達成のお祝い
「本当に頼んでしまった……」
「さっき火山で這いまわっていた奴だぜ!? 本当に美味えのか!?」
「やめてくださいましアレク! 脳裏に鮮明に浮かんでしまいますわ!」
「大丈夫ですよ。美味しいですから」
怖気づいているギールスたちを励ましていると、まずは乾杯のためのエールと怒り豆などの簡単なおつまみが配膳される。
十五歳ぐらいの少年少女がエールを持っている光景には少し違和感があるが、この世界では十五歳にもなればお酒を嗜むのが常識なので気にしないことにする。
「それでは、わたくしたちの課題とシュウさんの依頼の達成を祝して乾杯ですわ!」
「「乾杯!」」
グランテルに戻って領主に納品するまでが依頼であるが、ここでそれを指摘するような野暮はしない。
フランリューレの合図に合わせて、俺たちは酒杯をぶつけ合う。
まずはエールで喉を潤す。ほろ苦いエールが喉を突き抜けていく。
前世のものに比べると雑味が多いかもしれないが、豪快な味をしていて割と好きだ。
「くあぁー! 課題を終えた後の酒は美味え!」
アレクが口に泡をつけながら叫ぶ。
俺も採取を無事に終えたからか、いつにも増してお酒が美味い。
にしてもアレクの呑みっぷりは中々様になっていて酒飲みの才能がありそうだ。
「アレクさんは結構呑めるタイプですか?」
「おうよ! 結構、強い方で自信があるぜ!」
やっぱり。上品に呑むフランリューレやチビチビと呑んでいるネルネやギールスに比べるとかなり豪快だったからな。
「これで前期は安定だな」
「前期でこの難易度だと思うと、後期が怖いですわね」
「……今から心配しても無駄。その時に考えればいい」
ギールスたちは学園のことを話しているようだ。
俺が学園のことはあまりわからないので、口を挟まないようにしてアレクと酒の好みについて語りながらつまみを食べる。
思えば、グランテルでは年の近い同性と話すことはあまりなかったので、こんな風に語り合うのは酷く久し振りだ。
「はいよ。ラゾーナの串焼きだよ」
そんな風に話し込んでいると女将がメインディッシュを持ってくる。
その瞬間、話し込んでいた皆が無言になった。
目の前に盛り付けられているラゾーナの肉に視線が吸い寄せられている。
前足や後ろ足部分の肉。先端にはラゾーナの爪や鱗がしっかりと残っていた。
ついさっき火山で見かけたところなのでインパクトは強いだろう。
俺も最初に見た時は驚いて手が止ま――いや、俺はすんなり食べたな。
素材への興味と異世界だからと開き直っている部分があるから順応性が高いのかもしれない。
「……私がいく」
「ネ、ネルネ……」
誰もが固まる中、ネルネが男気を見せてラゾーナの前足を掴んだ。
ネルネはじっくりと観察することなく、小さな口を開けてかぶり付く。
「……あっ、美味しい」
ポツリと漏れ出たネルネの感想。
「本当だろうな?」
「……本当。アレクも食べてみるべき」
ネルネに言われて、アレクも手を出して食べる。
「うあっ、本当だ! 美味え! 鶏肉みたいだぜ!」
予想以上に美味しかったのかアレクが二口、三口と食べ進める。
ネルネも小さな口を精一杯動かして食べていた。
「で、では、わたくしも」
「僕も」
それを見て窺っていたフランリューレとギールスもおそるおそる手を伸ばして食べる。
「美味しいですわ!」
「見た目は如何にもだけどイケる!」
そして、二人とも目を大きく見開いた。
最初は手足や鱗が気になるものであるが、徐々にその美味しさと慣れで気にならなくなるものだ。
俺もラゾーナの串焼きを食べる。
鶏肉よりも肉厚だ。齧れば肉の層がしっかりと感じられる。
肉汁もとてもジューシーでピリッとした香辛料ととても合っている。
それがまたエールととても合うのだ。
過度な脂身はなくてヘルシーなのでいくらでも食べられる。
現にネルネたちは、既に二本目に手を伸ばしていた。
注文する前の恐れはすっかりと吹き飛んでしまったらしい。
