巨大樹
更新再開していきます。
バイローンが凍死したことを確認すると、少しだけ肉を解体して残りはマジックバッグに収納した。
「うん、問題なく入ってよかった」
これだけ巨体だと解体するのも大変だ。
全部の毛皮を剥いでなんてやっていたら、あっという間に一日が飛んでしまう。
仕事を押し付けるようで申し訳ないが、解体についてはライラート家でやってもらうことにしよう。
「シュウさんのマジックバッグの容量は非常識ですわ。一体どちらで入手されたので?」
「秘密です」
どうやってと言われても、神様から貰ったとして言えない。
「ですわよね。それほどの質量が悠々と入ってしまうマジックバッグが羨ましいです」
そんなものを正直に話すわけにもいかないので、適当に誤魔化すしかなかった。
幸いフランリューレは素直に引き下がって、それ以上追及することなかった。
大貴族であるライラート家が所有しているマジックバッグでも、大きな一軒家のリビング程度の容量しかないという。
そう思うと俺のマジックバッグが如何に規格外なのかわかるな。
クラウスが最初に出会った時に注意してくれた意味が、今になって本当にわかった気がする。
「にしても、思いがけずバイローンの肉が入手できましたね」
「ええ、向こうからやってくださったお陰で探す手間が省けましたわ。残る二つの食材は巨大樹にありますので、あちらに向かいましょう」
俺たちは残りの二つの食材を採取するために、巨大樹に向かうことにした。
草原地帯から歩くこと小一時間。
俺たちは巨大樹の根元までやってきていた。
「近くで見てみると、また迫力がありますね」
どっしりと地上から生えている蔓からは、枝分かれしてたくさんの蔓や葉っぱが生えている。下から見上げようとしても頂上はまるで見えない。
横幅も軽く百メートルはあり、ぐるりと一周して眺めるのも大変そうだ。
一体どれほどの年月をかけて、ここまで成長したのだろうか。生命の神秘を感じさせられる思いだ。
「で、天空魚と巨大樹の実はどこにあるのでしょう?」
「天空魚は巨大樹の七百メートルから八百メートル付近で姿が確認されております。巨大樹の実については頂上部分に生るそうです」
「ということは、頂上まで行かないといけないですね」
「ですわ」
「ちなみに登る方法とかは?」
「自力でよじ登るそうです」
「ですよねー」
何となくそんな気がしていた。
エレベーターや階段なんて便利ものはない以上、自力でこの巨大な蔓を登るしかないだろう。
幸いなことに蔓にはしっかりと足場があり、凹凸がある上に蔦や葉っぱも伸びている。
そこを上手く伝っていけば生身で登ることは不可能ではない。
「頂上まで身が保ちますかね?」
「生えている蔦や葉っぱは、ちょっとやそっとでは沈むことがないそうで、そこを休憩地点しながら進むそうですわ」
ずっと休み無しで進むのなら無理だが、ちゃんと休憩できる場所があるのなら行けるかもしれない。
「ただそれでも中々に辛いようですが……」
付け加えるように言ったフランリューレの言葉に苦笑するしかない。
あくまで不可能と言えるレベルが、困難というレベルに下がっただけで厳しいことに変わりない。自らの筋力や体力を信じるしかないな。
「困難なことは承知の上です。とりあえず、行ってみましょうか」
「はい!」
覚悟を決めたところで俺とフランリューレは巨大樹を登ることにした。
先行するフランリューレに続いて、登ろうとするとアクシデントが発生した。
それはフランリューレの装いだ。魔法学園の女子制服は、下半身がスカートになっているわけで下から見上げるともろに薄い布が見えそうになる。
これ以上進もうものならガン見えだ。
「フランリューレさん! 俺が先行します! というか、させてください!」
「ですが、ここは知識のあるわたくしが前にいた方がよろしいのではなくて?」
俺の提案を聞いて、フランリューレがこちらを見下ろしながら怪訝な顔をする。
どうやら今どれだけ危ない状況なのか気づいていないようだ。
「これ以上フランリューレさんが先行し続けると大変なことになります!」
「……大変なこと?」
フランリューレが小首を傾げた瞬間、風が吹いた。
それはフランリューレのスカートをふわりと持ち上げる。
そのせいで俺からはギリギリ見えなかったスカートの中身がバッチリと見えてしまった。
水色だ。
スカートが巻き上がったことにより、フランリューレは慌ててスカートを抑えて地面に着地した。
「……見ました?」
「見てないです」
たとえ見えていたとしても、こちらとしてはそう答えるしかない。
羞恥、疑念、焦りといった感情に支配された微妙な空気に満たされた。
だが、程なくしてフランリューレが空気を変えるように咳払いした。
「確かにわたくしが先行するのはよろしくないですわね。ここは護衛であるシュウさんに先行して頂くことにしましょう」
「はい、お任せください」
澄ました顔をしているが、しっかりと頬が赤くなっている。やっぱり恥ずかしかったのだろうな。とはいえ、それを指摘するほど俺は野暮じゃない。
全力で流そうとしているフランリューレの思惑に俺は乗っかることにした。
気を取り直して、俺が先行する形で巨大樹を登ることにする。
巨大樹の表面はつるりとしているようだが、意外とザラついていた。不思議な感触だ。
手足のかける凹凸を探して、ゆっくりと登っていく。
なんだかボルダリングをしているようで、ちょっと楽しい。
日本で生きていた頃ならば、運動不足も相まって苦労したに違いないが、今の身体はとても軽い上に運動神経もいいので、スルスルと進める。
「シュウさん、少し待ってくださいませ」
「あっ! すみません!」
楽しくなって進んでいると、フランリューレとの距離が空いていることに気づいた。
しまった。楽しくてつい先へと進んでしまった。
護衛対象から離れるなんて護衛失格だ。徒歩で進むのとは違うんだ。しっかりと距離感を把握していないと。
俺はフランリューレのペースに合わせることにした。
そうやって三十メートルほど進むと、大きな葉っぱが伸びていた。
先に登ってマジックバッグから取り出した大きな石を投げてみる。
五キロある石を投げ入れてみたが、葉っぱが沈む様子はまるでなかった。
おそるおそる足を置いて体重をかけてみるも沈む様子はない。
「フランリューレさん! もうすぐ葉っぱなので休憩できますよ!」
俺の声を聞いて、フランリューレはこくりと頷きながら登ってくる。
その間に俺はしっかりと調査スキルを発動して、魔物がいないかを確認しておく。
やがてフランリューレがよじ登ってきて、俺と同様におそるおそる確認しながら葉っぱに乗り移ってくる。
「事前に葉っぱに乗れるとわかっていても中々に怖いものですね」
「高さが高さですからね」
ふと下を確認してみると、当然のように高い。
この葉っぱが沈んでしまったら一直線に落下していくわけだからな。
「あと九百七十メートルで頂上ですね」
「気が遠くなりますわ」
これには俺だけでなくフランリューレも死んだような目をしていた。
三十メートル登っただけで、これだけ緊張し、体力を消費するのだ。
これがまだまだ続く上に、より過酷になると思うと少し気が重たくなるのも無理もない。
葉っぱの上で腰を下ろして、しっかりと水分補給。
登っている最中はすぐに水を飲むことはできないからな。
新作はじめました。
【魔物喰らいの冒険者】
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冒険者のルードが【状態異常無効化】スキルを駆使して、魔物を喰らって、スキルを手に入れて、強くなる物語です。