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闇の悪役令嬢は愛されすぎる  作者: 葵川 真衣
第二章

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36.怒り




※※※※※




(どうしてこうなったのだ……!?)


 アドレーは具合が悪かったが、さらに悪化しそうだった。


 なぜ、自分とクリスティンの間に、メルがいる?

 なぜ……なぜだ。


 クリスティンの顔もよく見えない。

 彼女と二人で過ごすはずだったのに……。

 

 アドレーは、メルの後ろに隠れてしまっているクリスティンの姿を、寝台から悲しく見た。

 

 王太子たるもの、大広間で無様に倒れることがあってはならない。

 それで今夜の舞踏会は欠席したのだ。

 

 熱と、ひどい眩暈の症状があったのだが、これは良い機会でもある。

 ファネル公爵に、欠席の連絡を入れ、クリスティンに見舞ってもらいたいと頼んだ。

 誰にも邪魔されず、傍にいてもらいたいと。

 公爵は、娘を必ず部屋に行かせると、約束をしてくれた。


 アドレーは楽しみにしていた。

 初めて夜にクリスティンが自室に来てくれる。

 

 しかし、メルもやってきてしまった……。

 婚約者二人の間に、今、長身の彼は彫像のように立ち塞がっている。

 厄介以外の何物でもなかった。

 

 ちょっとどいてはくれないか。

 クリスティンと手を繋ぎたいのに……。

 だがメルの言うことも一理あり、反論し難かった。

 クリスティンにうつってしまったら、いけない……。


 アドレーとしては、彼女と夜通し、二人で過ごしたかった。

 打ち解け合い、心を通わせたかったのだ。

 今現在、見えるのはメルの姿だけ。

 アドレーは激しく目の奥が痛んだ。


(……今日はもう駄目だ……)

 

 横になろう。

 アドレーは寝台で、目元を手で覆い、瞼をおろした。


 ──婚約者として、クリスティンと夜過ごすアドレーの計画は、こうして台無しになった。




※※※※※




 アドレーの体調は、翌日には快復したが、彼はひどく不機嫌だった。

 

 王宮を出て、クリスティンはメルと馬車に揺られながら公爵家へと戻った。

 メルは向かい側に座り、窓の外を眺めている。


「昨日襲撃してきたり、異空間に閉じ込めようとしたのは誰かしら。アドレー様ではないようだったわ」

「ええ。前と同一人物による犯行だとは思いますが、アドレー様ではないでしょう」


 会うまではクリスティンはアドレーを疑っていたが、違うようだ。


「アドレー様の体調が完全に良くなったら、彼に話しておいたほうがいいわね。後、ラムゼイ様にも」

「そうですね」

「それとオリヴァー様に事情を聞かないと」


 クリスティンとメルの記憶が消されていた。

 オリヴァーによって消された可能性が高い。


 メルは浮かない表情だ。


「……昨日はクリスティン様に付き添っていて、本当によかったです。色々と危険なことがありました……」


 ぴりっとしていて、いつもと雰囲気が違う。


「メル?」


 どうしたのだろう。

 メルは、窓からクリスティンのほうに視線を移動した。


「クリスティン様」


 彼は、低い声で尋ねる。


「もし私が一緒に行かなければ、クリスティン様はアドレー様と手を繋いで、朝まで二人で部屋にいるつもりだったのですよね?」


 朝までいたかはわからない。

 が、アドレーに手を繋いでほしいと言われていたし、傍についていただろう。

 

 昨晩はアドレーが眠るまで、メルがクリスティンの前に立っていた。

 アドレーの世話はすべてメルがしたので、自分はただ部屋にいただけで、何もしていなかった。

 

「あとは私が。クリスティン様は休んでください」とメルに言われ、クリスティンは長椅子で眠ったのである。


 アドレー同様、今、メルは不機嫌だ。

 寝不足なのだろうか。


「アドレー様は昨晩体調が悪くて、あれほど気弱な彼を見たのは初めてだったから」

「では、やはりそうするつもりだったと」

「あんな状態で放っておけないもの」


 メルは頬を緊張させた。


「今、彼はクリスティン様の婚約者です。夜に婚約者二人きりで……」

「看病以外に意味はないわ」

 

 メルは唇を閉ざし、窓に目線を向ける。


「あなたにずっと任せてしまって、ごめんね、メル」

「それは全く構いません」

「怒っているわよね?」

「………………」


 クリスティンはメルの隣に移った。


「ごめんなさい」


 彼はふっとこちらを振り向いた。


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