スタンニードルの使い方
過去の討伐報告をし、クラーケンとゲイノースの一部の素材を提出した。
すると、ラビスは血相を変えて奥のフロアへと引っ込んでしまった。
これからルーカスや海底神殿の調査隊に問い合わせたり、レイルーシカが住んでいるダークエルフの部族に聞き取り調査を行うようだ。
思っていた以上に重要な報告をサボっていたので、なんだか申し訳ない限りだ。
にしても、スタンニードルで生け捕りにすると、喜ばれる魔物について尋ね損ねてしまった。
「何か気になることでも?」
カウンターで呆然としていると、受付嬢であるシュレディが声をかけてくれた。
ギルドで登録してからラビス担当みたいな感じになっていたので、他の受付嬢と話すのは随分と久しぶりな気がする。
「グランテル近辺に棲息する魔物で、生け捕りにすると喜ばれる魔物っていますかね?」
ただスタンニードルの効果を見せるのであれば普通の魔物でもいいが、どうせなら生け捕りにして喜ばれる魔物がいい。
尋ねると、シュレディは少し考え込んだ末に口を開いた。
「ガラスネズミです」
「あの背中に透明な水晶を生やした魔物ですね?」
グランテル近辺の平原に棲息しているハリネズミのような魔物だ。
遠目に何度が見たことはあるが、実際に討伐したことはない。
「はい。ガラスネズミの背中に生えている水晶には魔力が宿っています。討伐してから採取すると魔力が抜けて劣化してしまうのですが、生きたまま採取することによって良質なガラスの原料となるのです」
生きている状態のまま背中の水晶を採取するのは少し残酷だけど、そうすることで良質な素材が手に入るのであれば仕方がない。
「ちょうどガラスネズミの水晶の採取依頼がありますが受注されますか?」
「お願いします」
「かしこまりました。では、受注の手続きを進めます」
そのように答えると、シュレディはその場で受注の手続きを進めてくれた。
魔物に対する知識も豊富で仕事もとてもスムーズだ。さすがはギルド職員だ。
「受注が完了しました。水晶は良質なほど買い取り額は上がりますので」
「わかりました。頑張って良質な水晶を採ってきます」
よし、これでスタンニードルの実演のついでに採取依頼もこなせる。一石二鳥というやつだな。
●
冒険者ギルドを出る頃には太陽が中天に差し掛かっていた。
ちょっとした顔出しのつもりだったけど、色々と報告をすることになったせいで時間がかかってしまった。
急ぎ足でサフィーとルミアのお店に向かう。
昼食については道中にある屋台のサンドイッチを買い、歩きながら食べることでお腹を膨らませた。
お店の近くにやってくると、既に準備を整えたサフィーとルミアが立っているのが見えた。
二人を待たせてしまったようだ。
「お待たせしてすみません。少しギルドでの報告が長引いてしまいまして」
「まったくだ。男が女を待たせるとはなってないぞ、シュウ君」
「気にしないでください、シュウさん。師匠も先ほどようやく起きてくれて、準備を整えたばかりですから」
偉そうなことを言っているサフィーだが、本当についさっき起きて準備を整えたばかりのようだった。
サフィーの怠惰さに俺は少しだけ感謝した。
「では、南門から外に出ましょうか」
「はい!」
全員が揃ったところで移動を開始。
住宅街を抜けて南下していくと南門にたどり着き、ギルドプレートを掲げ、目的を告げて外に出た。
南門を抜けると街道が真っすぐに伸びており、それ以外は平原が広がっていた。
「街の外に出るのは久しぶりだ」
「たまには外にも出ないと健康にも悪いですよ?」
ルミアが小言を漏らすということは、よっぽど外に出ない生活をしているのだろうな。
視界の果てまで途切れることのない緑のカーペット。地平線の彼方では青色の空と混じり合っている。前世の日本では中々見ることのできない光景だな。
「スタンニードルを実演してくれるとのことだが、何かお目当ての魔物でもいるのか?」
街道を歩いているとサフィーが尋ねてくる。
「ガラスネズミの水晶を採ろうかと思っています」
「なるほど。ルミア、ガラスネズミの水晶の使い道は?」
「錬金術でガラスと混ぜ合わせることによって、より強度と透明度の高いガラスを作ることができます」
サフィーの問いにスラスラと答えるルミア。
日頃、しっかりと勉強しているだけあってグランテル周辺に棲息する魔物の知識はバッチリのようだ。
「そうだな。そのお陰でガラスネズミの水晶は王侯貴族の住む屋敷などのガラスによく使用される人気素材だ。しかし、死亡してから採取をすると水晶から魔力が抜けていき劣化してしまう。スタンニードルを使って、それをどう解決するか楽しみだ」
「期待していてください」
サフィーの言葉に答えながら、俺はガラスネズミで検索をかけて、調査スキルを発動。
