ブルーウォーター
ライラート家の敷地に入り、馬車で揺られること五分弱。
俺はようやくライラート家の屋敷にやってきた。
クローム色の壁にチャコールグレーの屋根。
四階建てになっており、壁や柱に施されている装飾はとても精緻。
まるで巨大な美術館のように美しい屋敷だ。
大きな二枚扉にやってくると控えていたメイドが開けて、広い玄関のお出迎え。
真っ赤なカーペットが敷かれており、頭上にはシャンデリア。
天井はとても高く、それらが奥に続いている。
「よくいらしてくださいましたわ、シュウさん」
豪奢な内装に思わず呆然としていると、よく通る声が響いてきた。
視線を向けると階段から降りてきたのはフランリューレ。
しかし、髪型は結ばれておらず、真っすぐに下ろされている。
白と青を基調としてロングドレスを纏っていた。
悠然とした歩みでこちらに寄ってくる彼女に俺はぺこりと一礼。
「お久しぶりです、フランリューレ様。以前と装いが違ってかなり驚きました」
「あの時は場所も場所ですし、実技試験中でしたので」
俺の言葉に微笑みながら答えるフランリューレ。
確かにレディオ火山で魔物の討伐をするのに、今のように着飾っていては満足な活動すらできないだろう。
それでも髪型や装いなどでここまで印象が変わるというのはすごいな。
以前見た時は髪型も相まって幼さを感じたが、こうして相対しているフランリューレは深窓の令嬢のようだ。
「面会は食事をしながらでもよろしいですか?」
「はい、問題ありません」
ちょうど時間は昼に差し掛かる頃合い。食事ができるのは素直に嬉しい。
「では、ダイニングルームへ案内いたしますわ」
「よろしくお願いします」
頷くと、フランリューレが歩き出したので後ろを付いていく。
玄関から奥へと続く廊下を進んでいく。
廊下にも赤いカーペットが敷き詰められており、壁には絵画や壺などの調度品や観葉植物などが設置されている。
落ち着いた洋館の雰囲気がして実に趣味がいい。
調度品の数々を観察していると、フランリューレが歩きながら口を開いた。
「ちなみにシュウさんは苦手な食材などはありますか?」
「特にそういったものはありませんのでお気遣いなく」
「では、料理人にそのように伝えますわ」
フランリューレが視線を向けると、同行していたメイドの一人が承ったとばかりに一礼して離れていった。
「美食家と名高いライラート家で食べられる料理が楽しみです」
「期待してくださって結構ですわよ。当家自慢の食材を使った料理でおもてなしいたしますわ」
こちらの期待に全く動じる様子はなく、むしろ堂々とした表情で告げるフランリューレ。
提供する料理にかなりの自信があるらしい。
フランリューレとはともかく、アルトリウスとは初対面になるので緊張するが、それ以上に料理への楽しみが強かった。
そのままダイニングルームに通されると、俺とフランリューレは席につく。
大きなダイニングテーブルの上には白いテーブルクロスがかけられており、食器やカトラリーボックスといったものが既に置かれていた。
「父がやってくるまで少しお待ちください」
「わかりました」
急にやってきたわけだしな。多少待つことになっても文句は言わない。
権力者は自らの格を示し、舐められないために敢えて相手を待たせることもあると言うし。
「お水です」
「あ、どうも」
なんて考えているとメイドがグラスに水を注いでくれる。
ちょうど喉が渇いていたので、早速と俺は口つける。
「……美味しい」
思わず零れた言葉。
前世も含め、様々な土地の湧き水を飲んできたが、それを含めてもこの水は断トツで美味しい。
喉越しがとてもスッキリとしており、とにかく飲んだ後が爽やかだ。
「その水はただのお水ではありませんわ。ブルーマウンテンで湧いた水ですの」
驚きの様子を見せる俺にフランリューレが説明してくれた。
【ブルーウォーター 最高品質】
ブルーマウンテンで湧く最高品質の水。
高純度な水魔石などでろ過されており、その飲み味は世界最高峰。
喉越しがとてもスッキリしており、透明感のある味をしている。
コップ一杯で銀貨五枚。
思わず鑑定してみると情報が出てきた。
