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異世界のんびり素材採取生活  作者: 錬金王
沼地採取編
162/218

雨宿り

申し訳ありません。前話の毒沼蛙が先の話となっております。お手数おかけしますが、そちらから読んでいただけると繋がります。

引き続きよろしくお願いします。


「さて、毒袋の採取だな」


 足の治療を終えると、すぐに洞窟に避難――といきたいところであるが、肝心の毒性素材を採取しなければいけない。


「その前に雨が強いのでレインコートを着ましょう」


 降り出した雨はすっかりと強く土砂降りになっていた。


 戦闘中だったので雨に当たってしまって服はぐしょ濡れだが、直接身体を濡らすよりもよっぽどいい。体温の低下は体力の消耗に繋がる。


 レインコートをマジックバッグから取り出し、ルミアとレイルーシカに渡す。


「私も借りていいのか?」


「大丈夫ですよ。念のために予備も用意しておいたので」


 ルミアの言う通り、レインコートは四着ほどあるのでレイルーシカが着ても、俺の分がなくなるといったことはない。


「そうか。それなら遠慮なく借りることにしよう」


 多めに用意してくれたルミアに感謝だ。そうでないと、誰かが雨に打たれ続けたまま採取をすることになっただろう。


「雨に打たれていてもまったく服へと染み込んでこない! むしろ弾いている! 素晴らしいな!」


「これなら雨の中での作業もやりやすいですね」


 薄水色のレインコートは羽織ると、雨がバタバタと降り注いで音を立てる。


 しかし、強い耐水性を誇るスライムの皮は、雨を見事に弾いていた。


 これなら急激な体温の低下は防げるだろう。


 とはいえ、既に服はぐっしょりと濡れていた。


 濡れた服を長時間纏い続けると、かなり体温を奪われてしまう。


 このまま外で解体し、採取をするにも時間がかかるので一度洞窟に避難した方がいいだろう。


「一旦、死骸を回収して洞窟に避難しましょう」


「んん? 待て? 毒沼蛙はかなりの重さだ。三人で持ち運んで移動するのは骨だぞ?」


 普通ならもっともで、雨に打たれながら急いで解体するしかない。


 しかし、俺には違う選択肢を選ぶことができる。


「いえ、俺にはマジックバッグがありますので」


 そう言って、マジックバッグの中に感電死した毒沼蛙を収納してみせる。


 レイルーシカはポカンとした表情を浮かべていたが、次の瞬間にはおかしそうに笑った。


「なるほど、マジックバッグか。それならばシュウの提案に乗るのが一番いいな。私のことを信頼してくれてありがとう」


「こちらこそ俺たちのような他所者を信頼してくれて助かります」


 レイルーシカの言動から彼女が信頼に足る人物であることはわかっている。


 毒性素材を採取している間は一緒に行動するだろうし、彼女になら教えても問題ないだろう。


 そういうわけでマジックバッグのことを明かした俺は、次々と毒沼蛙の死骸を収納する。


「雨宿りができる洞窟はすぐそこだ。ひとまず、そこに移動しよう」


 収納が終わると、レイルーシカの言葉に頷いて俺たちは走る。


 彼女の先導の元に道を進んでいく。この辺りは石に囲まれて道が入り組んでいる。


 慣れていないどちらからやってきたのかわかりづらくなるものであるが、レイルーシカは沼地に慣れているらしく迷うことなく足を進めていく。


 きっと、俺とルミアの二人ならば、雨宿りをする宿の見つけるのに酷く苦労したに違いない。


「あそこだ!」


 土砂降りの中、しばらく走ると前方に小さな洞窟が見えた。


 周囲も開けた場所なので、もし魔物が近づいてきたとしてもすぐに気付くことができるだろう。


 しかし、念には念を入れて中の様子を魔石調査で確かめる。もし奥の方に先客がいたとすれば、面倒なトラブルになるからだ。


「スキルで確認しましたが、中に魔物の反応はありません」


「そのような便利なスキルまで持っているのか。わかった。なら、このまま入ろう」


 洞窟が安全であることを確かめると、俺たちは一直線にそこに入る。


 洞窟の中はとても広々としており、天井も結構高く鍾乳洞のような雰囲気だ。


 ひんやりとした空気が流れており、どこかで水滴が落ちてぴちゃりと音を立てている。


 スキルで確かめた通り、動物や魔物の反応は一切ない。


「『ファイヤーボール』」


 火魔法で火球を作り出して、ふわりと浮遊させておく。


 すると、薄暗い洞窟の中が明るく照らされた。


 照明具であり、暖房具としての役割もこなせるので一石二鳥だ。


「ふう、ひとまずこれで雨宿りができますね」


「そうだな」


 洞窟にいれば、レインコートは必要ないので脱いでしまう。


 バサリと振って水を払うと、それだけでほとんどの水分が弾け飛んだ。かなりの水の弾き具合だ。岩場に広げて置いておくだけで十分に乾くだろう。


