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異世界のんびり素材採取生活  作者: 錬金王
美食保護区採取編
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ビッグスライム討伐


「見てくれだけ大きくなっても所詮はスライムでしょ?」


「チマチマ採取するのは面倒だったんだ。大きくなってくれて大助かりだぜ!」


 見上げるような大きさになったスライムを見て、そんな台詞を吐く冒険者。


 どうやら強気にも討伐して、素材を採取しようとする狙いらしい。


「ビッグスライムになると危険度がCに跳ね上がるけど大丈夫なのでしょうか?」


「もしかすると、わかってないかもしれませんね」


 見たところ走り出した冒険者の装備は頼りなく、駆け出し、あるいは低級の冒険者だ。


 普通のスライムと思って挑んだら痛い目に遭いそうだ。


「ぐあっ!」


「がっ!?」


 そんなルミアと俺の嫌な予感は的中し、走り出した冒険者はビッグスライムの触手によって薙ぎ払われた。


 まるで鞭のようにしなやかで鋭く振るわれた触手は、冒険者たちを派手に吹き飛ばす。


「わあっ! あたしの武器が溶けた!?」


 中には触手を潜り抜けて攻撃を加えられた者もいるが、強い酸性分によって武器を溶かされている。


「シュウさん!」


「これはマズいかもしれません!」


 懸念していた通り、あそこにいる冒険者のほとんどは駆け出しだ。


 今回の依頼は難易度が低く、稼ぎもいいことから多くの駆け出し冒険者が集まっていた。


 ビッグスライムの知識がないことや、実力が伴っていないことは想定しておくべきだった。


 冒険者たちは早くも瓦解している。


 このままでは重傷者や死人が出てしまうかもしれない。


 俺とルミアは急いで救援に駆け付けようとするが、距離が離れている。


 魔法を飛ばそうにも距離が遠くて間に合わない。


 武器を失った冒険者にビッグスライムの触手が振るわれる。


「ひ、ひい!」


 駆け出し冒険者が吹き飛ばされる――かと思いきや、間に割って入った何者かが防いだ。


「ビッグスライムは危険度Cよ! ランクが届いていない冒険者たちは離れて! ここは私たちが相手するから!」


 触手を拳で弾き飛ばしながら叫んだのはレオナだった。


 危険度Cということを知らなかった駆け出しは、どよめきながらも素直に後退していく。


 しかし、負傷していることもあってか迅速とはいえない。


「シュウさん、私は怪我人を手当てしてきますのでお任せしてもいいですか?」


「わかりました」


 ポーションを持っているルミアが手当をしてあげて、撤退を支援するのが一番だろう。


「あと、できれば素材は綺麗な状態でお願いします!」


 走り出しながらルミアがそんな言葉を放っていく。


 こんな時でも素材のことを気にするのが彼女らしい。


 ルミアと別れて、俺はビッグスライムへと近づいていく。


 前方では負傷者を狙ったビッグスライムの触手をレオナが拳で弾き、ラッゾが剣で斬り落としているようだ。


 素手で殴って平気なのかと思ったが、レオナの腕にはしっかりとガントレットがハマっており守られているようだった。


 後方ではエリクが矢を放って牽制しているが、弾力性の高いビッグスライムには相性が悪いのか飲み込まれている。


「レオナさん、一応援護にきましたけど必要ですか?」


 冒険者では魔物との戦いに割って入って奪い取るような真似はタブーだ。


 レオナたちだけで速やかに倒せることができ、素材を手に入れようとしているなら手出しは無用だろう。


「必要に決まってるわよ! 早く助けて!」


 静観も視野に入れていたが、レオナの返事は思っていた以上に切迫していた。


「ええ? でも、レオナさんたちはCランクですよね?」


 彼女たちの冒険者ランクはC。


 ビッグスライムを討伐するのは、そう難しくないはずだが。


「俺たちもCランクだけど魔法使いがいねえから絶望的に相性が悪いんだ! エリクの矢も通らねえ!」


「エリクさんってエルフですよね?」


 エルフといえば、高い魔法適性を備えているのが普通だ。


「……エルフなら誰でも魔法が使えると思うな!」


「なんかすみません」


 思わず尋ねた疑問だったが、逆切れ気味に答えられた。


 そうだよね。エルフだからといって、皆が得意っていうわけじゃないよね。


 人にはそれぞれ個性というものがあるわけだし。


「シュウって確か魔法が使えたよね? 私たちが食い止めるからデカいのを頼むわ!」


「いえ、それじゃあ素材が台無しになってしまうので」


「おいおい、こんな状況でも素材優先かよ!?」


「採れる素材は採らないと素材に対して失礼ですから」


 ルミアに頼まれているのもあるけど、採取できるものを採らないのは落ち着かない。


 モンモンハンターでも部位破壊や尻尾斬りをしない者は悪だと思う。


「素材優先ってどうするのよ!?」


「まずは動きを止めます。『フリーズ』」


 レオナやラッゾを巻き込まないように注意して、氷魔法を発動。


 ただし、完全に凍り付かせない。


 凍死させてしまうと素材が劣化するから。


 半冷凍状態になるとビッグスライムの動きが著しく鈍くなった。


 通常のスライムであれば手を突っ込んで核に雷を流すのであるが、ビッグスライムではそうはいかない。


 そもそも核までが遠すぎるし、酸性分が強すぎて危険だからだ。


 しかし、進化したことで魔物としての強度は上がっているはずだ。


「『ライトニング』」


 俺はビッグスライムに雷魔法を放った。


 攻撃力を控えめにしたその魔法は、ビッグスライムの核に直撃。


