ボムコーン
「確かこの辺りにいるはずですわ」
現れる魔猿を狩り、スタンニードルで無力化しながら進んでいると、フランリューレが地図を見ながら呟いた。
今、フランリューレはいるって言ったか? ただの素材なら自生しているのであるって言うはずだ。
それなのにいると言ったということは、爆裂コーンが自生しているのではなく、生き物である可能性が高い。
「フランリューレさん、爆裂コーンがどんなものか尋ねてもいいですか?」
「そういえば詳しく説明していませんでしたね。爆裂コーンというのは食材名で、魔物名はボムコーンといいます」
「あっ、やっぱり魔物なんですね」
口ぶりから何となくそうなんじゃないかと思っていた。
「大きなトウモロコシで二足歩行をしています」
「……具体的には俺たちの目の前を歩いているやつみたいな?」
会話をしている俺たちの前をちょうど二足歩行をしているトウモロコシが横切った。
人型のような姿をしており、普通に腕も生えている。
頭部からは長い髭が生えており、葉っぱが服のようにも見えて、妙に仕草が人間くさい。
「あれですわ! ボムコーンです!」
……なんか想像していた爆裂コーンとなんか違う。
でも、やけに強調されている胸元から見えるコーンは、パンプアップされた筋肉のごとく大きく、ハリがあって美味しそうだな。
ただのトウモロコシとは違った密度を感じる。
「どうやって採取するんです?」
「ボムコーンは戦闘になると、コーンを飛ばしてきますので気合で避けて回収するのですわ!」
「な、なるほど」
「では、ちょっかいをかけてボムコーンを怒らせてください。頭頂部にある髭を燃やせば、いい感じに怒りますわ」
「わかりました!」
フランリューレのアドバイス通りに火球を発生させ、ボムコーンの髭を燃やす。
突如頭の髭が燃えたことにより、ボムコーンは大慌てで駆け回る。
長い頭をブンブンと振り回し、腕を使って無理矢理火を消すことで何とか沈下。
ホッと息を吐くような仕草をすると、ボムコーンは俺を睨みつけて体を震わせた。
黄色い体表が瞬く間に真っ赤となる。
そして、内側から込み上げた怒りを爆発させるかのようにコーンを爆裂させた。
体表にみっしりと詰まったコーンが物凄い勢いで飛来した。
「ひっ!」
俺の真横を通り抜けたコーンが木を破砕させた。
飛来したコーンは三つほど木をへし折って貫通し、三つ目の木に埋まった。
シュウウと煙を上げている。
「まるで大砲じゃないか……」
まともに直撃すれば、ただの人間ならひとたまりもない。
良くてペシャンコ、あるいは複雑骨折というレベルだ。
攻撃を避けるだけで食材が回収できるのであれば楽ちん。
なんて思っていたが、これは予想以上に大変だ。
「気をつけてください、シュウさん! ボムコーンの爆裂させたコーンはとんでもない威力ですから!」
「それを先に言ってくださいよ!」
というかフランリューレは先に大岩の裏に退避していた。ずるい。
「でも、これだけ大量のコーンを飛ばせば、そんなにたくさん飛ばせないんじゃーー」
などと推察していると、ボムコーンが減ったコーンを装填するかのように新しいコーンを表面に。
「ええ! 嘘だろ!?」
俺が狼狽する間に、ボムコーンは再び体を震わせてドカーンッとコーンを爆裂させた。
俺は必死に身体を伏せて飛来してくるコーンをやり過ごす。
フランリューレのようにすかさず大岩の裏に隠れると、追いかけるように走ってきて装填したコーンを爆裂させてきた。
「ひいい! 追いかけてくるなあ! というか、どうして俺ばっかり狙うんだ!?」
後ろにはフランリューレもいるというのに、まったく見向きもしないというのはおかしい。
「ボムコーンの髭を燃やしたのはシュウさんですから」
「いや、それはフランリューレさんが怒らせろって言ったから――ああ! こうなるのがわかっていて俺にやらせましたね!?」
