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異世界のんびり素材採取生活  作者: 錬金王
沼地採取編
156/218

湿地帯に必要なもの


「まさか、あたしの魔力釜を満タンにしてしまうとは。あたしからも礼を言うよ、シュウ君。これで今まで躊躇っていたアイテムも作り出すことができる」


 先ほどの下着姿とは違い、いつもの服装を身に纏ったサフィーが礼を言ってくる。


「これくらいであればお安い御用ですよ」


「魔力釜を満タンにしても魔力は尽きていないと?」


「そうですね。三分の一くらい減った感じでしょうか」


「そうか! 三分の一か!」


 俺がそのように言うと、サフィーが愉快とばかりに笑った。


 あの魔力釜を満タンにしても、それだけしか減っていないのはやはり常識外れなのだろうな。


 ひとしきり笑うと、サフィーは真面目な表情で言う。


「どうだ? シュウ君。あたしの魔力釜に定期的に魔力を注いではくれないか? 勿論、謝礼は弾むぞ」


「いつもグランテルにいるわけではないので、本当に暇があるタイミングでも良ければ」


 海守の腕輪を使って海に潜るでもなければ、冒険に出てもそれほど魔力は消費しない。


 元手がゼロで稼げる仕事だ。こちらとしても悪くない。


「ああ、それで十分だ! 今日の分も口座に振り込んでおく!」


「しばらくは魔力を気にすることなく、思う存分使えますね!」


 これにはサフィーだけでなく、お茶を持ってきてくれたルミアも大喜びだ。


 魔力を気にすることなく使えれば、たくさんアイテムを作ることができるだろう。


 見習いであるルミアもより多くの経験が詰めるに違いない。


「これまで自重していたアイテムも作り放題だ。ふふふふ」


 サフィーの口元がどうしようもないほどに緩んでいる。ひょっとしたら、俺はこの人から自重というものを外してしまったのかもしれない。大丈夫だろうか?


「おお? 今日はいつもの紅茶ではないな?」


「はい、シュウさんから頂いたフツの葉のお茶です」


「クラウスから貰ったもののお裾分けです」


 なんて少し苦笑いをしながら本日二度目のお茶を店舗スペースでいただく。


「おお、癖のある味わいだが悪くないな」


「ミントティーとも少し違った風味と清涼感です」


 二人ともフツの葉のお茶を気に入ってくれたようだ。


 チビチビと味わうようにして飲んでいる。


 穏やかな日差しが差し込む中、こうして三人で喋りをしながらお茶を飲むってのもいいな。


 最近はどちらかというと、宿屋の食堂やギルドの酒場で騒がしく呑むことが多かったからね。


「ところで、シュウさんは何かご用があってお店に?」


「あっ、そうでした!」


 魔力釜のことやサフィーとの新しい取引ですっかり忘れていた。


 思い出した俺は、本来の目的を告げた。


「……ほう、テラフィオス湿地帯で毒性素材の採取か……」


「はい、それに必要な道具やアイテムを作ってもらいたいと思いまして」


「シュウ君、頼んでばかりで恐縮だが、その依頼にルミアも連れて行ってはくれないだろうか?」


「ルミアさんの経験を積むためですね?」


「ああ、そうだ。そろそろ、ルミアにも毒性素材の扱いを教えようと思ってな。ルミアは簡単な解毒ポーションこそ作れるが、それ以上のレベルのものは作れない。より、高品質の解毒ポーションを作るには、毒性素材のことを知る必要がある」


