33.誰の犯行?
アドレーの右腕ラムゼイも、ゲームでは刺客を放つ。
王宮に導くことはラムゼイの犯行であっても可能。
「衛兵に、不審者が現れたことを伝えましょう、クリスティン様」
「……ええ……」
言ったところで、黒幕がアドレーやラムゼイであるなら、意味はないが……。
王宮の衛兵に、不審者が現れたことを知らせたあと、お見舞いに行くため、来た道を引き返した。
(アドレー様に直接確かめてみようかしら……)
クリスティンは思い悩む。
無関係で本当に体調が悪いのなら、アドレーに心労をかけてしまうことになる。
幅広の大理石の廊下を進んでいくと、喧噪は徐々に遠ざかり、冷ややかな静けさに包まれた。
「クリスティン様、妙です」
メルが立ち止まって、クリスティンの手を掴んだ。
廊下がずっと奥まで延びていて、先が見えなかった。
両側には幾つもの扉が無限に並んでいる。
扉と扉の間隔は、異常に狭い。
おかしい。
廊下や扉は同じだが、ここは王宮ではない。
いつの間にか、違う場所に入りこんでいた。
「……また、異空間……?」
「そのようです……」
二人は周りを見回した。
前方も後方も、細い廊下が果てしなく続いている。
「進んでも、戻っても出られそうにないわ」
「扉を開けてみましょうか」
「ええ」
彼は手前の扉を押し開ける。向こう側には何も存在していなかった。
クリスティンはラムゼイに学んだことを頭に思い浮かべる。
前の一件で、また何かあればいけないからと、ラムゼイから詳しく説明された。
異空間の解除装置はどこかに必ずあるが、トラップも存在するらしい。
ミスが一定数続くと、出られなくなる。
クリスティンは人差し指を曲げて、顎に添えた。
「この扉の中の一つが解除装置となっているのだと思うわ。数回間違えてしまえば、ずっとここから出られない。前の空間より、バージョンアップしている」
「今、一度開けてしまいましたが……何度まで大丈夫なのでしょう?」
「ラムゼイ様によれば、設定数として一番多いのは、三度」
仮に制限がある異空間として。三度ならば、残り二度だ。
クリスティンは扉を見比べた。全部同じで、どれが解除装置か全くわからない。
「一つだけ、どこかが違うはずなのだけれど……。違うものが解除装置よ」
「探しましょう」
クリスティンとメルは扉を注意深く見て歩いた。
メルは左側、クリスティンは右側。
しかし見つからない。
クリスティンは焦燥に駆られた。
今まで見た中であったけれど、見落としたのか。
それとも、解除装置は扉ではない?
疑心暗鬼となり、疲れがみえはじめたときに、メルが言った。
「ありました」
「え!?」
クリスティンは後ろを振り返る。
「この扉は、下方の模様が、他と違います」
彼の傍に寄り、扉を確認すると、事実、渦模様がひと巻き多い。
クリスティンは感嘆した。
「わたくしなら、絶対気付けなかった……!」
よくこんな小さな違いを見つけることができたものだ。
左側をメルに見てもらってよかった!
「解除装置だといいのですが……」
「きっと、そうよ」
念のため、両サイドの扉と比べてみるが、やはりこれだけ違う。
「では、開けますね」
メルがノブを掴み、扉を開くと、向こう側に王宮の廊下がみえた。
瞬間、どこまでも続く廊下は消滅した。
二人は安堵の息をついた。
(戻ってこられた……)
「見つけてくれてありがとう、メル」
「いえ、クリスティン様が、違うものが解除装置だとおっしゃってくださいましたので」
メルがいてくれて、そしてゲームの惨劇回避のため、ラムゼイに教えを請うていて助かった。
さて……。
アドレーの元に行かなければ……。
異空間にいた間の時間は、こちらでは流れていないはずだが、遅くなってはいけない。
クリスティンは歩きながら、考える。
(誰の犯行?)
学園だけでなく、王宮でも……。
力を持つ者の仕業……アドレーなら可能。
……でもそんなことをアドレーがするだろうか?