サルベージ終了
『Aランク冒険者のスローライフ』のコミック2巻が30日に発売します。
よろしければ、そちらもどうぞ!
テッポウウオを倒して僅かな素材と魔石を採取することができた俺は、バルバロイさんのいる船室にやってきた。
外から船室を窺うと、スケルトンであるバルバロイさんはこの間と変わらない様子で椅子に腰かけている。
離れてみると項垂れている置物にしか見えないが、アイテム箱に近付こうものなら排除しようと動くのだろうな。
スケルトン自体の危険度はEとかなり低い。
純粋な戦闘力でいえば、先程のテッポウウオの方が高くて厄介だろう。
それでも元は人間だったことを考えると、何とも言えないやり難さがあった。
俺は息を整えて覚悟を決めると船室に入っていく。
ずんずんと一直線にアイテム箱に近付こうとすると、座っていたバルバロイさんがすぐにサーベルを引き抜いて斬りかかってきた。
それを予想していた俺はバックステップで躱す。
バルバロイさんはアイテム箱を背後にし、こちらへ牽制するようにサーベルを向けてくる。
「バルバロイさん、俺は孫であるルーカス様に依頼されて回収しにきたのです。あなたのアイテムを盗みにきたわけではありません」
バルバロイさんは紛れもなく魔物だ。それは神様から貰ったスキルでも断定されているので間違いはない。
しかし、そこに微かにでも人の残滓があるのであれば、説明すればわかってくれるのではないだろうか。
「ですから、そこを通してくれないでしょうか?」
僅かな希望にすがって問いかけてみるも、バルバロイさんはだんまり。
俺が一歩踏み出してみると、果敢に斬りかかってきた。
アイテムを守るという残滓が残っているだけで、それ以外の記憶や想いは抜け落ちてしまったんだな。
俺は水魔法を発動してバルバロイさんを押し流す。
船室にある椅子やテーブルと一緒に壁に縫い付けられた。その際に手にしていたサーベルは落ちてしまう。
しかし、長年の劣化によって家具は脆くなっていたのか、バルバロイさんに叩き壊された。
俺がアイテム箱に向かうと、バルバロイさんはサーベルを拾うこともせずに焦ったように突撃をしてくる。
「フリーズ」
隙だらけの突進を見て、俺は振り返って氷魔法を発動させた。
目の前に海水が凍結していき、バルバロイさんの体を呑み込む。
瞬時に凍結されたバルバロイさんは手をこちらに伸ばした状態で氷像になった。
その姿は自らの大切な物を守ろうとしている必死さが伝わり、今にも叫び声が響いてきそうだった。
俺はバルバロイさんの胸元にある魔石を確認し、小さなアイスピラーでそこだけを砕く。
すると、スケルトンとしてのバルバロイさんは討伐できたということになったのか、マジックバッグで収納することができた。
「さて、後はアイテムや遺品の回収だな」
何ともいえない後味の悪さを誤魔化すように明るく呟き、俺はアイテム箱に近付いて蓋を開けた。
すると、そこにはたくさんのアイテムが保管されていた。
長い間海水に浸っていたせいか使い物にならなさそうな物もあったが、少し修理すれば使えそうな物がたくさんあった。
アイテムがきちんと原型を留めていたことに安心しながら、ひとつひとつマジックバッグに収納していく。
この箱の中だけで、十二個ものアイテムがあった。
これだけあればルーカスが回収を依頼してくるのも納得だな。
とはいえ、アイテムがここだけにあるとは限らない。他の船室にある可能性や沈没した拍子に海底に落ちてしまった可能性もある。
俺は調査を駆使して、沈没船の中にあるアイテムや遺品を探すことにした。
◆ ◆ ◆
沈没船でアイテムや遺品を回収した翌日。
俺はクラウスにルーカスを呼んでもらって、回収した品物を納品することにした。
「これらが沈没船から回収した物になります」
談話室には二十近いアイテムとバルバロイさんの物らしきネックレスや指輪、鏡なんかの小道具を置いてある。
そして、端には凍結されたバルバロイさんも。
ルーカスはアイテムの確認を後回しにして、凍ってしまった遺骨に寄っていく。
「お爺様……」
遺骨となったバルバロイさんを見て、ルーカスは悲しそうな顔を浮かべた。
「このような綺麗な姿で回収していただいてありがとうございます」
「いえ」
「聖水をかけたいので、氷を溶かしてもらうことはできますか?」
サフィーから貰ったのであろう。ルーカスの手には綺麗な青い瓶があった。
【聖水 高品質】
邪気を浄化する効果のある清らかな水。
豊富なマナを含んでおり、飲むと魔力が回復する。
アンデッド系の魔物に振りかけると、多大な効果がある。
鑑定してみると間違いなく聖水だ。橙色の価値がつく高品質のものをポンと作れるなんてさすがはマスタークラスの錬金術師だ。
「わかりました」
ルーカスの頼みに頷いた俺は、氷魔法を解除した。
包んでいた氷はなくなり、ただの遺骨だけが変わらずに残った。
「お爺様の遺骨を中に……」
「かしこまりました」
アステロス家のメイドたちが棺桶を持ってきて、丁重に遺骨を収納した。
棺桶の中には綺麗な花が敷き詰められており、遺骨が入っても物寂しさはなかった。
棺桶に遺骨が収まると、ルーカスが瓶を開けて聖水を振りかけた。
すると、遺骨からシュウッと物が焼けるかのような音がした。
【バルバロイ=アステロスの遺骨 正常】
どうやら聖水で邪気を払うことができたようだ。
これでバルバロイさんが再びスケルトン化することはないだろう。
聖水を振りかけると棺桶は閉じられ、メイドたちがそれを運んで出ていく。
ルーカスはそれを静かに見送ると、こちらに振り返った。
「ここにあるのがアイテムや遺品ですね?」
「はい」
そう言うと、ルーカスは布の上に載っているアイテムを確認していく。
しかし、その表情はどこか納得がいっていない様子だ。
「……あの、失礼なことを尋ねますが船にあったアイテムは本当にこれだけですか?」
「はい、船内を全て確認し、周囲の海底もくまなく捜索したつもりです」
「そうですか」
どうかしたんだろうか? もしかして、思っていたアイテムがなかったとか?
