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29.非情な側面




※※※※※




 ルーカスは、オリヴァーを王宮の廊下の端に連れていった。


「オリヴァー、何をしていた」

「何って」


 飄々としているオリヴァーをルーカスは睨む。

 さっき近づいたとき、オリヴァーはクリスティンに、不穏なことを持ち掛けていた。


「だから重要な話さ」

「まさか、アドレーの……」

 

 ルーカスは誰もいないのを確認し、声をおとして続ける。


「アドレーのクリスティンへの恋心を消そうと考えているのか?」

 

 オリヴァーは悪びれず顎を引き、認める。


「ああ。それを彼女に提案した」

「おまえ……」


 オリヴァーは肩を竦めた。


「だって、考えてもみろよ? 今、君にとってもメルにとっても、よくない状況じゃないか? クリスティン様とリューファス王国の王太子が、婚約をした」


 それは確かに、由々しき事態ではあった。

 想いを交わした記憶が消えているものの、クリスティンはメルと、将来の約束をしている。


 何か支障があれば、すぐに記憶は戻すが、今は忘れていたほうが、二人にとっても周囲にバレずに生活できて良いかもしれないと、消したままになっていた。


「この間の消去とは種類が違う。クリスティンとメルは想いを交わしたことは忘れたが、気持ち自体はそのままだ。幾らなんでもひとの気持ちを操作したりは駄目だ、オリヴァー」

「王太子が、大きな障害になるかもしれないのに?」

「障害にはならない。『花冠の聖女』が戻れば解決する問題だから。『花冠の聖女』はクリスティンの幸せを願っているんだ、婚約はまた白紙に戻る」

「その前に、王太子に既成事実を作られてしまえば厄介だろ」

「アドレーはそういったことをしない」


 オリヴァーは口の片側を引き上げる。


「王太子も独特なオーラをもっているんだよ。彼は一度執着した相手を、すんなり手離すタイプじゃないね。また婚約をしたことからも、わかるだろ?」


 生徒会でも一緒、一年からクラスも同じで、アドレーのことはよく知っている。

 真面目で、品行方正な人間だ。

 愛する相手に無理に何かをするような男ではない。


「クリスティンを傷つけるようなことを、アドレーはしない」

 

 オリヴァーは金の髪を揺らせて、小さく首を横に振る。


「君はまだまだ青いね。人なんてものは、いくらでも豹変する。あの王太子は、欲しいものがあれば、必ず手に入れようとする、そういう類いの人間だ。あきらかな犯罪だとわかっていても、必要とあらば実行するタイプだね」


 夜会の日、クリスティンを糾弾してきた者たちにアドレーがとった態度を思えば、オリヴァーの言葉を否定できない。そのときのことは、ラムゼイらから聞いた。

 アドレーには、確かに非情な側面がある。


 が、それは相手に大きな非があった場合にみられる。

 アドレーがクリスティンに冷酷な行動をとるなどあり得ない。


「おまえは、知り合って日が浅いから、アドレーのことをよくわかっていないんだ」


 オリヴァーはやれやれとばかりに、苦い笑みを浮かべる。


「オレは魔術探偵なんだよ、ルーカス。術者のオーラをみることができるんだ。あの王太子のオーラは危険なものだと断言できる。ちなみに、彼の右腕もだ。クリスティン様の兄もな。本能的にそれを感じ取っているのか、クリスティン様は彼らと距離をとっている」


 ……事実、クリスティンは彼らを──というか生徒会役員全員を避けているフシはある。 


「オレは、クリスティン様のためにも、王太子の彼女への気持ちを消そうかと話したんだ」

「駄目だ。気持ちを操るような真似は」


 オリヴァーは、天井を仰ぐ。


「何か起きてからでは遅いんだぜ、ルーカス」

 



※※※※※




 ルーカスとオリヴァーが立ち去り、バルコニーで、クリスティンが涼んでいるとメルがやってきた。

 均整がとれた体型なので、盛服姿はどきっとするほど格好いい。


 クリスティンは、手摺りから手を離す。


「メル、踊らない?」


 ふと思い立って言えば、彼は、戸惑ったように瞬いた。


「ここは王宮です。街とは違いますので」

「じゃ、庭園に行って踊るのは?」

 

 クリスティンは無性に、メルと踊りたくなった。


「駄目かしら?」


 彼は苦笑した。


「わかりました」


 それで、彼と外階段を使って下に降りた。


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