草原で食材採取
ボムコーンと遭遇した場所から西に向かうことしばらく。
鬱蒼とした木々はすっかりとなくなり、見晴らしのいい平原へとたどり着いた。
辺り一面が緑に覆われており、色とりどりの草花が咲いている。
「うわー! とても長閑な場所ですね!」
「この辺りは保護区の中でも大人しい動植物が多いエリアで、食べられる食材も豊富ですのよ!」
案内してくれたフランリューレがどこか自慢げに言う。
周囲を見渡してみると、見慣れない動物こそいるものの物騒な空気は感じない。
人間である俺たちを見ても、一切気にしていない。どの個体も思い思いに過ごしているようだ。
実にのんびりとした空気が流れている。
大きく深呼吸をしながら見渡していると、遠くに巨大な植物が生えているのが見えた。
遠目からでも見上げられるような大きさだ。
「……もしかして、あれが巨大樹ですか?」
「ええ、あれが保護区最大の植物の巨大樹ですわ」
「すごい高さですね。どのくらいあるんでしょう?」
「今も成長中ですので正確な数字まではわかりませんが、調査によると一キロはあるとのことでした」
「一キロ……とんでもない植物ですね」
前世でも世界最大の植物の大きさは百十メートルくらいだったはず。
単純にその十倍だ。
「ちなみに天空魚も巨大樹の傍を泳いでいます」
「つまり、二つの食材はあそこに行けば採取できるというわけですね?」
「そういうわけです」
残りの三つも保護区の中を歩き回って探すのかと思ったが、二つは固まっているようで良かった。
もっとも、あの巨大な植物にある食材が楽に採取できるかは不明なのだが。
「巨大樹の話は、また後にして昼食にいたしましょうか」
「はい。その前に少し採取をしてきてもいいですか? 周囲にたくさん食材があるみたいなので、採取した食材を食べてみたいなと」
軽く調査スキルを使ってみたら、辺り一面で素材の光が輝いていた。
せっかく食材が豊富な美食保護区にやってきたのだ。
持ち込んだ弁当だけというのも味気ない。ここでしか食べられない食材がたくさんあるのであれば、採取して食べてみたい。
「シュウさんは本当に採取がお好きなのですね。いいですわ。わたくし、お付き合いいたします。昼食はここにある食材で賄うのはいかがです?」
「あ! いいですね! やってみましょう!」
フランリューレの提案に俺は頷いた。
ここにある食材だけで昼食を賄うというのは実に面白そうだ。
「では、食材を集めたらここに集合で」
「わかりました」
俺たちの傍にはポツリと長細い木が立っている。
ここを目印にすれば、すぐに戻ってこられる。
このエリアは危険な魔物はあまり近づいてこないと言うし、別行動をしても大丈夫だろう。
フランリューレの方にも調査スキルを飛ばして保険はかけるし、見晴らしがいいので離れていても位置を確認できる。
そんなわけで俺とフランリューレは昼食となる食材を集めることにした。
「調査!」
スキルを発動すると、だだっ広い平原で色とりどりの光が見えた。
「ん? というか、この木も食材なのか?」
一番近くで輝いていたのは、集合地点になっている木だ。
【スパイシーの木】
香ばしい匂いを放つ木。実には胡椒が生る。
樹皮をそのまま食べることができる。
とってもスパイシーな味。
鑑定してみると、これも立派な食材のようだった。
試しい樹皮をナイフで削ってみると、あっさりと剥がれた。
匂いを嗅いでみると、確かにスパイシーな香りがする。
そのまま食べてみると、ポリポリと歯応えのある食感がし、スパイシーな味がした。
「胡椒味のポテトチップスを食べてるみたいだ」
主食とはなりえないが、食べるだけで食欲が増進されるような気がした。
お菓子とはしては勿論、酒のつまみにもなりそうだ。
これはこれで悪くない。
俺はぺりぺりとナイフで削って樹皮を採取する。
ついでに上の方にある小さな黒い実も摘む。
こちらが実となる胡椒のようだ。上質な胡椒らしく実に香ばしい。
これはそのまま食べるのではなく、調味料として使えそうだ。
スパイシーの木の食材を採取し終わると、次の食材のところに移動。
気になっているのは草むらの中を移動している生き物だ。
草を踏みしめて移動すると、ぴょんと生き物が後ろ向きに跳ねた。
【草海老】
草原地帯に生息する海老。
乾燥に強く、地上での活動を可能にしたせいか、海での活動ができなくなっている。
夜間になると活発に行動する。小さな時は雄だが、成長すると雌に性転換する。
成長した雄の方が食用に適している。
草原地帯で生きるためかカモフラージュしやすいように体表は緑色になっている上に、後ろ脚だけがやたらと発達している。
ぱっと見るとバッタのように見えるが、それ以外の基本的なシルエットは海老そのものだった。
「……海老が地上にいる」
基本的に海や川に生息している生き物だが、こうして地上にいると違和感しかない。
草むらをカサカサと動き回り、跳ねられると昆虫っぽさを強く感じてしまう。
「でも、一応は海老なんだし美味しいんだよな」
なんだか昆虫を採取しているような気分だが、これも立派な食材だ。
そう思って手で掴んで採取カゴに入れていく。
カゴの中でピョンピョンと跳ねる音がダイレクトに伝わる。
完全にバッタを捕まえている気分だ。小学生の頃に戻った気分。
ある程度の数の草海老を捕まえ終わると、綺麗な花が咲いている場所に足を踏み入れる。
そこには色とりどりの花が咲いていて、とても綺麗なのだがそのほとんどが食材だった。
【ベジタブルドライフラワー】
花弁が様々な野菜の乾燥チップスとなっている花。
一つの花を食べるだけで、一日分の必要な野菜栄養素を摂取することができる。
【豚薔薇】
豚のバラが生っている花。
植物性の肉のため動物性のものよりもカロリーが控え目。
茎には消化を助ける成分が含まれている。
特にインパクトがあるのがこの二種類の食材だ。
ベジタブルドライフラワーは鑑定で出ている情報の通り、花びらが野菜の乾燥チップスとなっている。
橙色の花びらをつまんで食べてみると、完全に乾燥させたニンジンだった。
旨みや甘みがギューッと濃縮されており、とても美味しい。
カボチャ、レンコン、さつまいも、ピーマン、キャベツと様々なドライ野菜が生っているので、他の味も楽しめるだろう。
花びらをそのまま千切って採取する。
ベジタブルドライフラワーの採取が終わると、次は豚薔薇だ。
こちらは名前の通り、豚バラ肉が薔薇の形となっているのだ。
肉が植物として自生していることがすごい。肉の生る実なんて頭の悪い植物がないかなと、大昔に思考したものだが、まさか異世界にあるとは思わなかったな。
「これだからこっちの世界での採取はやめられないな」
俺が想像する素材の常識を軽々と越えてくる。
未知の素材を見つけることが、採取することが楽しくて仕方がない。
異世界にやってきて心の底から良かったと思う。神様には本当に感謝だ。