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31.王宮の夜2


 その直後、メルが姿をみせた。

 メルは俯き加減で、ヴァンには気づいていない。


「……クリスティン様、お傍を離れてしまい、申し訳ありませんでした」

「いえ、それはいいのだけれど」

 

 クリスティンは、ヴァンが見つからなかったことにほっとした。

 メルはヴァンを危険視しているのだ。

 頭を下げる彼に、クリスティンは尋ねた。


「どうしてさっき、どこかへ行ってしまったの?」

 

 彼は睫をおろす。


「…………夢で…………」


 彼は気まずそうに瞬き、首を左右に振る。


「いえ……なんでもないのです……。ただ頭を冷やそうと思いまして」

「?」


 クリスティンは周囲に視線を巡らせた。


「ねえ。この辺りを歩かない?」

「……はい」


 二人並んで、庭園の小道を奥へと進む。

 清かな噴水の音が響く。木々の中を通れば、メルはまた赤面した。


「クリスティン様……そろそろ大広間に戻りましょう」


 あと僅かで、何かを思い出せそうな気がするのだけれど。

 記憶を追い求めていれば、足元の石に足をとられ、躓いた。

 メルがクリスティンの両腕を支える。


「大丈夫ですか?」

「ええ」


 至近距離にある彼の瞳。

 優しいけれど、強い熱を帯びた視線とぶつかる。


(ヴァン……今、見てないわよね……?)


 さっきダンスしていたときは、覗いていたようだけれど。

 空に飛んで消えたから今いないはず。

 

 メルに気持ちを告げてしまおう。

 告白しよう。


「あの」


 クリスティンは自分の胸を押さえる。


「わたくし……」

「クリスティン様……」


 眼差しが激しく絡み合った。

 とくんとくんと鼓動が早まる。

 

 互いに近づき、吸い寄せられるように唇を重ねた。

 やわらかく唇が触れる。

 溶けてしまうような甘やかな感触。


 そこでクリスティンは思い出した。

 

 夜会の日、この王宮の庭で、メルとこうして口づけしたことを。

 彼と想いを交わし合ったことを。

 

「メル……」

 

 どうしようもない切なさに、キスの合間に彼の名を呼ぶ。

 彼は炎のように熱情に光る瞳でクリスティンを見つめた。


「クリスティン様、以前、私たちは……」

「……ええ」


 クリスティンは頷いた。彼も思い出したようである。


「好きです」


 彼は覆いかぶさるように、情熱的にクリスティンにキスをした。

 彼の髪に指を埋め、魅惑的なキスを受ける。


(メル……)


 彼のことがとても好き……。

 熱が全身に広がる。


「……どこかへ行ってしまいたい」

「私も、あなたをこのまま連れ去ってしまいたいです」


 もう一度キスをし、ゆっくり口づけを解く。

 

 舞踏会から、消えることはできない。

 皆をびっくりさせ、心配をかけてしまう。

 

 駆け落ちするしかないならそうするが、二人で話し合い、学園卒業までここにいると決めたのだ。

 周囲に祝福され、メルと結ばれたい。

 

 二人は大広間に向かって歩き出した。クリスティンは疑問を言葉にする。


「……どうして、こんな大切なことを忘れていたのかしら……?」


 あり得ない、忘れるなんて。

 メルも非常に気にかかるようで、表情が曇った。


「ええ……おかしいです」


 こういったことが可能な人物は、一人しかいない。

 メルたちのハトコ。

 

 ──オリヴァー・フォルツ。


(……あのとき……)

 

 オリヴァーを生徒会メンバーに紹介した際──占いをするという名目で、オリヴァーは皆の記憶を消した。

 クリスティンがメルを好きだと言ったことを。

 メルへの皆の態度が余りにひどかったから、オリヴァーに記憶消去を頼んだのだ。

 

 クリスティンとメルの記憶も、そのとき消されたのでは?


(オリヴァー様に事情を聞かないと)

 

 大広間に戻り、彼を探したがもう帰ったのか姿がみえない。すると父がこちらに足早にやってきた。


「クリスティン」

「お父様」 

 

 父は不機嫌に問う。


「一体、どこへ行っていた? 殿下のお見舞いがまだだろう」


(そうだったわ……)


 アドレーのお見舞いに行くように言われていたのだった。


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