火人形の心臓
『転生貴族の万能開拓』の書籍が10月2日発売です。よろしくお願いします。
マグマゴーレムを討伐し、休憩を終えるとネルネたちは素材の回収に移った。
「そーっとだぞ? 少しでも傷つけたら台無しだからな?」
「慎重にですのよ?」
「わーってるよ! プレッシャーかけんな!」
マグマゴーレムの心臓部を剣でくり抜こうとするアレクと、それをハラハラとした面持ちで見つめるギールスとフランリューレ。
これが傷ついて台無しになってしまえば、課題はクリアとはならない。
もう一体のマグマゴーレムを見つけて、倒して、手に入れる必要がある。
先程の戦闘を考えると、もう面倒なマグマゴーレムとは戦いたくないだろうからな。
「……失敗したら、アレクをマグマに突き落とす」
「ネルネは目がガチだから怖え!」
そんな風に仲間のプレッシャーに怯えつつも、アレクは剣を動かし続け、そして……
「よっしゃ! 課題素材を手に入れたぜ!」
アレクは剣でくり抜いた素材を掲げた。
【火人形の心臓 普通】
マグマゴーレムの心臓部にある核。
人間の心臓のような形をしており、強い熱を秘めている。
魔道具、アイテム、武器として加工することができる。が、加工するには火魔法の扱いが繊細でなければいけない。
まるで人間の心臓のような形をしていたので驚いたが、鑑定してみるときっちりとマグマゴーレムの素材であった。
ゴツゴツとした赤紫の心臓のような見た目だ。どうやらあれがマグマゴーレムの核であるよう。
「ちょっと触らせてもらってもいいですか!?」
残念ながらマグマゴーレムとは一度も出会っていないので、素材は採取できていない。
今はヴォルケノスの卵が優先であるが、やはり知らない素材はよく見たいし、触ってみたい。
「お、おお。いいけど熱いから耐火性のあるグローブをつけてくれよ?」
「つけました!」
即座に耐火性のグローブをつけると、アレクがちょっと退いた雰囲気を醸しつつも渡してくれた。
「おお、これがマグマゴーレムの素材か……っ!」
思っていたよりずっしりとしていて重い。それに遠めに見るよりも、近くで見た方が色彩も鮮やかだ。赤から青っぽい紫に変化していくグラデーションが美しくもあり、薄気味悪くもあった。
素材の名前が核ではなく、火人形と心臓と表示されるのも納得の見た目だな。
耐火性のあるグローブをつけていても、じんわりと熱が通ってくる。
熱石などのようなあからさまに熱そうな見た目はしていないが、内部にはかなりの熱量が秘められているのだな。そんなところも心臓っぽい。
「……マグマゴーレムの心臓がそんなに珍しい?」
まじまじと素材を見つめるのが不思議だったのか、ネルネが首を傾げて尋ねてくる。
「珍しいというより、見たことのない素材が好きなんですよ。そういう物をたくさん集めるために俺は冒険者になったんです」
「へー、なんだかシュウさんって変わってるな」
アレクがそう言ってしまうのも無理はない。
冒険者というのは自由な何でも屋のようなもので。憧れる理由は一攫千金を目指してとか、自由が欲しくてとか、強い魔物を倒して名誉が欲しいからと言った俗物的なものが主だ。
俺のように素材が大好きで、素材を集めるために志す者は少数派だろう。
「でも、そういう人が支えてくれるお陰で僕たちも学園で研究することができている。敬意の気持ちを忘れてはいけない」
「そうですわ!」
「そんな高尚な人じゃないですよ。ただの素材を収集するのが好きなだけです」
ギールスとフランリューレが澄み切った瞳で讃えてくるが、そんな立派な人じゃないので気恥ずかしい。
俺は自由に素材を採取するのが好きなだけだからな。
とりあえず、マグマゴーレムの素材を返す。
アレクは慎重にそれを受け取ると、耐熱性の瓶に収納した。
「さて、次はヴォルケノスの卵を採りにいきたいんですけど、体力や魔力は大丈夫ですか? 無理であれば、一旦エルドに引き返しますが……」
あれだけ激しい戦いをしたので、フランリューレたちの体調が心配だ。無理なのであれば、一時撤退して明日に出直すことも十分可能だ。
「休ませていただいたので問題ありませんわ! ポーションも飲みましたので、魔力も直に回復いたします」
「……積極的に戦えって言われるときついけど、そうじゃないなら大丈夫」
「俺もいけるぜ! 特に怪我もねえしな」
