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闇の悪役令嬢は愛されすぎる  作者: 葵川 真衣
第一章

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20/116

20.図書館にて


「新入生代表に選ばれたということは、あなたがとても優秀だということでしょう。素晴らしいですわ。やっかむ者の言葉など、気にすることはありません」

 

 彼は、瞳を潤ませ、眼差しを伏せた。


「ありがとうございます……」

 

 栗色の髪に、淡いブルーの瞳、すっとした鼻、爽やかな口元。

 彼はイケメンで、可愛らしい。

 母性本能を擽ると、プレイヤーに人気があった。


(攻略対象ではないのを、彼も残念がられていたわね)

 

 フレッドはヒロインと親しい人物。

 攻略対象でなくとも、関わり合いになるべきではない。

 さっきは無意識に身体が動いてしまった。

 クリスティンは指で髪を耳にかけた。


「ではわたくし、図書館に参りますので。ごきげんよう」

「図書館で勉強を?」

「ええ」

「それでしたら、ぼくもご一緒してもよいですか?」

 

 クリスティンは困った。あの場所から彼を連れ出すため、ああ言ったが、ソニアの友人の彼と接触をもつべきではないのだ。


「ぼくも図書館に行くつもりだったのです。よろしければ、本を探したり、クリスティン様のお役に立ちたいです」


 言い募られて、クリスティンは弱った。


「でも……」

「お願いします。邪魔は決してしませんから」


 真剣に必死に言うフレッドにクリスティンは遂には折れた。


「……わかりました」

 

 助けられた借りを返したいと彼は思っているのだ。

 本探しを手伝ってもらえば、それで彼も気が晴れるだろう。

 


 クリスティンはフレッドと共に大きな図書館に入った。


「『星』魔力に関しての本を探しているんです」

「なら二階ですよ」

 

 まだ入学してそれほど経っていないのに、彼は中を熟知しているようだ。


「あなたはここによくいらっしゃるのね」

「はい。ほぼ毎日来ています」

 

 ゲームでもそうだった。

 彼の特等席が、二階奥の窓際にあるのだ。

 広い館内を、彼は泳ぐように進んで行き、その後にクリスティンも続いた。


「この辺りです」

 

 彼は立ち止まり、本棚から一冊の本を取り出した。


「これには珍しい内容が多く載っていましたよ」

「ありがとう。早速読んでみますわ」

 

 クリスティンは彼から本を受け取る。

 系列化されてはいるが、自分一人なら、探すのにかなり時間がかかっただろう。

 フレッドはにこにこと微笑む。


「静かでいい席があります。窓の外も綺麗な緑が広がっていて。人が少なく穴場なのです」

 

 フレッドに案内されて行くと、近くに回転式本棚のある、ひんやりと滑らかなオークの机の前で彼は足を止めた。

 傍には大きな窓があり、その席はゲームの世界で彼が使っていた場所であった。


(スチルにもあった……)


 今の自分は悪役令嬢で、全く立場は違うけれど、少し懐かしく思う。

 クリスティンは彼の隣の席に座った。

 渡してもらった本は、彼が言うように、今まで知らなかった珍しい内容が記されていた。

 じっと集中して読み込み、理解できないところがあると、それに気づいたフレッドが詳しく説明をしてくれる。

 クリスティンは彼の知識量に舌を巻く。


「あなたは『大地』の術者ですわよね? 異なる魔力なのに、お詳しいんですのね」

「魔力の勉強が好きなのです。放課後いつも図書館に来ていますので、よければ一緒に、これからも勉強しませんか」

「ええ」

 

 それでクリスティンは週一、図書館で彼と魔力について学ぶことになった。


「ぼくのことはフレッドと呼んでください」

「わたくしのこともクリスティンでよいですわ」

「いえ、クリスティン様はファネル公爵家のご令嬢です。ぼくとは身分が違います。王太子殿下の婚約者でらっしゃいますし」

 

 彼は伯爵家の令息であるが、謙虚にそう言う。

 

 充実した時間を過ごし、陽も暮れる頃、二人は椅子から立った。

 寮へと歩きながら、彼は人懐っこく笑む。


「ソニアが、クリスティン様はお優しいかただと話していましたが、本当でした。あ、ソニアっていうのはぼくの友人で、クリスティン様とも同じクラスで」

「わたくし、そのかたに何もしていないと思うのですけれど」

「講堂で勢いよくぶつかっても、怒らないでいてくれて、クラスが同じになって挨拶をしたら、優しく微笑んでくれたと」 

 

 クリスティンは、どうしても気にかかってソニアを見てしまう。

 彼女はいつも、色々と危なっかしいのだ。

 

「ソニアは貴族ではないため、からかわれることもあって。でもクリスティン様は一切そういう態度をとられないと言っていました」

 

 フレッドは彼女を心配しているのである。彼自身も辛い目に遇っていながら、優しい。

 

「陰口なんて気にすることないですわ。ソニアさんもあなたも。悪いことなんて、何もしていないのですから」

「ありがとうございます。ソニアにも伝えておきます」


 互いの寮の分かれ道に差し掛かり、二人は立ち止まった。


「クリスティン様、今日は本当にありがとうございました」

「いいえ、こちらこそありがとうございました」


 クリスティンは彼と別れ、寮に入ってから、深く息をついた。


(──ああ) 

 

 ソニアの友人フレッドに近づいてしまった。

 ヒロインやその周辺とは距離を置くべきなのに。

 しかし放っておけなかったし、良い人物だったので、一緒に学ぶ約束までしてしまった……!

 クリスティンは頭を抱え、階段を上る。


(……あまり、考えないようにしましょう)


 断罪されるような行為を、しなければよいはず……。

 学園内で目立つ行動をとること自体、控えようと、クリスティンは決意をあらたにした。

 

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