広範囲に渡って魔力の波動を放つと、前方二百メートルほど先にガラスネズミがヒットした。
「目標はあっちにいるようです」
「おお、もう見つけたのか。シュウ君の索敵スキルは便利だな」
街道から外れ草原の柔らかい草を踏みしめながら、俺たちはガラスネズミのいる方向へ。
そのまま直進すると、程なくして灰色の体表に透明な水晶を生やした魔物がいた。
まだ俺たちには気付いていないのか、短い足を使ってのそのそと歩いている。
「可愛らしいですね!」
「なんて浮ついた考えでいると、水晶を飛ばされてズブリだぞ」
「わ、わかっています」
サフィーの釘を刺されるルミアだが、微妙に表情が緩んでいるようだった。
【ガラスネズミ 危険度D】
グランテル周辺に棲息するネズミ型の魔物。
獰猛な性格をしており、敵を見つけると背中に生えた水晶を飛ばしてくる。
水晶には魔力が宿っており、良質なガラスの素材となるが、死亡すると魔力が抜けて劣化していく。
良質な水晶を採取するには、生け捕りにして採取するのを推奨。
鑑定してみるとガラスネズミの情報が出てきた。
シュレディやサフィーが言った通り、やはり死亡してしまうと背中の水晶が劣化してしまうらしい。
通常ならばなんとか魔法を駆使して、拘束するところだが、今の俺にはスタンニードルがある。
「では、スタンニードルの新しい使い方をお見せします」
「見ものだな」
「どのように使うのか楽しみです」
二人から好奇の視線を向けられる中、俺はスタンニードルを手にして進む。
察知されては稀少な背中の水晶を攻撃道具として使われてしまう。
察知されず、攻撃する暇すら与えずに無力化するのが好ましい。
気配を殺して忍び寄りながら俺は、調査を発動。
電流を流すことで全身を麻痺させることのできる箇所を探る。
すると、ガラスネズミの額、腹、左腹部の三か所に赤い点が表示された。
腹と左腹部は狙うのが難しいために額だな。
やがて射程圏内に入ると、俺は一気に駆け出した。
草を食んでいたガラスネズミが何かを察知したようにピクリと耳を動かした。
が、既にそれは遅い。既に準備を整えていた俺は、スタンニードルを伸ばしていた。
こちらへ振り返ったガラスネズミの額にスタンニードルの針が突き刺さった。
「スタン」
その瞬間、俺はスイッチを入れて電流を流す。
「キュウウッ!?」
ガラスネズミは悲鳴を漏らすと、ビクビクと身体を震わせて動かなくなった。
「ガラスネズミは生きていますよね?」
「はい。こうして意識は残っていますので、死亡しているわけではありませんよ」
試しに撫でてみると、噛みつかれることもなく水晶を飛ばされることなくガラスネズミを撫でることができた。
「ただ電流で麻痺をさせたというわけではないな? ただの麻痺と違ってガラスネズミは一ミリも体を動かせていない」
雷魔法の使い手だけあって、一目見ただけでガラスネズミの状態がただの電流による麻痺ではないと見抜いたようだ。さすがだ。
「はい。ガラスネズミにあるツボに針を刺し、電流を流すことによって、全身の筋肉を動かすことができないようにスタンさせています」
「理屈はなんとなくわかりますが、そんなことができるものなのですか?」
「普通は不可能だ。魔物の身体の構造は千差万別。それをすべて正確に把握し、実行に移さなければいけないのだからな」
「俺はそれをスキルで補っているんです」
「なるほど。スキルを駆使して、身体構造を把握しているわけか。恐れ入った」
神様から与えられたチートのようなスキルがあって初めてできる技だろう。
「あの、ガラスネズミはしばらく動けないんですよね? 私も撫でていいですか?」
「どうぞ」
許可を出すと、ルミアは物怖じすることなくガラスネズミに触れた。
動けない状態であっても魔物に触れるのって勇気がいるものだけど、相変わらずの胆力だ。
「ふわあ、温かい。それにガラスネズミの毛皮って柔らかいんですね」
恍惚とした表情を浮かべるルミア。
危険度Dの魔物であってもスタンさせてしまえば、ハリネズミと何ら変わりない扱いだな。
「スタンしている今のうちに水晶を採取しましょうか」
「そうですね」
ひとしきり撫でると満足したのだろう。ルミアは糸鋸を取り出すと、ガラスネズミの背中に生えている水晶を切り出した。
動けないところ大変申し訳ないが、これも稀少な素材を確保するためである。
俺も心を鬼にして、マジックバッグから糸鋸を取り出して、水晶をカットした。
新作はじめました。
『異世界ではじめるキャンピングカー生活〜固有スキル【車両召喚】はとても有用でした〜』
異世界でキャンピングカー生活を送る話です。
下記のURLあるいはリンクから飛べますのでよろしくお願いします。
https://ncode.syosetu.com/n0763jx/