「僕もこのままで問題ありません」
どうやら四人とも体力、魔力ともに問題ないようだ。
多少の疲労はあるものの、支障をきたすものではないようだ。
「わかりました。では、ヴォルケノスの巣に向かいましょう」
「はいですわ!」
四人がしっかりと頷いたところで、俺はヴォルケノスの巣である頂上部へと歩き出す。
ここからは課題ではなく、俺個人の依頼だ。彼女たちには補助を頼むだけなので、しっかりと働かないとな。
「あの、わたくしたちはどうすればいいでしょう?」
先導して歩いていると、フランリューレが尋ねてくる。
そうだった。俺は段取りを理解しているが、彼女たちは知っているわけではないからな。
一人で活動していることが多い弊害だ。きちんと流れを説明しないと。
「主に協力してもらいたいのがヴォルケノスの巣で卵を奪うこと。そして、奪ったものを運ぶ際に、襲い掛かってくる魔物を排除してもらうことです」
「理解しました」
「卵を奪う段取りは巣の様子を窺ってからにします。まずは逃走ルートの共有です」
頷くフランリューレに逃走ルートを記した地図を渡す。
すると、他の三人もそれを覗き込む。
「……すごく詳細な地図」
「いくつかルートがあり分岐してますが、それはその時の状況で判断します。基本的には赤く塗ってあるルートで逃げるもりです」
既に卵を運搬していくルートの調査は済んでいる。後は四人と協力しながら、そこを進んでいくだけだ。
「見てるだけで頭が痛くなりそうだぜ」
「でも、これなら安全に進めそうだ」
「昨日調べたものなので、あまり魔物の生息区域も変わっているとは思いませんが、何となく把握してもらえると助かります」
ある程度の生息区域は決まっているものであるが、絶対にそこにいるとは限らないのが魔物だ。
そこにいると思っても、いなかったり、そこにいないはずの魔物がいたりすることは当然ある。あくまで参考程度のものだ。
「問題はヴォルケノスがどこまで追いかけてくるかですね。それによってルート選びや危険性が変わるので」
正直、いくら情報を集めようがこれが読めない。
巣から逃げられた時点でヴォルケノスは諦めるのか。ただ、あの警戒心と攻撃性を考えると、すぐに諦めるようには見えなかった。
ある程度、追いかけられることも視野に入れているが、できれば頂上部で振り切りたい。
「うへー、危険度Bの魔物に追いかけられるとか、考えたくもねえ」
「あの大きさからすると、洞窟まで逃げ込めば入ってはこれなさそうですが、地中やマグマを潜ることが多いので、しつこく追いかけてくる可能性もあります」
洞窟内まで入ってくるのを想像してか、皆が一瞬無言になる。
「そ、その時は協力して何とか脇道に入りましょう!」
「そうですね。元々一人で運搬する予定でしたが、皆で協力をすれば何とかなりますよ」
不安に満ちている空気を振り払うように俺は笑う。
こういうのは余裕を見せることが大事だ。一番年長者の俺が不安にしていては、彼女たちも不安になるしな。
実際四人もの味方がいれば、懸念事項は少なくなるし、場合によってはごり押しもできるので悲観することもない。
俺一人が持つしかなかった卵であるが、場合によっては誰かに持たせて俺が護衛してもいい。最初に考えていた作戦よりも遥かに楽だった。
「……あっ、シュウさん。そっちはマグマが……」
「ああ、大丈夫です」
マグマの方に歩き出す俺を見て、ネルネが声をかけてくるが問題ない。
俺はブリザードを発動させて、目の前のマグマを凍り付かせた。
「マ、マグマが凍った!?」
近くにたフランリューレたちがざわめく。
灼熱の空気が一瞬にして、冷気へと変わっていく。
足で氷が割れないことをしっかりと確認。
「回り道していると時間がかかるので、最短距離で行きましょう」
洞窟内はマグマが多くて遠回りすることが多いが、直線距離で進めば距離自体は短い。
こうやってマグマを凍らせて進んでいけば、頂上部まで意外とすぐにたどり着ける。
「……もしかしてシュウさんは、僕らに気を遣って今まで加減していたんじゃないか?」
「ヤバいお手伝いすることになったと思ったけど、何とかなりそうな気がするぜ」
「……本当にBランク? もっと上なんじゃ‥‥」
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