 レインコートを脱ぐと気になるのが、衣服の塗れ具合だ。毒沼蛙との戦闘のせいでぐっしょりとはいかないが、不快に思う程度に服が濡れている。


 体温の低下を防ぐ意味でも着替えるのが賢明だろう。


「……着替える間、外に出ていましょうか?」


「いえ、さすがにそれはシュウさんに悪いので却下です」


 男の俺が外に出て、女性二人が着替え終わるのを待つのが簡単なのだが、さすがにそれは気が引けるようで却下された。


 外の雨は激しさを増しているくらいだ。さすがに逆の立場からしても出て行けとは言い難い。


「……そもそも私は着替えを持っていないからな」


「俺の予備でよければお貸ししますよ」


「そんな余裕が――ああ、マジックバッグを持っているからか」


 怪訝な表情をしたレイルーシカであるが、すぐにそのことを思い出したのか納得したように言った。


 とはいっても、同じ場所で男女が着替えるのは気まずい。


 レイルーシカやルミアも名案が浮かぶでもなく、どうしたらいいのかわからないような顔になっている。


 ここは男の俺が何か案を切り出す方がいいだろうか。


「土魔法で仕切り板を作ります。俺は手前側で着替えるので、お二人は奥で着替えるというのはどうでしょう?」


「魔力を消費させるのは忍びないが、そうしてくれると助かる」


 レイルーシカの言葉にルミアも同意するように頷いていた。


「はい、どうぞ。このサイズで問題ないですか?」


「ああ、大丈夫だ」


 高身長のレイルーシカであれば、俺のサイズでも問題なく着られるだろうが、こういう時のために幅広いサイズの服を用意してある。


「私の衣服もお願いします」


「わかりました」


 今回、ルミアの道具のいくつかは俺のマジックバッグに収納しているので取り出して渡す。さすがに下着といったものまで入れて管理してはいない。そういったものに関しては彼女のバッグにしっかりと収納されているのだろう。


 俺は土魔法で横幅七メートルくらいの土壁を作る。これだけ横に長いと大きく周り込まない限りは互いの姿を見ることはできない。高さも三メートルはあるし安心だろう。


 作り出した火球を分裂させて、土壁の向こう側にも配置する。


「では、俺はこちら側で着替えますね」


「わかった」


「は、はい」


 レイルーシカは鷹揚に頷き、ルミアは緊張気味ながらも返事して土壁の向こう側へと移動した。


 二人の姿が完全に見えなくなったのを確認すると、スライムシートを設置。


 これもルミアの作ってくれた耐水性のシートだ。スライムの皮を加工しているので、湿っている地面でも快適に敷いて座ることができるのだ。


 スライム靴のお陰で靴の中はほとんど濡れていない。しかし、靴下は足首のあたりがぐっしょりと濡れており、泥で汚れていた。それだけで気持ちが萎えてくるがそういう気候の場所なので仕方がない。


 そんな風に割り切って衣服を脱いでいくと、壁の向こうでも同じように衣擦れの音がする。


 洞窟内が静かなために嫌でも人の気配というものを意識してしまう。


 この壁の向こうではレイルーシカやルミアが一糸まとわぬ姿になっている。


「ひゃっ! 冷たっ!」


「ははは、ビックリするではないかルミア」


「すみません、落ちてきた水滴が肩に当たって……」


 なんて想像したところで響き渡る、二人の声。


 やましいことを考えていた俺は、ビクリと身を震わせてしまった。


 冒険をしている仲間でそんな妄想をするのは良くないことだ。罪悪感を抱いた俺は顔を激しく左右に振って煩悩を追い出した。


「それにしてもルミアは細い身体の割に胸が……」


「レイルーシカさん!? 壁の向こう側にはシュウさんがいるんですからね!?」


「す、すまない。そのことを失念していた!」


 意識的に煩悩を追い払おうとしているところで、二人がさらなる爆弾を投下してくる。


 細い身体の割に何なのだろう。非常に気になるけど、敢えてそこは考えないことにした。


 心を無にして淡々と衣服を着替えていくことにした俺だった。






書籍2巻とコミック1巻は7月頃に発売予定です。

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こちら新作になります。よろしければ下記タイトルからどうぞ↓

『異世界ではじめるキャンピングカー生活~固有スキル【車両召喚】は有用だった~』

― 新着の感想 ―
[一言] 前書きに連続更新なら本日二話目とか書くといいですよ
[気になる点] 書籍を買うのはコミックスの出来次第かな? [一言] 忘れられている大量の沼シャコの存在が気になってしかたない! 外に放置されているのだろうか… 沼毒蛙しかマジックバックに仕舞った文脈が…
[気になる点] これ、話一話飛んでないか?
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