 ビッグスライムはビクンと体を震わせると動きを沈静化させた。


「ええっ!? シュウってこんなに魔法が上手だったの!?」


「レッドドラゴンやドボルザークを倒したって知ってたけど、ここまでだったとは……」


 そういえば、他の冒険者の前で魔物と戦うのは初めてだったかもしれない。


 レオナをはじめとする他の冒険者たちも呆然としているようだった。


「でも、これって本当にBランク? Aとかもっと上のような気がするんだけど」


「これだけの実力で採取専門なのかよ! 勿体ねえ!」


 俺のスタンスを聞いて、ラッゾが嘆かわしいとばかりに叫ぶ。


 俺は思う存分採取さえできればいいので、これでいいのだ。


 まあ、採取場所に赴くためにランクが必要とあれば上げるしかないが。


「……実はシュウはエルフなんだろ? そうだろ?」


「いえ、人間です」


 きっぱりと告げると、エリクはしょぼんと落ち込んだ。


 エルフでありながら魔法が使えないことを気にしているみたいだ。


 やっぱり、魔法が使えたらと思うんだろうな。


 しかし、これに関してはどうしようもないので俺が力になれることでもなかった。


「さて、この核をどう取り出すか……」


 大きいのでブラックスライムの手袋をつけても取り出すことができない。


 それよりも俺の衣服が溶け、肌が爛れる方が先だろう。


 ポーションで治るとはいえ、さすがにそのような痛い思いはしたくない。


「核を取り出すのなら、私にもできるわよ」


「できるだけ傷をつけないでいけますか?」


「任せて」


 どうやらレオナに良い方法があるようなので素直に任せる。


 レオナはビッグスライムの後ろに回り込むと、核の位置を確かめるように眺める。


 体に軽く拳を添えると、ゆっくりと後ろに引いて打ち付けた。


 それを一瞬にして三連打。


 ビッグスライムの体が衝撃で激しく波打ったかと思いきや、中心部分にあった核が押し出された。


「これでどう?」


「お見事です。どういう原理なんですか?」


「魔力を込めて衝撃波で押し出しただけだよ」


 空中でブンとジャブを放ってみせるレオナ。


 俺との距離は三メートル以上離れているはずなのに、しっかりと風圧がこちらまで飛んできた。


「そのガントレットはアイテムなので?」


「違うよ。ただの身体強化」


「すごいですね」


「いや、シュウの魔法の方がよっぽどすごいから」


 獣人特有の身体能力の高さもあるとはいえ、素直にすごい。


 直接攻撃に滅法強いビッグスライムだからこそ苦戦しただけで、並の魔物であれば問題なく倒すことができただろうな。


「ラッゾさんの剣も見事でしたし、エリクさんの矢も正確でした。普段の生活も戦いと同じようにシャキッとすればいいのに……」


「そうよね! 私もそう思うわ!」


「うるせえ、余計なお世話だ」


 思わず漏れた俺の本音にレオナがもっともとばかりに頷き、ラッゾとエリクが煙たそうな顔をした。


 普段はちゃらんぽらんだけど二人もCランクに相応しいだけの実力だったな。


「シュウさん、ビッグスライムの素材は採取できましたか?」


 そんな言い合いをして笑っていると、怪我人の手当てを終えたらしいルミアがやってくる。


 一番に素材のことについて尋ねるので、レオナたちは呆れた顔をしていた。


「他のスライム同様に採取できましたよ。そちらは大丈夫でしたか?」


「はい、重傷者や死傷者はいません。骨折してしまった方もいましたが、中位のポーションを使って治療しました」


「それなら安心ですね」


 危険と隣り合わせの仕事とはいえ、同じ依頼を受けてそういった者が出てしまうのは悲しいからな。


「後は素材になりますけど……」


「……あー、倒せたのはシュウのお陰だし、私たちはいいよ?」


 気まずそうな顔で首を横に振るレオナであるが、そうはいかない。


「いえ、レオナさんたちが足止めしてくれたから楽に倒せたんですよ。それに綺麗に核を抜いてくれたじゃないですか。ここは半々にいたしましょう」


「そう? シュウがそう言ってくれるならお言葉に甘えちゃおうかな」


「さて、後はこれをどうやって運びましょうか」


 俺とルミアだけならマジックバッグに収納するところであるが、これだけたくさんの人の目があると使えない。


 使った日にはマジックバッグ所持者として噂が広がり、面倒なことになるだろう。


「それなら俺たちに任せてくれ。助けてもらったお礼に力になりたい」


「ポーションで治療もしてもらったしな。恩を返させてくれ」


 考え込んでいると、駆け出しの冒険者たちが声をかけてきた。


 十数人もの冒険者がいれば、ビッグスライムを持ち運ぶことが可能だ。


「本当ですか!? ありがとうございます!」


 ルミアが笑みを浮かべて頭を上げると、冒険者たちは照れくさそうにしながら一斉にビッグスライムの懐に入って持ち上げるのだった。






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こちら新作になります。よろしければ下記タイトルからどうぞ↓

『異世界ではじめるキャンピングカー生活~固有スキル【車両召喚】は有用だった~』

― 新着の感想 ―
[一言] はじめまして! 書籍読んで、面白くてきました。 書籍よりもだいぶ話が進んでいて楽しいです♪ チートなのにチートっぽくない主人公の言動が面白い上に、類は友を呼ぶのか話が進む度にユニークなタイ…
[気になる点] 衣服が溶け、肌が爛れる〜ようなスライムを装備も揃ってない駆け出しが運ぶ?
[一言] 5x5x5で125倍 100体集まっても75cmくらいかな
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