マグマゴーレム
『転生して田舎でスローライフをおくりたい』9巻は10月10日頃発売です。
「……いました。マグマゴーレムです」
「うん? どこにいるんだ?」
俺の言葉にびくりと反応するが、アレクたちは見つけられていないよう。
無理もない。俺も魔石調査で反応がなかったら、気付くことはなかったと思う。
「あそこのマグマの中に突っ立っています」
「あれですの? ただの突起した岩なのでは?」
「……でも、よく見るとゴーレムの後ろ姿にも見える」
そこにいるとわかっていても、思わず疑ってしまう。それくらいマグマゴーレムの擬態能力は見事なものだった。
「シュウさんがそう言うからにはそうなのでしょう。今までもそうやって魔物を感知してくれたことですし」
「ああ、そうだ。あっちは動く気がないみたいだし先制攻撃しちまおうぜ!」
「わかりましたわ。では、一斉に魔法で攻撃をしましょう」
「……シュウさんは下がってて。ここからは私たちの課題だから」
「わかりました」
フランリューレたちの方針が決まり、ネルネに下がるように言われたので大人しく後退する。
ここからは彼女たちの課題であり、戦いなのだ。部外者の俺がいては気を遣ってしまうだろうからな。
俺が十分な距離をとって離れると、フランリューレたちが一斉に魔法を飛ばす。
様々な魔法が擬態しているマグマゴーレムに直撃。
しかし、先ほどのリザードマンのように倒れたり、体が欠けるようなことはなかった。
もしかしたら、多少は欠けているのかもしれないがそれは微々たるものであった。
ジーッと佇んでいたマグマゴーレムが悠然と振り返る。
動いてみると本当にそこにいた魔物なのだとわかる。
鉱物や岩で構成されたゴーレムであり、手足が異様に長かった。身長は二メートルくらいあり、かなりの大男といった風貌。
マグマゴーレムは無機質な赤い瞳をフランリューレたちに向けると、ゆっくりとした動作で歩き出す。
流れるマグマの中に身を沈めようが気にせず、まるで川でも渡るような気楽さだ。
相手がマグマの中にいては迂闊に攻撃もできないが、フランリューレたちは今のうちにしっかりと距離をとってフォーメーションを形成していた。
アレクとギールスが前衛に、フランリューレが中衛、ネルネが後衛。
とても冷静な判断をしている。
やがて、マグマゴーレムがマグマから出てくる。
頭や肩に乗ったマグマをボトボトと落としながら陸地に足を踏み入れ、そのままアレクたちに突進していった。
動作自体はそこまで速くはないが、歩幅が大きいので想像以上の速度と圧迫感があるだろう。
だけど、アレクとギールスは速やかにその場を離れて回避する。
マグマゴーレムは振り返ると、そのまま両手を鋭く振るった。
腕が届くわけではないが、付着しているマグマはそれだけで飛んでいく。
「危ねえっ! なんてもん飛ばしやがる!」
「僕たちからすれば、あれに触れてしまうだけでアウトだ」
幸いにして当たることはなかったが、ギールスの言う通りの危険性だ。
マグマに当たれば大怪我では済まない上に、煙を上げて高熱になっている手足で触れられるだけでアウトだ。掴まってしまえば命はない。
「ネルネ! 水で冷やしてください!」
「……ウォーターボール!」
フランリューレの指示で、ネルネが水球を三つ飛ばして着弾させた。
水属性は苦手なのか、マグマゴーレムは両腕を交差して露骨に嫌がる。
高熱の体から温度が奪われ、白い蒸気が激しく上がった。
だけど、これって体に纏わせていたマグマが冷却化されて、逆に硬くなったんじゃないだろうか?
