以前渡したものより効果がアップしております。ルーカス様は『暗』寄りの魔力で、悩まれ苦労なさっているようにお見受けしました。この間、お世話になったお礼ですわ。お受け取りくださいませ」

「前の薬も良かったし、助かるよ」


 ルーカスはクリスティンから瓶を受け取った。


「ありがとう。……そういえば、来月の最初の休み、君、空いてる?」


 花祭りのある日だ。


「予定がございます」


 クリスティンが答えると、ルーカスは瞳を伏せ、静かに吐息をついた。


「──そう。なら、いい」

「もし薬がまたご入用でしたら、おっしゃってくださいませ。次はご購入いただくことになるのですけれど……。販売予定の薬ですので」


 ラムゼイから、初回はともかく、その後は代金をもらうように念を押されている。

 彼に師事を仰いでいるし、クリスティンも売上の一部をいただくことになっているので、反対はしなかった。


「良心的な価格に設定しております」

「ああ。これから購入しよう」

「ありがとうございます!」

 

 ルーカスや、『暗』寄りの術者達が元気になれるようにと作った薬だが、自分の未来のためでもある。

 孤島送りになった場合、先立つものが必要だ。せっせと貯金せねば。



*****



 ルーカスは、クリスティンから誘いを断られ、当然だと思いながらも気落ちした。

 彼女はアドレーの婚約者だ。

 恋人たちの祭りといわれる花祭り。アドレーと行くに決まっていた。



 ルーカスは天を仰いだ。

 校舎の壁面に伸び、絡みついている蔓が視界に入る。


 ──事情があり、ルーカスはこの魔術学園に入学していた。

 魔術の勉強以外の、大事な理由。

 だが、状況は暗い。失望の淵にいる。

 そんなときに、クリスティンと出会った。

 

 彼女は王太子アドレーの婚約者。

 品行方正で、眉目秀麗なアドレーには信奉者が多い。クリスティンは学園のマドンナだ。非常にお似合いの二人である。

 アドレーはクリスティンを溺愛している。

 

 彼女は王太子の婚約者であるが、決して驕らない。

 生徒会室で眺めていれば、なぜか王太子を避けているようにもみえる。

 

 不思議なひとだ。

 美少女で、真面目なのだが少々……いや、かなり変わっている。

 薬を自ら作ることにしても、リーと剣を合わせることにしても。

 彼女の行動はときに、公爵令嬢がすることとは思えず唖然としてしまうものだ。

 それが可笑しく、ついつい見てしまうのだった。

 ルーカスはクリスティンを視線で追っていて、気づいた。


(──彼女は何か、途方もないものを、その身に抱えている)


 そんなクリスティンだから、きっと勘づいた。

 ルーカスの深い憂いに。

 抱えているものがある同士として──。

 

 発作を起こした彼女に、気遣いの言葉をかけられたとき、ルーカスは癒され、彼女に強く惹きつけられた。

 今まで覚えたことのない不思議な感覚。

 ルーカスは、女性は守るべき存在だと思っていたが、クリスティンは、こちらを支えてくれる度量の大きさを感じる。

 

 良い婚約者を手に入れたこの国の王太子が羨ましい。

 彼女を奪って帝国に連れて帰りたいくらいである。

 

(……クリスティン。君は何をその身に抱えている?)


 発作も、彼女の悩み事も心配に思う。

 彼女の全部を知って、その力になりたい。もっと奥に踏み込みたい。


(こんな気持ちを向けても仕方ないのに……)


 クリスティンはアドレーの婚約者で、ルーカスは使命がありこの学園へやって来ている。

 こういった感情を抱き、想いをもてあましている場合ではなかった。

 

 ──だがどうしても気になってしまう。


 

*****



 クリスティンはルーカスと別れ、訓練場に向かった。魔物が出るとの噂がある場所で、木々が鬱蒼と茂っており、誰も立ち寄らない秘密の場所である。


「おお、来たな、クリスティン嬢」


 スウィジンに解放されたメルも、その場に到着していた。


「クリスティン様」

「お疲れ様、メル。本日もよろしくお願いいたしますわ、リー様」

「ああ。じゃ早速だが、始めよう」


 汗を流せば、日頃の不安も溶けていく気がする。

 クリスティンは、身体を動かすことで良い気分転換になっていた。

 

 

 稽古が終了すると、リーにクリスティンは聞かれた。


「来月の休み、予定決めてる? 花祭りがあるだろ?」


 今日はその話題がよくでる。


「決めておりますが」

「……そっか」


 リーは溜息をついて髪をくしゃくしゃとかきあげた。


「だよなあ、殿下の婚約者だし、殿下から誘われてるよな。ま、楽しんできなよ」

「え?」

「じゃ、お疲れ」

 

 リーは肩をおとして帰っていった。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