素材の交渉は仲良く
ゲイノースの素材が何としても欲しいらしいサフィーに連れられて、俺はクラウスの店にやってきた。
ちなみにルミアは滅茶苦茶なお店が我慢できなかったらしく、残留して片付けである。
唯一の常識人がいなくて非常に心細い。
「それで? どうしてサフィー殿がいるんだ?」
「端的に言うと、ゲイノースの眼球の取り分について話し合いにきた」
クラウスの問いかけにサフィーがきっぱりと告げた。
「ゲイノースの眼球だと!? ……おい、説明しろ」
サフィーが言葉に驚愕したクラウスが詳しい説明を求めてきたので、俺はこうなった経緯を説明する。
「なるほど、理解した。こいつには俺が依頼人として正式に指名依頼を出した。つまり、交渉する権利の優先権はこちらにある」
「シュウ君一人で討伐したのであればそうだが、生憎と討伐にはうちの弟子も貢献していてな。こちらにも優先権はあると思わないか?」
クラウスとサフィーの間で火花が散る。
それぞれの言い分には一理あるが故に、第三者である俺もどのように判断すべきかわからない。
これが眼球でなければ、半分ずつにしましょうと言えるのだが素材の特性上そうはいかなかった。
「退け。この素材があれば、解毒効果のある薬だけでなく、万病にも効く薬の開発ができるかもしれない」
「それはこちらも同じだ。この素材があれば特化ポーションをはじめとする、上級ポーションがいくつも作れる。中級のポーションであれば、数百から数千分の触媒となる。世に大いに貢献できるだろう」
怖い、二人とも顔が怖い。
俺の持ち帰った素材で友人たちの仲がこじれるのは正直、見ていて楽しいものではない。
「仲良く話し合ってください。そうしないと、どちらにも売りませんよ?」
喧嘩の原因になるくらいなら売らない方がマシだ。
これだけ希少な素材と言われれば、次に手に入るかわからないのでコレクションしておきたい気持ちもある。
「おおっと冗談だよ、シュウ君。少しじゃれ合っていただけさ。なあ、クラウス?」
「あ、ああ。これは断じて喧嘩などではない。まったく、お前は早とちりし過ぎだ」
俺のそんな宣言が効いたのか、サフィーとクラウスが青い顔をしながら和やかに話し合う。
先程のような剣呑な雰囲気は霧散して、互いの妥協点を探り合う会話に移行したようだ。
結局、今回の素材はクラウスが買い取ることになったが、研究データはサフィーにも共有されることになったようだ。
互いに利益があり、納得できる点を見つけることができたようで一安心だ。
交渉が成立するとクラウスとサフィーが握手した。
「シュウ君、もし次にゲイノースと遭遇することがあれば、次はこちらに眼球を納品してくれ」
「その時はこちらにも頼む」
「いや、あんな魔物とポンポン遭遇することなんてありませんから」
無茶苦茶な注文に俺は呆れたように言い返すが、何故か二人は顔を見合わせてフッと鼻で笑った。
百年に一度しか出回らないほどだ。
そんなポンポンと出会うはずがないだろう。
……ないに決まっている。