お茶会
アクセサリーケースを手に戻った俺は、ソファーに腰かける。
「お待たせいたしました。あまり数はないのですが、こちらが最近作ったアクセサリーになります」
「「まぁ!」」
そう言ってケースを開けると、ネルジュとソランジュはアクセサリー見て感嘆の声を上げた。
「前回、販売したものは幅広いお客様が手に取りやすいものだったのですが、今回は女性層を意識したデザインのものになります」
前回は初の露店売りということもあり、客層が偏らない無難なものにした。
しかし、今回は女性に見せることを前提だったので、思い切ってすべてのものを女性向けにデザインしたのである。
水晶を埋め込んだシンプルで上品なネックレス、この世界にある花の形を模しイヤリング、ドボルザークの青水晶をはめた指輪など。
前世の女性向けアクセサリーやロスカのデザインなんかを参考にして作ってある。
宝石なんかも淡い水色や翡翠色、赤、ピンクと女性向けのものが多い感じだ。
「よろしければお手にとってご覧になってください」
「では……」
俺がそう促すと、ソランジュとネルジュは目についたアクセサリーを手に取っていく。
「このネックレス、とても上品で使いやすそうだわ。それに水晶も綺麗……」
「お兄様がお母様に贈ったものとは、まったくデザインが違いますね」
「あはは、あの十字の物を贈ったのですね」
ネルジュが月をモチーフにしたイヤリングをつけているということは、ソランジュに十字架のネックレスを贈ったのであろう。
いくらなんでもあれをソランジュに贈るのは、ちょっと違う気がする。
「まったく、クラウスももう少し贈る物を考えてほしいわ。将来、いい人ができた時に困りそうね」
そもそもクラウスにいい人ができるかが問題であるが、そこは突っ込まないでおこう。
きっとこれはエキシオール家の問題だから。
「このイヤリングはアカーシャの花を模したものですよね?」
「はい、その通りです」
「魔力鋼でこんなにも繊細な花弁を模すことができるだなんて。シュウさんは、やはりすごいですね」
「お褒め戴き恐縮です」
アカーシャのイヤリングは実際に花を見ながら、何度も試行錯誤して作ったものだ。
他の作品よりもオリジナル要素が強いので、褒めてもらえると嬉しい。
「あら、こちらの青い指輪はとても綺麗ね。なんの素材なのかしら?」
「このような透き通った宝石は見たことがありませんね」
さすがは貴族の二人。アクセサリーの中でも一番の目玉商品に目をつけたようだ。
「そちらはドボルザークの青水晶を使っております」
「ドボルザーク!?」
使われている素材を説明すると、落ち着きをみせていたソランジュが驚きの声を上げた。
「失礼しました。つい、驚いてしまって……」
「お母様、ドボルザークというのは魔物ですか?」
さすがにネルジュは知らなかったらしく、きょとんとしながらソランジュに尋ねた。
「え、ええ。ドボルザークは山々に住み、鉱石や宝石を鎧として身に纏う危険な竜種よ」
「そんな魔物の素材を使っているのですね。道理で綺麗なはずです……」
「これはシュウさんが討伐して?」
「ええ、まあ成り行きで……」
「……なるほど、クラウスがルーカスさんに紹介するわけで」
どうやらソランジュはルーカスの依頼について知っているようだ。
この話を聞いて、納得するように頷いていた。
いや、本当に成り行きだっただけで、倒してやろうなんて微塵も思っていなかったんだ。
なんて言い訳したいけど謙遜していると思われそうだし、誤解を解くのも面倒なのでもういいや。
「さすがにドボルザークの素材となると、気軽に買えるものではありませんね」
ああ、やっぱりそうなのか。素材のおおよその値段を知りたくて鑑定したらすごい値段だったからなぁ。
俺にこのような大きな商品を売る力はないので、グランテルの領主や大手の宝石店に売ってしまった方がいいのかもしれない。
なんて考えていると、ネルジュがおずおずと尋ねてきた。
「シュウさん、この指輪以外で欲しいものがあるのですが購入することは可能ですか?」