「おいおい、クソ硬いぞ!?」
「マグマが冷えて硬質化したんだ!」
俺のそんな予想は見事に当たっていたようで、アレクとギールスが剣撃を入れるが、あまり効果は芳しくないようだった。
「……水魔法を当てるのは逆効果みたい」
ネルネの言葉を聞いて、フランリューレが考える。
彼女がこのパーティにリーダーだ。この状況でどのような指示を与えて、有利にしていくのか気になる。
「マグマゴーレムの足を狙いましょう。あれだけ手足が長ければ、そのどこかが欠ければバランスが不安定になるはずです」
「……わかった」
なるほど、手足が長いの大きなアドバンテージであるが、バランスを崩しやすくもある。
いくら防御力が高くても、まともに動けなくなってしまえばいつかは限界がくる。
「右足を集中攻撃です! 相手の動きを封じますわ!」
「わかった!」
「任せろ!」
フランリューレの作戦を聞いて、ギールスとアレクがマグマゴーレムの右足を斬り付ける。
片方が直接斬り付け、相手の注意を引きつけて、もう片方が安全に斬り付ける。
マグマゴーレムは手を振り回して、煩わしそうにしている。
腕を振り回す攻撃から逃れるために前衛が離れると、フランリューレとネルネの魔法が右足に突き刺さる。
とてもいい連携だ。冒険者でもこれだけ安定したパーティはないだろう。
学園の中でも優秀だと口にするだけの実力はあるな。
だけど、そんな戦闘音に釣られてか、近寄ってくる魔物の反応があった。
ファイヤーバードやリザードマン。それに見たことのないサソリっぽいシルエットも見えている。
せっかく、彼女たちが頑張って戦っているというのに邪魔をするのはよくない。
皆がマグマゴーレムの戦いに集中させてあげるのが俺の役目だからな。
やってくる魔物を排除することは構わないだろう。
俺は通路からやってくる魔物にブリザードを放った。
◆
マグマゴーレムとの戦いが始まって、三十分が経過していた。
高気温の火山内では、激しく動き回るだけで体温が大変なことになってしまうが、俺が冷気を纏わせているお陰で余裕を持てていた。
多少の汗をかいてはいるが、戦闘中に自分たちで水分補給もできているし安定している。
対するマグマゴーレムは最初こそ足が太かったのだが、長時間の戦闘と重なる攻撃を受けたことで右足はかなり細くなっていた。
左足と手足は通常サイズなだけに、その差が如実に見えている。
鉱物や岩、マグマなどを纏っているが、本体はそこまで太くないのだろう。
「ライトニングアロー!」
そこにフランリューレの雷の矢が右足に突き刺さった。
その衝撃で遂に右足にヒビが入る。
マグマゴーレムは体をよろめかせたが、何とか耐えた。
そして、どこか覚束ない足取りでマグマの方に向かっていく。
不利と悟って撤退をするのか、再びマグマを身に纏って体を補強するつもりか。どちらにせよ好きにさせるとロクなことにならないだろう。
「ギールス!」
「わかっている! ストーンバレット!」
フランリューレの合図を受ける前から、ギールスは既に土弾を用意していた。
そして、逃げようとするマグマゴーレムの右足に土弾が直撃し、右足は完全に破砕させた。
マグマゴーレムはそのままバランスは崩して、陸地で倒れ込む。
立ち上がろうとするが、右足がなくなったことでバランスがとれなくなったのか立ち上がれずにいた。
いくら防御力を持っていようが動けないのであればただの的だ。
マグマゴーレムは至近距離からのフランリューレたちの魔法で事切れた。
「よっしゃ! これで課題クリアだぜ!」
沈黙したマグマゴーレムを見て、アレクが喜びの声を上げた。
「ふう……ようやく倒せましたわね」
「まさか、ここまで防御力が高いとは思わなかった」
「……疲れた」
他の三人も課題をクリアできたことでホッとしているようだった。
「お疲れ様でした。お見事です」
「ありがとうござまいす。本当はもう少しスムーズに倒せると思っていたのですが、お待たせしてしまってすみません」
そう優雅に礼をするフランリューレの額にはびっしりと汗をかいていた。
三十分以上にも渡る戦いだったからな。冷気があるとはいえ、緊張はとんでもなかっただろう。
無理をせず、堅実に攻めていく。
言うだけであれば簡単であるが、一撃必殺の攻撃を持ち得る魔物を相手に長時間の戦闘はかなりのプレッシャーだ。本当にフランリューレたちはすごい。
「シュウさん、冷気の援護をありがとうございます。これがなければ正直、ここまで安定して立ち回れませんでしたわ」
「いえいえ、俺の援護がなくてもフランリューレさんたちの技術と連携力があれば、討伐は可能でしたよ」
「あ、ありがとうございます!」
そう言うと、フランリューレは顔を赤くして照れたように髪をいじり出した。
冷気がなければ多少もたついていたに違いないが、それがなくても討伐をこなせるだろうという力量がしっかりあった。
「……でも、魔物の乱入があると危なかった」
「そうだよな。シュウさんの後ろにめっちゃ凍り付いた魔物がいるし」
「ファイヤーバードにリザードマン、それにヘルスコーピオンまで……これらがやってきたら相当苦戦したかと」
俺のいた近くで凍り付いている魔物たちを見るアレクとギールス。
「あれは待機していた俺に襲い掛かかってきただけですから」
目的のルート上に俺がいて蹴散らしただけだ。何も問題はない。
「お心遣い感謝いたしますわ」
「……次は私たちがお手伝いする番。だけど、少しだけ休ませて」
凛々しい顔で告げたネルネであるが、次の瞬間にはへたり込むように座ったのであった。
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