その変化を微笑ましく思っていると、階段からガヤガヤとした声が響いてきた。
「おおっ! シュウじゃねえか! これから作った蒸留酒を呑むんだ。お前も呑んでいけ!」
「わ、わかりました」
樽を担いで入ってきたのはバリスたちだ。
酒場なのに酒を持ち込んでもいいのかと心配していたら、女将に別の樽を納品している模様。どうやら蒸留酒を渡すことで許可を貰っているようだ。
酒で全てが解決する。ドワーフの世界とは単純でわかりやすいな。
バリスをはじめとする酒造チームが樽からコップに蒸留酒を注いでいく。
その中にはロスカも混じっており、どこか死んだような目で酒を注いでいた。
「ロスカさん、もしかして今日も酒造りを……?」
「誰のせいだと思ってるっすか! シュウさんが余計な知恵を吹き込むからっすよ!」
思わず声をかけると怒られた。
どうやらロスカは今日も蒸留酒造りを手伝わされたらしい。
「うう、あたしは装飾の修行をするためにここにきたっすのに……」
「なに言ってんだ? 新しい酒の製造に加われたんだぞ? 装飾の修行なんかよりこっちの方が貴重な体験だろうがよ!」
「ぜんぜん、貴重じゃないっすー! あたしは装飾がしたいっすー!」
バリスに絡まれて叫ぶロスカ。
うん、ロスカに関しては本当にごめんとしか言えないや。
やがてドワーフの一人がやってきて、コップになみなみと蒸留酒が注がれる。
透き通った液体は綺麗なコップによく馴染んでいる。
「これがあのドワーフの方々が作られたお酒ですか?」
「……蒸留酒だっけ? 聞いたことがない」
「お酒とは思えないくらいに透明ですね」
初めてみるタイプのお酒にフランリューレたちは興味津々なようだ。
「ちょっと呑ませてくれよ」
どうせなら彼女たちにも少しだけ分けて――と思っていたらアレクがクイッとコップを傾けて呑んでしまった。
「ああっ! そんなにグイッといったら!」
「ゴホッ、ガハッ! なんだこれ!? 喉が焼けるっ!」
「な、なんですの? アレクが苦しんで……もしかして、毒!?」
悶絶するアレクを見て、フランリューレが慌てふためく。
「いや、違いますよ。酒精がかなり強い酒でしたので」
「……ゴホッ、ゴホッ、本当だ。香りだけでもすごくキツい」
「知らない酒を一気に呑むなんてバカだろう」
蒸留酒の匂いを嗅いでむせるネルネと、呆れた表情を浮かべるギールス。
とはいえ、急性アルコール中毒にでもなられたら堪ったものではない。
俺はバッグからルミアから貰った解毒ポーションを取り出してアレクに呑ませてやる。
「お、おお。大分、楽になったぜ。これ、解毒ポーションか?」
「はい、アルコールの分解を助けてくれるので、呑み過ぎた時も使えますよ」
買う時にそうルミアから教えてもらった。
案の定、アレクの顔色はよくなってこちらとしてもホッとした。
「すまん。お金は払う」
「いえ、こちらの説明不足だったので大丈夫ですよ」
毒の備えとして持っていたが、まさかアルコールの中和として使うことになるとは自分でも思っていなかったな。
「助かる。にしても、めっちゃ飲みやすいポーションだったぜ。どこのやつなんだ?」
「グランテルにある錬金術師のお店で作られてますよ。腕がいいのでオススメです」
「へー、寄ることがあれば買ってみるぜ」
普段お世話になっているお店だからか褒められると自分のことのように嬉しいな。
こうして営業もできたので少しは恩返しになっただろうか。
「……ねえ、シュウさん。そのお酒、ちょっとだけ呑んでみてもいい?」
ネルネがジーっと蒸留酒の入ったコップを見ながら尋ねてきた。
キツいお酒とはわかっているが、どんな味なのか気になるらしい。
「いいですよ。皆さんで少しずつ分けて呑みましょう。アレクみたいに一気に呑むのはダメですからね?」
そんな俺の言葉に皆がクスリと笑った。
この後、皆で呑んで俺以外むせた。
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