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18.恐ろしい生徒会

 

 アドレーとの接点がダンスの特訓で増え、クリスティンは男性のパートすら、うまく踊れるようになったが、これ以上会う機会を増やしたくない。

 リーにクリスティンがお願いすると、彼はちらりと後方を見やった。


「おれはそれでもいいんだけどさ。今言ったように圧力があって。前より稽古の頻度多くするから、生徒会入ってよ、頼む」


 クリスティンは苦渋の決断を強いられた。

 リーには恩義がある。屋敷で稽古をつけてもらっていたとき彼は、礼はいらないと無償で教えてくれていたのだ。

 それでは悪いので、彼の好物の食事をいつも出していたのだが、学園ではそうもいかない。

 クリスティンは押し黙ったのち、溜息を吐き出した。


「──わかりましたわ……入ります」


 リーは顔を輝かせる。


「助かった! ──殿下、スウィジン様。クリスティン嬢、入ってくれるみたいですよ!」


 アドレーが笑顔で、クリスティンの肩に手を載せる。


「クリスティン。ありがとう」

「……いえ」


 仕方ない。極力出席しないようにすればいい。リーはクリスティンにウィンクをする。


「良かった。人目につかない良い場所あるから、そこで稽古しようぜ。殿下の婚約者が剣を振り回していたら、さすがに問題だしさ」

 

 クリスティンは頷く。


「しかし君達……仲が良いね」

 

 アドレーがその眼差しをひどく冷たくして呟いた。

 笑顔だがその目は笑っていない。 

 

(…………)

 

 クリスティンもリーも固まった。

 リーは頬を、ぽりぽりとかく。


「……殿下……クリスティン嬢は生徒会入ると言ってくれてますけど? なんか怖いな……怒ってるんですか?」


 ラムゼイが唇の端を上げて、皮肉に笑んだ。


「リー。王太子の婚約者にそれだけ馴れ馴れしく接していれば、アドレーも憤るだろう。クリスティンの勧誘にたとえ成功しても」


 リーは顔をひきつらせた。アドレーは両腕を組む。


「私は何も怒ってはいないよ。ただクリスティンは私よりも、リーと打ち解けていると思ってね……。剣術の指導を受けたいと聞いて、間に入ったのは私だけど。思った以上に距離が縮まっているようだね」

 

 スウィジンが不穏な空気を変えるように口を開いた。


「とにかく無事入学してくれて、僕は安堵してるよ、クリスティン。身体が弱かったけど、最近は元気になって」

「おれが剣術で鍛えたんで」


 リーが胸を張ると、メルがぴくりと眉を動かし言葉を挟んだ。


「日々、クリスティン様の基礎体力作りにお付き合いしたのは私です」


 ラムゼイは唇を歪める。


「彼女が時折起こす発作に有効な、薬草の育て方と煎じ方を指南したのはオレだが」

 

 彼らが口々に言うのを、クリスティンは俯いて聞いていなかった。


(ここには、わたくしの平穏はない……)


 ゲームの攻略対象が勢ぞろいしていて、恐ろしくて気分がずんと沈む。

 悪役令嬢はゲームでも生徒会に入っていた。

 王太子の婚約者であることを盾に強引に所属する。

 ひょっとして……。


(ゲーム進行のため、抗いがたい何かが働いて、わたくしは生徒会に入ることになった、とか……?)

 

 それは運命のように。

 発作も、虚弱体質という設定があるため、見えざる手により起きている……?

 ならば惨劇もどう足掻いても待ち受けているのでは?

 そこまで考えて、ホラーのように感じ、悲鳴を上げそうになった。


(ひ、悲観的になるのはやめましょう)

 

 深呼吸して自らを落ち着かせる。

 震える身を抱え、彼らから逃げるように、無意識にじりじりと後ろにさがった。

 

 ゲームとは違う部分も出てきている。

 クリスティンは、発作は起きるが身体能力は上がった。

 ソニアに絡んだり、意地悪をしないし、今後もする気はない。

 

 婚約破棄されても、断罪されることはないはず……。

 暗殺者を放たれても、逃げられるはず……。

 

 わいわい騒いでいる彼らが怖くて離れていくと、ルーカス・ブラントの姿が視界に映った。

 窓辺に座り、本を読んでいる。

 彼も生徒会の一員なのだった。

 

 身分を隠しているが、実は隣国の皇子である。

 魔術学園に興味をもち、お忍びで留学しているのだ。

 

 プラチナブロンドに、優美な線を描いた白い頬、エメラルド色の瞳、きれいなラインの鼻、珊瑚色の唇。

 すらっとした長身に、美しい眉目。

 アドレーとはまた違った魅力の、神秘的な美少年だ。

 

 しかし攻略対象に、クリスティンはときめきなど全く覚えず、心動かされることはない。

 気品に溢れ、近寄りがたい威圧感。クリスティンは視線を逸らせようとした。

 その瞬間、顔を上げた彼と目が合った。


「彼らは君の親衛隊か何か?」

 

 呆れ顔で、彼は言い争いをしている皆をちらりと見やる。


「? 違いますわ」

「君、アドレー王太子の婚約者だね」

「え、ええ」

「俺はルーカス・ブラントだ」

「クリスティン・ファネルです」 

 

 軽く挨拶を交わす。

 ここに長居は無用である。

 クリスティンは騒いでいる皆を横目に、メルの傍に寄り、耳打ちした。


「メル、寮に戻りましょう」


 クリスティンとメルはそそくさと生徒会室をあとにした。


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