「おほほ、適材適所ですわ。わたくし、爆裂コーンの採取に専念いたしますので……」
「ズルい! 俺もそっちがいい!」
俺が逃げ惑う中、フランリューレはボムコーンが飛ばしたコーンをマジックバッグに収納していた。
絶対にそっちの方が楽しいじゃないか。
とはいえ、戦闘力の低いフランリューレにボムコーンと対峙させるのも無理な話か。
「アイス!」
追いかけてくるボムコーンに氷塊をぶつけてみる。
ガンッとボムコーンの身体に直撃するが、本人はお構いなしの様子で突撃してくる。
表面にあるコーンがかなり肉厚なようで頑強な鎧のような役目を果たしているようだ。
攻守一体ってやつか。
などと考えていると、後方でパーンッとコーンが弾けた。
広範囲に飛んでくるコーン。
障害物もなく、避けることも難しいので咄嗟に氷壁を展開。
ガンッガガガガンッとコーンが氷壁にぶつかって止まった。
なんとか魔法で防ぐことができてホッとしていると、氷壁に埋まったコーンが赤熱し大きく膨らむのがわかった。
嫌な予感がした俺は咄嗟に氷壁から離れると、次の瞬間に埋まっていたコーンが破裂した。
氷壁が破砕し、風圧で軽く後ろに転げる。
「ああっ! 俺たちの食材がっ!」
飛ばしたコーンを採取するのが俺たちの目的だ。それを爆破させるとは何て奴だ。
魔法で防御すると肝心の素材が手に入らなくなる。
しかし、不規則に広範囲に飛んでくるコーンを避け続けるのは難しい。
「フランリューレさん、爆裂コーンは回収できましたか?」
「ええ! シュウさんが注意を惹きつけてくれたお陰でバッチリですわ!」
すぐに起き上がって声をかけると、フランリューレが大きな爆裂コーンをいくつも抱えていた。
俺が逃げ惑っている間に、軽く百個のコーンを飛ばしていたので採取は十分だろう。
だったら、そろそろ無力化してもいい頃合いだ。
ボムコーンも天然の食材を宿した魔物だ。討伐は避けた方がいいだろう。
「鑑定!」
俺はスタンニードルを構えると、スタンを入れられるツボを調べる。
すると、ボムコーンの左胸、右肩、左腰といった部位が赤く点で示された。
スタンするべきツボがわかれば十分だ。
ボムコーンは先ほどと同じように体を震わせると、ボムを爆裂させて飛ばしてきた。
「調査、爆裂コーン」
スキルを発動しながらボムコーンに突撃。
スキルの補助により、飛来してくるボムコーンが鮮明にわかる。
その中から自らの身体に当たるものだけを選別し、それだけを躱すことに意識。
滑り込むようにしてコーンを回避すると、ボムコーンの懐に飛び込んだ。
狙うは左胸。
「スタンニードル!」
鑑定スキルが示してくれた赤い点にスタンニードルを差し込み、スイッチを押して雷を発動させた。
「よし、これでスタン――してない!?」
今までの魔物ならすぐに身体を振るさせ、転倒していた。
だが、目の前にいるボムコーンはケロリとしている。
撃ち込むべき場所を間違えたかと思ったが、スタンニードルは視界に表示されている赤い点に正確に差し込まれている。
しかし、そこで俺は気づいた。
「ああっ!」
スタンニードルの針がコーンに阻まれていることに。
スタンニードルを引き抜こうとするが、肉厚なコーンのせいで抜けない。
よく見れば胸板のコーンがパンプアップされている。
慌てる俺を見て、ボムコーンは不敵な笑みを浮かべながら体を震わせた。
表面のコーンがぽこぽこと波打つのがわかる。
こんな至近距離でコーンを食らってしまえば終わりだ。
「や、やば……」
「フレイムアロー!」
ボムコーンが凍死する可能性覚悟で、氷魔法を放とうかと思った瞬間、横から火矢が飛来した。
火矢はボムコーンの頭部の髭に直撃して、激しく燃え上がらせる。
これには堪らず、ボムコーンは転げ回ることに。
お陰で俺はスタンニードルを引き抜いて、下がることができた。