25.アドレーとの婚約1
「ソニア様の名を騙った者に、呼び出され──」
彼に話すのが最初で、まだ誰にも伝えてはいない。
権力者による犯行だった場合、学園側に伝えても、もみ消されるのがオチだから。
クリスティンが、ラムゼイに昨日のことを全て話し終えると、彼は立ち上がった。
「アドレーに知らせる。先に現場に行っておいてくれ」
「あの、アドレー様には知らせないでほしいのですけれど……」
「なぜだ」
アドレーによる犯行の可能性も捨てきれないからだ……。
「……心配をかけてしまうかもしれませんので」
「心配するだろうが、学園側にはともかく、あいつに隠しておくことはできない」
「……わかりました」
できれば話さないでほしかったが、仕方ない……。
クリスティンは昨日も訪れた旧校舎地下の教室にメルと向かった。
ラムゼイに話を聞いたアドレーも、ラムゼイとすぐにやってきた。
アドレーは真っ青だ。
「クリスティン、ラムゼイから聞いた。大丈夫……!?」
「大丈夫ですわ」
「学園内で襲われるなど……君には護衛を付ける。また何かあってはいけない!」
クリスティンは困惑する。
「結構ですわ。メルがいます」
「私がクリスティン様をお守りします」
昔からメルは護衛としても、クリスティンに付いているのだ。
アドレーは仕方なさそうに嘆息する。
「まあ、メルが付いていれば安心は安心だが……」
アドレーの様子から、どうやら彼の仕業ではなさそうだとクリスティンは直感した。
本当に心配してくれている。
ゲーム内で、悪役令嬢をこれでもかと追い込んだアドレーだから、もしかしたら……と、疑ってはいたのだけど。
(アドレー様でも、ラムゼイ様でもない)
ラムゼイは教室内に入り、辺りに視線を配る。
「ふむ……。魔術がかけられていた形跡がある。異空間を作りだせたということは、かなりの術者」
「ここに解除装置があったのですわ」
クリスティンは棚を開けてみるが、もうあの突起は存在していなかった。
ラムゼイは感心したように瞬いた。
「よく見つけられたな」
「ラムゼイ様にご指南いただいたおかげですわ。ありがとうございます」
それからラムゼイは、顎に手を置いて、室内を見て回った。
「犯人も含め、何かわかれば、連絡する。君は昨日のことで疲れているだろう。もう帰っていいぞ」
「申し訳ありませんが、どうぞよろしくお願いいたします」
クリスティンはメルとその場を後にした。
犯人が見つかって、捕まってくれれば安心なのだけれど。
◇◇◇◇◇
次の日は、生徒会がある日だった。
クリスティンは勇んで出席した。
ラムゼイにわかったことがあったか、確かめようと思ったのだ。
しかしまだ、捜査の進展はないようだった。
異空間を作り出した犯人は力のある術者のようだし、まあ、そう簡単には見つからないだろう……。
事情を初めて知ったメンバーはびっくりしていた。
「クリスティン、学園内で襲われたのか……!?」
ルーカスが、愕然として問う。
オリヴァーは眉間を皺めた。
「学園内というのが、また恐ろしいですね……」
スウィジンは物憂げにクリスティンを見つめる。
「おまえにそんなことがあったなんて……学園は、部外者は入って来られない。本来安全なはずの場所なのに……」
だが、魔物のヴァンも元気よく出入りしている。
この学園の警備は結構緩いのでは?
リーは顔を曇らせた。
「気ぃつけなよ。狙われても、相手のほうが返り討ちに遭うだろうけどさ。腕の立つメルも傍についてるし……。けど、油断は禁物だぜ、クリスティン嬢」
「ええ」
何者による犯行で、動機は何なのか。
暗殺されるようなことを、していないはずなのに。
避けることのできない、ゲームの強制力という名の運命……?
暗い思考に陥ったクリスティンだが、さらに、恐怖の展開が待っていたのである──。
◇◇◇◇◇
「えっ、アドレー様と婚約っ!?」
「そうだ、クリスティン」
週末、父に呼び出されたクリスティンは、流れたはずだったアドレーとの再度の婚約話を突如聞かされた。