アロママッサージ1
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クラウスから貰ったパンを食べた俺は、再び店に入ってセシエラに追加のアロマタケを納品をした。
「ありがとうございます、シュウさん。お陰様で当分アロマタケに困ることはありません」
「お役に立てたようで良かったです。では、俺はこれで……」
「あら? アロママッサージの方はいいのですか?」
椅子から立ち上がると、セシエラが呼び止めた。
「あっ、忘れていました。せっかくですからお願いします」
セシエラとアロマタケのことについて話し合ったりしている内にすっかりと忘れていた。
そういえば、依頼金の他に追加の報酬としてアロママッサージを受けられるんだった。
「かしこまりました」
そんな俺の様子を見てセシエラはクスリと笑うと、応接室の扉を開けた。
そして、向かうのは寝台のある部屋……かと思いきや、奥にある小さな更衣室の部屋だった。セシエラは棚から何かを取り出して渡してくる。
それはやたらと薄い男性用の布パンツだ。
「まずは衣服を全て脱いでこちらに着替えてください」
「えっ、待ってください。本当にこれ一枚だけなんですか? なんかこうもう少し防御力のあるものというか……」
「普通のマッサージであれば、そうなのですがうちはアロママッサージなので。肌にアロマを塗り込みながら施術をするので衣服は邪魔になるのです」
「そ、それもそうですよね」
ここはアロママッサージ店だ。普通のマッサージ店とは違う。
わかっていたのだけど、経験がないのでどうしても戸惑ってしまう。
「初めての方は大体戸惑われるものですよ。移動の際はこちらの一度、こちらの衣服を着ていただくのでご安心ください。それでは私は外でお待ちしております」
なんだ。患者衣もあるのか。それならパンツ一丁で移動するわけでもない。
などと安心したが、結局施術の時はパンツ一丁なわけだよな? まあ、タオルなどでかけるとは思うが、それでも戸惑いの気持ちがある。
「ええい、ここまできたら男らしくいくしかない」
覚悟を決めた俺は衣服を脱いで、薄い布パンツを履いた。
ギリギリ透けはしないが最小限の薄さといった程度だ。
その上に患者衣を纏うと安心できた。
棚を見ると衣類棚があったのでそちらに放り込む。とはいえ、マジックバッグはかなり貴重だ。セシエラ達を信用していないわけではないが、もしもを考えると少し怖いので持ち出すことにした。
マジックバッグだけを手にして更衣室を出ると、個室の前でセシエラが待機していた。
「すみません、貴重な素材が入っているのでこのバックだけ傍に置いていてもいいですか?」
「構いませんよ。では、中にどうぞ」
一部、荷物を持ってきたことに対して、特に気にすることもなくセシエラは扉を開ける。
室内には魔道ランプが置かれており、ぼんやりとした橙色の光を放っていた。
中央には寝台、少し離れた場所には小さなソファー、作業台や棚の上にはいくつものアロマの入った瓶などが置かれている。
傍にあるアロマ瓶を興味深く見つめていると、セシエラがゆっくりと扉を閉めた。
うん? 今さらながらすごいシチュエーションだな。
薄暗い狭い部屋の中で綺麗な女性と二人っきりだ。
アロママッサージをするだけとはいえ、意識してしまうのは仕方がない。
「では、寝台に腰かけてください」
「はい」
「ここ最近、身体で気になっている場所はありますか? 首が痛いとか肩が凝るとか、腰が痛いなど」
寝台に腰かけるとメモを手にしたセシエラが尋ねてくる。
施術に入る前のヒアリングのようだ。どこか悪いかわかっていれば、そこを重点的に施術することができので当然か。
とはいえ、俺はこの身体を手に入れて一年も経過していない。
前世の身体であれば、違和感のあるところはスラスラと出てくるが、この身体は神様に与えられたものであり、さらに若いだけあってガタはあまり来ていなかった。
「どんな些細なことでも構いませんよ。首回りが若干硬いとか、肩が張っているような気がするでも」
何を言うべきか悩んでいると、セシエラが優しくそう言ってくれる。
「そうですね。仕事がら採取をするので何となく腰回りは硬くなっているような気がします」
「確かに採取といえば、屈んだ体勢ですることが多いですからね。なるほど。ちなみに、足のむくみなどはどうですか?」
「一応、毎日銭湯に通っていて、しっかりと身体を温めて軽くマッサージをしていますが、それだけでむくみが解消されているかは不安です」
「……毎日ですか。シュウさんは綺麗好きなんですね」
「綺麗好きと言うより、風呂好きといった方が近いです」
最初は何を言えばいいかわからなかったが、セシエラが会話術によっていつの間にかスラスラと言葉が出ていた。これも彼女の培ってきた技能なのだろう。
「承知しました。では、一度上着を脱いで横になってください」
「あっ、はい」
患者衣を脱ぐことに恥ずかしさがあったが、こうも事務的に対応をされると恥ずかしがっているのがバカらしくなってきた。
潔く脱いで横になると、セシエラが下半身を隠すように大きなタオルをかけてくれる。
「身体を触り、全身の筋肉の状態を確かめさせていただきますね」
「はい」
言葉に頷くと、彼女の柔らかな手が肌に触れる。
そして、腰回りを触っていく。やはり、アロママッサージをしているだけあってか、触り方が素人と全く違う。
ただ単に腰を触っているのではなく、腰にある筋肉を刺激している感じがした。
「あー、腰回りの筋肉が硬くなっていますね。シュウさんが思っている以上に疲労していますよ」
「ええ、本当ですか?」
「はい、カチカチです」
どうやら俺が思っている以上に腰回りの筋肉は疲労していたようだ。
それでも押し切れていたのは若さということだろうか。
そうだよな。気がつけば一日中採取している日だってあったし、ガタがきていてもおかしくはないだろう。自分の身体ではあるが、案外気付かないものだ。
腰回りの軽い指圧が終わると、今度はセシエラの手がお尻へと移動していく。
タオル越しにかけられるセシエラからのマッサージ。
手の平を使って、ぐっぐと押さえつけられるような力がかかる。
「痛かったら言ってくださいね」
「大丈夫です。むしろ、心地いいです」
程よい力加減でかけられるマッサージがとてもいい。
「お尻も少し張っているのでほぐしていきますね」
「なんだかお尻をマッサージされるのが新鮮です」
「日常生活を送っていて中々あることではないですからね。それにご自身でのケアも難しい部位ですから」
確かにストレッチをして伸ばすことはできても、自分でマッサージをすることは不可能な部位だからな。
お尻から太ももへと流れるようにマッサージされる。
「お尻の筋肉が柔らかくなってきましたね」
しばらく、マッサージを受けているとお尻や太もも周りの筋肉がすっかりとほぐれているように感じられた。
他にも同じように前もも、外もも、首などもマッサージは続いていく。
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次の話も近いうちに更新します。