「ブルーウォーターというんですね。どうしてくれるんですか。こんなに美味しい水を飲まされたら、普通のお水が物足りなくなってしまいますよ」
「うふふ、お陰でわたくしはこの水しか飲めない身体になってしまいましたわ」
「ええー」
「なんて冗談ですわ。レディオ火山では湧き水筒を使っていましたし、水魔法の水も飲んでいましたし」
「そういえば、そうでしたね」
コップ一杯で銀貨五枚とは恐ろしい。
しかし、その値段でも妥当だと思えるような飲み味だ。
下手なお酒やジュースを飲むよりも、ブルーウォーターを飲む方が満足感は高いに違いない。
「まさか、フランリューレ様の父上がヴォルケノスの卵の納品先だったとは……」
「わたくしも驚きましたわ。実家に顔を出してみると、シュウさんと一緒に採取した卵があったのですもの。カルロイド様とパーティーでお会いして、経緯を聞いた時はおかしくて笑ってしまいましたわ」
「その件がきっかけでまた会えるとは、人生とは不思議なものですね」
「ええ、世界は広いようで狭いと感じました」
なんて笑い合っていると、ダイニングルームの扉が勢いよく開かれる。
入ってきたのはブラウンの髪を後ろに撫でつけた成人男性だ。
鋭い眼差しをしており、赤いタキシードスーツを纏っている。
この人がアルトリウスという人だろうか? 思っていたよりも派手な装いをする人だ。
「君がカルロイドの言っていた冒険者のシュウ殿だね?」
「はい、この度はお招きいただきありがとうございます。Bランク冒険者のシュウと申します」
「私はライラート家当主のアルトリウスだ。遠路はるばる我が屋敷までやって来てくれたことに感謝する。ヴォルケノスの卵の納品や、娘が世話になったことも含めて、是非一度話してみたいと思っていた」
「その節は本当にすみません。知らなかったとはいえ、フランリューレ様を巻き込むことになってしまい……」
カルロイドから怒っていないとは聞いていたが、それでもフランリューレを巻き込んでしまった事実に変わりはない。謝罪は必要だ。
「気にしないでくれ。娘も納得して手伝ったことだ。咎めるようなことはしない」
「そもそもシュウさんに助けられていなければ、引き返すことができたかも怪しかったですわ。その恩に報いる決断をしたのはわたくしです。どうかお気になさらないでください」
「ありがとうございます」
ぺこりと頭を下げると、アルトリウスとフランリューレは頭を上げるように言ってきた。
なんという心が広い父親だろうか。
それにフランリューレの気高い精神にも尊敬だ。
「ちなみにヴォルケノスの卵はいかがでしたか?」
「とても美味しかったさ」
「ええ、あのとろけるような黄身は極上でしたわ」
味を思い出したのか非常に満足そうな顔で頷くアルトリウスと、とろけるような顔を見せるフランリューレ。
「ヴォルケノスの卵は元々大好物でね。手に入れたいと思っていたのだが、手に入れるハードルが高くて困っていたのだ」
「ただでさえ、過酷な環境な上に、ヴォルケノスを討伐してはいけませんからね」
灼熱の環境だけでも厳しいというのに、ヴォルケノス自身も強いときた。
単に強さがあってもヴォルケノスを傷つけずに、卵だけ採取してくることは難しいだろう。
「しかし、シュウ殿はそれを採取してきてくれた。ヴォルケノスの卵を採取してくれたことや、娘を助けてくれたことも含めて心から礼を言う」
「いえいえ、こちらこそフランリューレ様に助けていただいたのでお互い様ですよ。それに頼んできたのはカルロイド様なので、是非とも彼の力になってあげてください」
「……ふむ、フランやカルロイドから聞いていた通り、謙虚なのだな」
実際に一人では達成できたかも怪しかった。自分一人の力だとはとても誇れない。
同じような依頼を頼まれた時、打開できるように努力しないとな。
その一つの備えとして、ゲイノースのマントは非常に有力だろう。
現在ルミアとサフィーが随意製作中とのことなので完成するのが楽しみだ。
「さて、堅苦しい話はこの辺りにして食事にしようじゃないか」
アルトリウスが席に座り、そう言いながら手を叩くと扉が開き、メイドたちがワゴンを押して入ってきた。
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