黄金コーン
「異世界のんびり素材採取生活」の小説3巻とコミック2巻が発売中です。書き下ろしもありますのでよろしくお願いします。
「フランリューレさん、助かりました!」
「いえ、お互い様ですわ」
にしても、ボムコーンは髭を燃やされるのが弱いんだな。
他の場所に攻撃を受けてもピンピンしているのに、髭だけは敏感な模様。
もしかして、髭が弱点なのではないか?
【ボムコーン 危険度B】
人型のトウモロコシの魔物。
纏ったコーンを内部で爆裂させることによってコーンを飛来させてくる。
全身が肉厚なコーンに覆われており、生半可な攻撃ではビクともしない。
ボムコーンの髭にはそれぞれ個性があり、艶やかで長いほど立派。
頭部の髭が弱点であり、攻撃すると怒り狂う。
髭が短くなると、元気がなくなり、コーンを装填できなくなる。
そう思いながら鑑定をしてみると、ボムコーンの情報が出てきた。
やっぱり、頭部の髭が弱点みたいだ。
鎮火させ終わったボムコーンがゆっくりと立ち上がるなり、体を震わせる。
狙われるは魔法を放ったフランリューレ。
次の行動が予想できたので、俺はボムコーンの周りを囲うように氷壁を展開させた。
俺たちに近い距離で受け止めなければ、コーンを破裂させたとしても支障はない。
ガガガガガガガガガガッと爆裂した無数のコーンが氷壁に阻まれた。
そのすべてが炸裂し、氷壁が一気に破砕する。
氷の破片やコーンの破片がこちらに飛んできたので、風魔法で散らした。
ああいった爆破系の攻撃をする相手には、氷魔法を使うのはあまり良くないな。
自分の魔法が思わぬ方法で危害を加えかねない。
「とんでもない攻撃力ですわね」
「ですが、それがずっと続くわけではないみたですよ」
「そうなんですの?」
崩れ落ちた氷壁の奥では芯だけになったボムコーンが、コーンを再装填している。
「よく見てください。コーンを装填する度に頭部の髭が短くなっていませんか?」
「あっ! 本当ですわ! それに最初に比べてコーンを生やすのも遅くなっているような?」
コーンを採取しているだけのように見えて、フランリューレはしっかりとボムコーンのことを観察していたようだ。
未知の魔物との戦闘は相手のことをしっかり見ること。
それが冷静に出来ているだけで十分にすごい。
「どうやらボムコーンの弱点は頭に生えている髭みたいですね。あそこを攻撃することで元気がなくなり、コーンを生成できなくなるみたいです」
「なるほど! でしたら、あそこに攻撃を加えれば大人しくなってくださいますわね!」
俺たちが続けて燃やしたこともあり、最初に比べるかなり短くなっている。
このままコーンを爆裂させ続ければ、勝手に消耗して大人しくなるだろう。
ボムコーンは再び身体を震わせてコーンを飛ばしてくる。
「ウインドベール!」
それに対して俺はボムコーンの周囲に風魔法を展開。
飛来したコーンが風のカーテンにすべて受け止められる。
こうなってしまえば飛来するコーンは意味を成さない。
ボムコーンは風の中を突っ切って脱出しようとしたが、風圧を強めると髭部分に切れ込むが入った。
これには怒り心頭だったボムコーンも真っ青になり、安全圏である中心部分に座り込んだ。
どっかりと体を投げ出して座る様は、まるで降参だと言わんばかりの様子。
「どうやら大人しくなってくれたみたい」
「ええ、そうみたいですわね」
俺はウインドベールを解除した。
警戒しながら近づいてみると、ボムコーンは襲ってくる様子はない。
自慢の髭に切れ込みが入ってしまい、すっかり戦意喪失してしまったみたいだ。
項垂れるように座っており、短くなった頭頂部の髭が悲しげに揺れている。
「なんだかすっかり元気がなくなってしまいましたわね」
先ほどまで襲われていたというのに、思わずそんな感想を漏らしてしまうほどだ。
ボムコーンの髭は時間が経てば伸びるだろうが、しばらくこのままにするというのは可哀想だ。
そう思った俺はマジックバッグからポーションを取り出した。
「シュウさん、それは?」
「錬金術師の店で買った育毛ポーションです。これをかければ、ボムコーンの髭も伸びるかなと」
世の中の男性は皆、毛根の死滅を恐れている。
いつか必要になるかもと思って買っていたネタポーションではあるが、作ったのはサフィーだし何かしたの効果があるかもしれない。
「世の中にはそのようなポーションがあるのですね。人間用に開発された育毛ポーションが魔物に効くでしょうか?」
「わかりませんが、やってみる価値はあるかなと」
フランリューレが頷いて許可をくれたので、ボムコーンの髭に育毛ポーションを垂らした。
「まあ! ボムコーンの髭がみるみる伸びていきますわ!」
「すごい。というか、魔物にも効くんですね」
あっという間にボムコーンの髭は、最初の二倍以上の長さになった。
ついでに髭の色艶もかなり良くなっている。
ボムコーンは頭頂部にある髭が伸びたことに気づいたのか、呆然とした様子で自らの髭を触り、大いに喜んだ。
意気消沈としていた姿が嘘のようで、嬉しさを表すようにその場で跳ねまわる。
「これを繰り返せば、爆裂コーンが取り放題ですわ」
フランリューレの物騒な呟きが聞こえたのか、ボムコーンがビクリと固まった。
俺も一瞬そんな思考がよぎったが、さすがにそんな鬼畜採取方法をしようとは思わない。
「さすがにそれをすると俺たちだけじゃなく、ボムコーンの身がもたない気が……」
俺の言葉に同意するようにボムコーンが頭を縦に振り、おずおずと何かを差し出してきた。
【黄金コーン】
ボムコーンから一つしか取れない貴重なコーン。もっとも甘みが強く、皮が硬い。
茹でなくても生で十分に美味しく食べることができる、もちろん、茹でても美味しい。
他のコーンに比べると、黄色みが強くほのかに光を放っている。
どうやらボムコーンから一つだけしか獲れない貴重なコーンのようだ。
「黄金色のコーン! ボムコーンからこのようなコーンがとれるとは知りませんでしたわ!」
フランリューレが興奮したように言う。
どうやら彼女も知らない食材だったようだ。
「……これをくれるのかい?」
ボムコーンは頭を縦に振って頷いた。
そして、ぺこりぺこりと頭を下げて離れていく。
これを上げるから育毛ポーションによる無限採取だけが勘弁してくれっていうことだろう。
あれだけ爆裂コーンを回収させてもらったし、貴重な黄金コーンもくれたんだ。
さらに追い打ちをかけて食材を剥ぐことはできないな。
俺たちは森に消えていくボムコーンを見送ることにした。
「なにはともあれ、これで爆裂コーンも採取完了ですね!」
「わたくし、爆裂コーンの採取がここまで大変だとは思いませんでしたわ」
安堵の息を漏らすフランリューレ。
ボムコーンの危険度はヴォルケノスと同じBランクだ。疲弊するのも無理はない。
「休憩も兼ねて昼食を取りましょうか」
見上げると太陽が中天の位置を過ぎている。
朝早くに出発したこともあってか、お腹もペコペコだ。
保護区に入ってから、ずっと歩きっぱなしの採取しっぱなしだからな。
「そうですわね。この近くにあまり魔物が近寄らない場所があるので、そこに向かいましょう」