金色の素材
調査の力の有用性がわかったところで、俺は安全な人里を目指すことにした。
本当ならば、一日この森に籠って素材集めに明け暮れたいところであるが、今の俺はあまりにも異世界のことを知らなさすぎる。
人里を拠点に生活して、この世界の常識なんかを学んでいくべきだろう。
小川を鑑定した結果では、近くにフェルミ村があるらしいのでそこを目指す。
とはいっても、方向はまったくわからないが、人間が生活をする上で水は必要だ。きっとこの小川沿いに村があるだろう。
そう信じて俺は川沿いに下って歩く。
持っている素材で検索をかけて調査を使えば、ワーグナーなんかの危険な魔物を回避することができるので迂闊に戦闘になることはない。
素材を持っていない魔物は調査に引っかからないみたいなので、できるだけ魔物の素材は拾うようにする。
お陰でワーグナーやホーンラビットの他にもゴブリン、ブルーベアー、ワイルドボアーなんかも調査できるようになった。
これだけの魔物を感知できるようになったので、俺の旅路はかなり危険度が下がっただろう。
こまめに調査を使いながら周囲の魔物を警戒。念のためにいい素材が落ちてないかもチェック。
「ん? なんか金色に光ってる?」
今まで見えた素材の色合いは紫、青、赤、橙という四色。それらとは一線を画すような強い輝きをする素材が見えた。
確認してみると、鱗みたいなものが地面に落ちている。
動いているわけではないので魔物ではないと思う。
金色の素材ってどんなものだろう。
珍しそうなものがあれば、つい近付きたくなってしまうのが収集癖のある俺。
川沿いのルートから少し外れて向かうと、地面の上にポツリと赤い鱗が落ちていた。
深い赤みのある色合いをした鱗。見る角度を変えることで微妙に色合いが異なり、こうして眺めているだけでも力強さを感じさせる。
「……綺麗だな」
心の底からそう思えた。子供の時に海で初めてビーチグラスを見つけた時のような……そんな感動がある。
前世でも綺麗なものはたくさん見てきたけど、これは歴代でも一位、二位を争うほどのものだな。
たった一枚で手の平と同じぐらい大きさがあり、持ち上げてみるとずっしりとした重さがある。
「これだけ大きな鱗を纏っているとなると、かなりの大きさだよなぁ。一体、何の素材なんだろう?」
持ち上げた赤い鱗に早速鑑定を使ってみる。
【赤竜の鱗】
空の王者ともいわれるレッドドラゴンの鱗。熱に強く、鋼よりも硬い。武具や防具だけでなく、魔道具や魔法、錬金術の触媒にもなりえる稀少価値の高い素材。
「ドラゴンの鱗っ!?」
あらゆるファンタジーで無類の強さを誇るドラゴンの素材。
この世界にドラゴンがいることに感動したいところだが、鱗がここに落ちているということは近くに存在している可能性がある。
「ドラゴンの鱗、調査!」
慌ててドラゴンの鱗を指定して、調査。
魔力の波動を飛ばしてみると、金色に光り輝く鱗は表示されなかった。
でも、この調査って空にまで浸透するのだろうか? 地表にはいないけど、頭上を飛んでいたりしたら怖すぎる。
俺は魔力の波動を高く分厚くして、上空までの空気もカバーするようなイメージで調査をやってみる。
すると、魔力の波動が頭上にまで広がっていく感触があった。
上空でも金色に光り輝く鱗はない。
ということは、この近くにドラゴンはいないようだ。
そのことに安心して息を吐く。さすがにいきなりドラゴンと戦闘とかシャレにならないからな。いくらある程度の自衛の力を授かっていても、ドラゴンに勝てるはずではないだろう。
この鱗は、森の上を通り過ぎたドラゴンがポロリと落としていった感じかな。
鑑定でも稀少価値が高いと書いていたし、やはり価値の高いものほど金色に近いという認識であっているのだろうな。
にしても、ドラゴンの鱗かぁ。ゲームでは集めたことはあるけど、こうして実物を採ってみると感慨深いものがある。
ずっと眺めながら歩きたいところだけど、さすがに重いので泣く泣くマジックバッグの中へしまった。
ドラゴンの鱗を拾ったことにテンションが上がりながらも川沿いの道に戻る。
そして、頻繁に魔物を調査しながら素材を採取してひたすら進んでいく。
小川が大きな川と合流し始めたところで、木々が薄くなりようやく森を抜けた。
久し振りに広大な空が見えたことに解放感を覚えながら、川沿いを進んでいく。
すると、ほどなくして遠くでオレンジ色の屋根をした民家が見えてきた。
「おお、村だ!」
どうやら川の近くに村があるという俺の推測は正しかったらしい。
もしかしたら、あそこがフェルミ村なのかもしれない。
異世界で初めての人里に心をワクワクさせながら、俺は村に向かって歩いていく。
村では子供が遊んでいるのか、時折笑い声なんかが聞こえていた。
子供の笑い声が聞こえるのならいい場所のはずだ。
村を囲うように柵が立っているのは魔物対策なのだろう。唯一の入り口らしい場所には槍を手にしたお兄さんが立っている。
きっと、村の見張り役なのだろう。
これは第一印象が大事だな。こちらから笑顔で声をかけて敵意がないことをアピールだ。
「こんにちは。ここはフェルミ村というところで合っていますか?」
「ああ、そうだ。ここはフェルミ村だよ。で、こんな田舎の村に何の用だ?」
どうやらここはフェルミ村で合っていたようだ。歩いて数日とかかる場所じゃなくてよかった。
って、安心している場合じゃないな。ここで不審者だと思われて追い払われたら、俺は休むこともできない。
「俺は蘇材集といいます。素材を集めながら旅をしていまして、この村で身体を休めたいなと思いまして」
「おお、素材採取を専門にしてる冒険者か! それは心強いな!」
「いえ、冒険者ではないですし、半人前ですよ」
どうやらこの世界では冒険者なるものがあるらしい。
冒険者といえば、ゲームでも定番な依頼主の依頼に応えて、魔物の討伐や採取、雑用なんかをこなす何でも屋。
採取依頼なんかがあれば俺にピッタリな職業かもしれない。後でじっくり調べよう。
「にしても、ソザイシュウだったか。変わった名前だな?」
「続けて読むんじゃなくてソザイ=シュウです」
「うん? 家名があるってことは、もしかして貴族さんか?」
おっと、どうやらこの世界では苗字を名乗ると、貴族と勘違いされてしまうらしい。
面倒なので訂正してシュウと言い直す。これからはシュウと名乗ることにする。
「俺の名はローランだ。この村の自警団をやっている。お前さんは物腰も丁寧だし、悪い奴じゃなさそうだから入っていいぞ。何もない村だがゆっくりしていってくれ」
「ありがとうございます、ローランさん」
どうやらこの村に入る許可を頂けたようだ。
そのことに安心して、俺はフェルミ村に入っていく。
まずはゆっくり眠れる場所を確保したいな。
宿屋なんかがあればいいけど、どこにあるんだろうか?
「宿なら真っすぐ進んだ先にある一番大きな建物だぞー」
歩きながら周囲を見渡していると、入り口近くのローランが教えてくれる。
旅人が村に入って最初にすることは宿探しだもんな。どうやら何を考えているかお見通しだったらしい。
ローランに礼を言って、俺は言われた通りに真っすぐに進んでいった。