ロスカの依頼
やれやれ。言い争っていた時はどうなるかと思ったが、何とか落ち着いてくれて何よりだな。
「よかったですね、ロスカさん」
「ありがとうございますっす! これもシュウさんが親方を説得してくれたお陰っす!」
「じゃあ、今日のところは忙しいみたいですし、出直すことにします。ロスカさん、装飾頑張ってくださいね」
「ちょっと待つっす!」
鍜治場から出て行こうとすると、またもやロスカに腕を取られる。
「どうしましたか?」
ドロガンから装飾の実力を示すチャンスも貰えた。
俺にできることはもうないと思うのだが……。
「お願いがあるっす! この大剣に合う装飾の素材をあたしと一緒に探してほしいっす!」
「それはデミオ鉱山に一緒に付いてきて欲しいということですか?」
「そういうことっす! あたしの手持ちにある宝石や鉱石じゃ、この大剣をよくするイメージが湧かないんす。だから、鉱山でピンとくる素材を探すのを手伝ってほしいっす!」
なるほど。この大剣に合う素材を直接探したいということか。
「デミオ鉱山は冒険者ランクC以上がないと入れないと聞きますが……」
「大丈夫っす! あたしは自分で採掘できるように冒険者ランクCを取得しているっすから!」
なんだと……装飾人でありながら冒険者ランクCも所持しているって普通にすごくないだろうか。冒険者一本の俺と同じランクだよ。
「それならロスカさん一人でも十分なのでは?」
「周囲にいる魔物を一人で警戒しながら採掘なんて無理な話だ。そんなことをするのはよっぽど腕に自信があるかバカのすることだ」
「一人で行って採掘してくるシュウさんがおかしいんすよ」
突っ込むつもりがロスカだけでなくドロガンにも突っ込み返されてしまった。
確かに暗い坑道の中、魔物を警戒しながら採掘するって恐ろしいよな。
俺は調査スキルで魔物を感知できるから遠慮なしにやるけど、普通はそういう風になるのか。
「デミオ鉱山は深く潜るにつれて魔物も強くなるせいか、あたし一人の力じゃ限界があるんすよ。どうかシュウさんの力を貸してくれないっすかね? 指名依頼としてお金も払うっすから!」
深く頭を下げながら頼んでくるロスカ。
女性にここまで頼まれてしまうとさすがに断るわけもいかない。
ロスカにはアクセサリーを売る際に力を貸してくれたし、世話も焼いてくれた恩もあるからな。
「わかりました。俺でよければ力を貸しましょう」
「本当っすか! ありがとうっす!」
快く承諾すると、ロスカは勢いよく顔を上げて俺の両手を握ってきた。
「レッドドラゴンを倒したシュウさんがいれば、どんな魔物がきても楽勝っすね!」
「……あくまで俺は採取を専門にしているので、その辺りは期待しないでください」
俺が得意なのは素材を見つけることや、採取することであって魔物と戦うことではないのだから。
■
ロスカから鉱山での同行を頼まれた俺は、早速ロスカと共にデミオ鉱山にやってきていた。
「いやー、鉱山に入るのは久し振りっすねー!」
高くそびえるデミオ鉱山を見るなり、そんな言葉を述べるロスカ。
「最近は宝石とか鉱石を採りに入っていないんですか?」
「昔はお金がなくてそうしていたんすけど、今はある程度収入が入るようになったので冒険者さんに頼んでいるんすよね。それに親方の工房の手伝いや露店のためのアクセサリー作りもあったっすから」
収入があるとはいえ、従業員をやりながらアクセサリー作り、販売など……常人と比べるとかなり忙しい。
そんな彼女に採掘に行く時間がないのも納得だった。
無理に命を危険に晒す必要がないのであれば、依頼するのが一番だろう。
「にしても、シュウさんは本当に身軽なんすね」
ロスカが俺の全身を眺めてしみじみと呟く。
その台詞、ルミアと森に採取に行く際も言われたような気がする。
「俺は極力戦闘を避けるスタイルですから。逆にロスカさんは、そんな重そうなハンマーを持っていて重くないんですか?」
いつもと変わらない服装をしている俺とは正反対に、ロスカは胸当てや肩当てなどの鎧をしっかりと身に纏い、手には大きなハンマーを持っていた。
ドロガンが硬魔石に叩きつけたハンマーほどではないが、見た感じかなり重そうだ。
「これでもあたしは獣人っすからね。そこらの人間の男よりもかなり力があるっすよ?」
どこか自信のある笑みを浮かべながらハンマーを片手で持ち上げてみせるロスカ。
どうやら本人の言うように力には自信があるようだ。
「なるほど、ということは戦闘に自信があると」
「……いや、待ってほしいっす。最近、体をあんまり動かしていないので、いきなり激しい相手は勘弁してほしいっす」
不敵な笑みを浮かべる俺に怖気づいたのか、ロスカが謙虚な態度になった。
「まあ、戦闘は無駄な時間もかかりますし、俺も望むところじゃないのでできるだけ避けていきますよ」
「よかったっす。あたし、耳と鼻はいいっすから索敵も任せるっす!」
まあ、その辺については調査スキルがあるので問題ないが、索敵できる方法が多いに越したことはないのでもしもの時は頼りにさせてもらおう。
「それじゃあ、早速中に入りますね」
心の準備が整った俺たちは坑道の中に入っていく。
「ライトボール」
「こんなところで使わなくても――って、シュウさんの魔力だったら問題ないっすね。助かるっす」
本来であれば、光の差し込んでくる一階ではあまり灯りをつけないらしい。
しかし、俺には豊富な魔力があるので、最初から気にすることなく魔法で灯りをつけることができる。
ロスカも俺も坑道内を歩き慣れているとはいえ、視界は良好な方が安心できるものだ。
ライトボールで薄暗い坑道内を照らし、俺たちは足を進める。
「どうします? 一階から採掘しますか?」
「いや、一階にある素材はあたしも持っているっすから、とりあえず三階を目指してほしいっす」
デミオ鉱山は地下の三階から鉱石や宝石の種類が豊富になってくるからな。
まずはそこから探す感じなのだろう。
「わかりました。では、地下の三階を目指しますね」
どうやら低階層にある素材は既に持っているようだ。そうだとすれば、ここで採掘をする意味はない。
魔物と出くわさないように魔石調査をしながら、最短ルートで地下三階に向かうまでだ。
「あ、あの、シュウさん? そんなに無造作に進んで大丈夫っすか? もっと索敵とかしながら慎重に進んだ方がいいと思うっすけど……」
「大丈夫ですよ、この辺りに魔物はいないですから」
「本当っすか? いきなり魔物と遭遇するのは勘弁っすからね?」
心配するロスカをよそに、俺は魔石調査を使いながら坑道をぐんぐんと進んでいった。