「なにかおかしなところでも?」
俺が首を傾げていると、立ち会っていたクラウスが尋ねてくれる。
「いえ、祖父が船内に積んでいたアイテムは三十を越えると聞いていたもので……思っていたよりも少なく」
なるほど。それなのに俺が回収してきたものは二十近く。正確には十八個。
ルーカスが思っていたよりも少ないと感じてしまうのも無理はないかもしれない。
とはいえ、勿論俺はアイテムをちょろまかしてなんていない。
だが、ルーカスは俺を疑っているわけではなかったので、穏便に主張することにした。
「バルバロイ様の船は何年も前に沈んだもの。沈没した拍子に海に流されてしまったのかもしれません。アイテムは探査系のスキルを使って回収したので、あの辺りにはもうないかと」
さすがに調査を持つ俺でも、広大な海に沈んだアイテムを見つけ出すことは不可能に近い。
「そうですよね。シュウさんを疑うようなことを言ってしまってすいません。あんな状態にもかかわらず、これだけの数の物を回収してくれたのですから」
「恐縮です」
軽く頭を下げると、ルーカスがアイテムや遺品を確認する作業に戻る。
遺品の中には朽ちかけて使い物にならなさそうな物があるが、バルバロイさんを感じられる物が一つでもあればいいなと思ってできるだけ回収しておいた。
バルバロイさんを感じられる物があったのか、ルーカスは遺品を見てしんみりととしている。
そんな確認作業が終わるとアステロス家のメイドたちがアイテムや遺品を箱に収納していき、馬車へと積み込まれた。
「クラウス様、今回は腕のいい冒険者を紹介してくださりありがとうございました」
「うむ、困った時はお互い様だ。こちらも何かあった時はよろしく頼む」
「はい、喜んで」
クラウスの言葉に返事すると、ルーカスは改まるようにしてこちらを向いた。
「シュウさん、この度は突然このような依頼を受けてくださりありがとうございます」
「いえ、ルーカス様のお役に立てたようでなによりです」
「こちらは今回の追加報酬となります」
アステロス家のメイドが持ってきた皮袋を受け取ると、そこには金貨がずっしりと入っていた。回収の主な報酬はアイテムであるが、スケルトンのことやアイテムをたくさん回収してきたことで上乗せされているみたいだ。
さすがはリンドブルムの領主だけあって金払いがいい。
「そして、その海守の腕輪も差し上げます。豊富な魔力を持っているシュウさんなら、使いこなすことができるでしょう」
「ありがとうございます!」
正直、金銭よりもこのアイテムを貰えたということの方が嬉しかった。
ここにいる間は基本的に装備していたとはいえ、借り物だったのだ。
それが正式に自分の物になると、やはり嬉しいものだ。
「ああ、言い忘れていました。明日、サフィーさんとルミアさんが訪ねたいとおっしゃっていましたが問題ないですか?」
仕事が終わったら声をかけると言っていたが、本当にすぐだな。
「ああ、構わないと伝えておいてくれ」
「わかりました」
ルーカスは丁寧に礼をすると、自身の馬車に乗って帰っていった。
「これでルーカス様の依頼は終わりってことだね」
「ああ」
「ふう、これで本当の意味で羽が伸ばせるや」
なにより今回は厄介な魔物と遭遇していないというのが素晴らしい。
レッドドラゴンやドボルザークとかいう危険度A以上の魔物と出会っていた、今までがやはりおかしかったのだろう。
そう簡単に化け物みたいな魔物が出てきては堪らないしな。
明日からは依頼もないし、気ままに港町で過ごしたり、海に潜って存分に採取でもしよう。
『今後に期待!』
『続きが気になる!』
『更新頑張れ!』
と思われた方は、下のポイント評価から評価をお願いします!
今後も更新を続けるためのモチベーションになりますので!
次のお話も頑張って書きます!