 クラウスと同じようなことを言っている。


 やはり、毒に対する考えは薬師も錬金術師も同じなのだろう。ちょっと面白い。


「どうだい、シュウ君?」


「俺も初めての場所なので、グランテル周辺のように案内できるわけではないですが……」


 カッコよく任せろと言いたいところであるが、行ったことのある場所でないために自信満々とはいえない。


「シュウ君の技量であれば、湿地帯でも問題ないだろう」


「もしものことがあっても、自分の責任だと覚悟していますので気にしないでください」


 こちらの瞳を真っすぐに見つめながらの覚悟のこもった言葉。


 俺が心配しなくてもルミアは、錬金術師になるために覚悟を決めていたらしい。


 これ以上、心配するのは彼女にとっても失礼だろう。


 ルミアと一緒に採取をするのがサフィーから頼まれている指名依頼だからな。


「それならば、一緒に採取に行きましょう」


「はい! お願いしますね、シュウさん!」


 こうして、俺はルミアと共に湿地帯に向かうことが決定した。




 ●




「さて、湿地帯で毒性素材を採取するとなれば、必要なものは解毒ポーションだな」


 俺とルミアが頷き合うと、サフィーがイスから立ち上がって戸棚からポーション瓶を持ってくる。


「こっちが低級の解毒ポーションだ。毒沼蛙、エオスの毒であれば、これを薄めて飲んでも十分に治るだろう」


 コトリと置かれた低級ポーションは薄紫色の液体だ。


 解毒ポーションらしいが、液体そのものが毒っぽい。


「そして、こっちが中級の解毒ポーションだ。タラントやカイシードルのような猛毒には、こちらのポーションが必要だ」


 二つ目に置かれたポーションは先程よりも液体の色が濃い紫色だ。


「基本飲めば問題ないが、状況に応じた解毒ポーションの使い方についてはルミアが教えてくれるだろう」


「はい、任せてください」


 にっこりと笑みを浮かべるルミア。


 そうだ。もしもの時には専門家がいるのだ。


 そう考えると、いざという時も頼もしいものだ。


「そして、こっちが上級の解毒ポーションだ。激毒を持つ魔物の毒を食らってしまった時に服用すればいい。もっとも、激毒を食らいながら生きているかは怪しいがな」


 真剣な顔をしながら上級ポーションを置くサフィー。


 赤紫色の液体をしており、いよいよ激毒と言われても違和感がないくらいだ。


 というか、サフィーの説明が怖い。


「……使うことがないように立ち回ります」


「うむ、それが賢明だろう。低級と中級の解毒ポーションが利かない複合毒に対しても、一定の効果はある。念のための保険として持っておくといい」


「ありがとうございます」


「後の細々としたアイテムや道具はルミアに持たせるとして、後は毒性素材を採取するために必要なアイテムだな。それらについてもルミアに作らせるとしよう。ついでに湿地帯を歩きやすい靴も作ろう」


「助かります!」


 正直、靴に関してはどうしようかと思っていたが、サフィーにはきちんとした対策装備が浮かんでいるらしい。


「では、シュウさん。手と足のサイズを測らせてください」


「わかりました」


 ルミアに連れられて、俺は店舗スペースから奥の作業部屋へ。


 ルミアはメジャーを手にすると、俺の手のサイズや足のサイズを測って髪に記入していく。


 そして、それが終わると今度は棚から粘土を取り出して、小さな箱に入れた。


「では、こちらに手と足をつけてください。型を取らせてもらいます」


 まるで、オーダーメイド品を作るかのような細かさだ。


 粘土の上に両手をつけて型をより、両足も同じように粘土に沈める。


 むにゅっと粘土が足の間に入ってきて、何ともいえない気持ち悪さだった。


 しかし、快適な靴のためには仕方がない。


「ありがとうございます、これで計測は完了です」


 手渡された濡れタオルで手と足の粘土を拭うと、アイテムのための計測は終わったようだ。


「三日もあればできるだろう。適当にまた来てくれ」


「師匠は適当過ぎます! 出来上がれば私がお伝えしにいきますから!」


 ずぼらな師匠の代わりに真面目な弟子が、きちんと業務連絡をしてくれる。


 うん、それは助かる。


「はい、よろしくお願いします。あっ、金額の方はどれくらいします?」


 必要なアイテムの目途がついたのは嬉しいが、肝心の代金を確認していなかった。


「魔力釜を満タンにしてくれたお礼だ。金はいらんよ。採取にルミアを連れて行ってもらう恩もあるしな」


「そういうわけなのでお代は必要ありませんよ」


 尋ねると、サフィーとルミアは全く興味がないとばかりに言う。


「え? いや、そういうわけには――」


「本当に大丈夫ですから。いつもお世話になっている分、これくらいは力にならせてください」


「わかりました。楽しみにしています」


 ルミアの真剣な言葉に、俺は遠慮の気持ちを霧散させて告げるのだった。




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こちら新作になります。よろしければ下記タイトルからどうぞ↓

『異世界ではじめるキャンピングカー生活~固有スキル【車両召喚】は有用だった~』

― 新着の感想 ―
[一言] 有毒性物のいわゆる毒というものは、いわゆる捕食の際の消化液、消化酵素ですからねぇ。毒を喰らえば、その消化液で蛋白質が分解され、血液、神経細胞、筋繊維が破壊熔解破断して、機能停止、使い物になら…
[気になる点] ルミアはメジャーを手にすると、俺の手のサイズや足のサイズを測って髪に記入していく。 髪と紙の誤字と思います。 [一言] いつも楽しく読ませていただいてます!
[気になる点] 更新は未だですか? [一言] ルミアはメジャーを手にすると、俺の手のサイズや足のサイズを測って髪に記入していく。 紙に記入 では?
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