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闇の悪役令嬢は愛されすぎる  作者: 葵川 真衣
第一章

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19.神に祈る


 寮へと続く道を歩きながら、メルは嘆息する。


「否応なく生徒会入りさせられましたね」


 クリスティンは忸怩たる思いだ。


「極力顔を出さないようにするわ」

「厄介な集まりのようでしたからね……」


 最近彼は少しずつ思ったことを素直に口にするようになった。人間味が出てきて、良い傾向だ。昔は感情を全て押し殺し、出さないようにしていたから。


「花冠の聖女も、途中でアドレー様から勧誘され、生徒会入りするわ」

「それが事実なら、とんだ女たらしですね、アドレー様は」


 クリスティンは隣を歩くメルをまじまじと見る。

 人間味が出すぎるのも、問題だ。

 不敬罪に問われてしまいそうだ。


「メル、言動には気を付けてね? どこで誰に聞かれているか、わからないのだから」

「はい」

 

 

 寮は敷地の北に位置している。

 女子寮と男子寮に別れ、建物はどちらも瀟洒な白い建物だ。

 クリスティンは一年生だが、最上階の大きな部屋だった。

 他の生徒の部屋はこの最上階には一室もない。

 ファネル公爵家の令嬢で、王太子の婚約者でもあるため、便宜が図られたようである。

 メルは同室で、互いの部屋は扉で仕切られており、お風呂も備え付けられていた。

 

 クリスティンは、いよいよゲーム開始となり、きゅっと唇を噛みしめる。

 

 生徒会入りし、誤算が生じたが仕方ない。

 剣の稽古を受けたいし、悪い立場にリーをおくのも忍びない。

 どうか無事過ごせますようにと、クリスティンは神に祈った。



◇◇◇◇◇



 祈りが通じたのか、日々は平和に過ぎていった。

 クリスティンが断罪されるのは、王太子主催の夜会。

 ゲームでも夜会までは危機に陥ることもなく、悪役令嬢は傍若無人に振る舞っていた。


(今何もないからといって、安心していては駄目……)


 今日は生徒会の集まりがある。

 クリスティンは一切出席したくなかった。


「わたくし、欠席するわ。体調が悪いということにしておいてくれないかしら」


 クリスティンがメルに頼みこむと、彼はすぐさま頷いた。


「クリスティン様は熱があると説明しておきます」

「ありがとう」

 

 どれだけあの集まりに出たくないか、メルはわかってくれている。

 


 授業終了後、東館に連絡に行ってくれるメルと別れ、クリスティンは一人で寮へと戻った。

 ゲームでは取り巻きの女子を何人も従えていたが、今は違う。

 王太子の婚約者であるクリスティンに、取り入ろうとする者は多いものの、そういった人間は皆、一年後に掌返しをする。

 それがわかっているから、挨拶や日常会話を交わすくらいで、必要以上にクラスメートと付き合わないようにしている。

 基本的にメルと一緒か、一人で行動していた。

 

 

 寮への道を歩いていたクリスティンだが、ひとつの事を思い、途中で引き返した。

 図書館に寄り、魔術の勉強をしよう。

 ラムゼイに教わって魔力の弊害については詳しくなったものの、発作をなくす根本的な方法はまだ見つかっていない。


(本を探してみましょう)


 木々の生い茂った小道を歩いていれば、数人の声が建物の裏手のほうから聞こえてきた。


「生意気なんだよ!」

「年下のくせにさ!」

「新入生代表になったからって、いい気になるな!」


(何……?) 

 

 近づいていくと三人の男子生徒に、壁に押し付けられているフレッド・エイリングの姿がみえた。一方的に小突かれ殴られている。

 クリスティンは考えるより先に、身体が動いた。

 男子生徒の後ろに回り込み、その腕を捩り上げ、投げ飛ばした。


「うわっ」


 地面に転がった男子生徒と、仲間の二人が、突然現れたクリスティンを呆然と見る。


「え……」

「クリスティン様……!?」


 クリスティンは眉を顰めた。


「何をしてらっしゃるの。三人がかりで、一人をよってたかって。恥ずかしくはないのかしら」


 三人の男子生徒は決まりが悪そうに顔を見合わせる。


「いえ、話をしていただけなんです、クリスティン様」

「そうです、なんでもありません」

 

 フレッドをやっかんで絡んでいたようにしかみえない。

 それなりの身分をもつ貴族の子息が、情けない。

 クリスティンは溜息をついて、フレッドに声をかける。


「わたくし、図書館で勉強をしようと思うのですけど。それに付き合ってくださらないかしら?」


 フレッドは、眼鏡の奥の瞳を驚いたように見開いていたが、こくっと頷いた。


「は、はい……」


 クリスティンは男子生徒三人を振り返った。


「今後も、またこのようなことをなさるのでしたら、わたくしにも考えがありますわ」


 両腕を組み、吊り上がり気味の鋭い目で睨むと、彼らは身を竦ませた。


「今後一切やめますわね?」

 

 彼らは首肯する。


「は、はい」

「や、やめます」

「二度としません」

「そのお言葉、どうぞお忘れになりませんように」

 

 フレッドを連れてそこをあとにし、煉瓦造りの図書館の入口へと向かう。

 フレッドは安堵の息を吐き出した。


「ありがとうございました、クリスティン様。図書館に行こうとしたら、建物の奥に連れていかれて……。助かりました」

 

 クリスティンは隣のフレッドに視線をやった。

 

「絡まれるようなことは、今までも?」

 

 彼は俯く。


「何度か……。皆さんより一つ下でこの学園に入りましたし、目障りなのだと思います」


 彼はあんな目に遇いつつ、ゲームでヒロインの悩みを聞いて力になってあげていたのか……。

 ゲーム内では語られていなかった裏事情を知り、クリスティンは胸を痛めた。

 この世界で生活をしていると、ちょこちょこ、ゲームでは明かされていなかった新事実を知ることがある。

 悪役側だったメルが、給金の多くを孤児院に寄付していることもそうだ。


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