「はい、勿論です。どれになさいますか?」
「全部です」
「はい? 全部ですか? そうなると、少なくても金貨三百枚以上になるのですが……」
にこやかな笑みを浮かべつつ答えるネルジュの言葉に俺は戸惑う。
今回は元手があったからかそれなりにいい宝石を使っている。全部となると俺の手間賃も含めて、金貨三百枚以上になるのだけれど。
「構いませんよね? お母様?」
「ええ。さすがにドボルザークの指輪は今すぐでは厳しいけど、それくらいなら問題ないわ。ということで、全部でお願いします」
「……か、かしこまりました」
ソランジュの微笑みと共に告げられる圧倒的な言葉に俺は思わず頷いた。
冒険者よりもアクセサリー職人の方が生計を立てられるのかもしれないな。
まあ、なんだかんだと採取しながらの冒険は好きなのでやめないとは思うが。
「シュウさんのアクセサリーを付ければ、社交界で注目の的ですね」
「ええ、新しい流行が生まれそうだわ」
そう和やかに話すネルジュとソランジュを見て、二人は貴族なのだなとしみじみと思う俺だった。
◆
「シュウさん、グランテルでのお兄様の様子はどんな感じですか?」
アクセサリーの売買が終わり、一息ついているとネルジュがそう尋ねてきた。
「私とクラウスさんはあくまで冒険者と依頼人という関係ですので、そこまで深い生活を知っているわけではないですが……」
「はい、冒険者のシュウさんから見た感想で大丈夫です」
そこまで親密ではないとアピールをするが、ネルジュはクスリと微笑みながら言う。
「クラウスさんの依頼は細かい注文が多いので街の冒険者も四苦八苦していますね。それに自分の物差しで物事を進めることも多いですから、冒険者の間でもある意味有名です」
「お兄様はそちらでも変わっていないのですね」
ネルジュは俺がオブラートに包んでいる言葉の意味を理解しながらも苦笑していた。
だが、クラウスだって悪いところばかりではない。
「ちょっと素直じゃないことも多いですが、気遣いができないわけでもないので、根は優しいのだと思います」
一見自分勝手のように思えるが、きちんと礼は尽くしているし、相手のことを思って真っ直ぐな指摘もしてくれる。マジックバッグのことだってそうだ。
この世界についてどうしても疎い俺からすれば、遠慮なく指摘してくれたり、ハッキリと言ってくれるクラウスの存在はかなり有難かった。
言い方が捻くれたりしているのが玉に瑕ではあるが。
「……あんな子だから、グランテルで寂しい生活をしているのだと思っていたのだけれど、シュウさんのような心優しいご友人がいて本当に安心したわ」
心底安心したように言うソランジュの顔は、まさしく母親としてのものだった。
クラウスのグランテルでの生活をかなり心配していたようだ。
「本当にそうですね。貴族の付き合い以外でお兄様が誰かを屋敷に招くなんて初めてのことだったので、最初に手紙で聞いた時は驚きました。よっぽど、シュウさんを信頼しているのだと思います」
「そうですかね? ルーカス様に引き合わせるためかもしれませんし」
クラウスは素直じゃなく、そういった部分を滅多に口にしない奴なので本心ではどう思っているかわからない。
「お兄様は他人に干渉されるのが嫌いなので、たとえ思惑があってもわざわざ屋敷にまで泊めるようなことはしませんよ」
なるほど、確かにクラウスはあまり人付き合いを好まない性格だ。そんな彼がわざわざ家族のいる屋敷にまで招いたのは、ネルジュの言う通り信用があるからなのだろう。
妹であるネルジュにそう言われて、少し腑に落ちた気がした。
「人付き合いが不器用な子だけど、これからもクラウスと仲良くしてちょうだいね」
「お兄様をよろしくお願いします」
ソランジュとネルジュの真摯な言葉を聞いて、クラウスは愛されているのだなと思え、家族というものを羨ましく思えた。
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次のお話も頑張って書きます。




