ヒヒイロカネ
『異世界のんびり素材採取生活』の書籍が発売しております。書店で見かけられたら是非ともお手にとってください。
電子版もございますので、よろしくお願いします。
マグマゴーレムを探しながら調査をして進んでいると、採掘ポイントを見つけた。
この間、俺が採掘した場所とは違う洞窟の壁だ。
パッと見ただけで表層部分に質のいい赤の鉱石なんかが見えている。
「……ここ、採掘ポイントですけど、少し掘っていきます?」
「本当ですの!?」
「いい鉱石があるのか!?」
教えてみたらフランリューレとアレクが特に強い食いつきを見せた。
早速とツルハシを取り出して、ガツガツと壁を掘っている。
「……貴族の子は意外とお金を持っていない。金遣いが荒いから」
「アイテムで資金は減ってしまったからな。資金源を補給しなければ」
ネルネとギールスはそんな貴族事情をぶっちゃけながらツルハシを取り出して、黙々と採掘し始めた。
この二人もお金が欲しいようだ。
確かに高価なアイテム二つも割高で買ってしまったしな。四人の資金は少し心許ないことになっていても不思議ではない。
でも、貴族ってもっと優雅で余裕のあるイメージだったよ。
微妙に俺の中でのイメージが崩れた気がする。
周囲に魔物がいないことをしっかりと確認し、俺もせっかくなので採掘に混ざる。
お、この辺りに高品質のものが固まって埋まっている。
【シルバーペッパーの塊 高品質】
銀色の調味料。削って振りかけるだけで素材の美味しさを一段階引き上げる効果がある。
この粉を振りかければ、料理下手なものでも美味しく仕上げることができる。
【火山結晶 高品質】
レディオ火山の岩石に含まれる、微生物の遺骸や腐敗物が結晶化した石。
工房では研磨材として重宝されている。
「銀なのに調味料なのか……?」
シルバーペッパーという調味料がとても謎だ。振りかけるだけで旨味が引きあがるというが、本当なのだろうか?
今度、適当な料理を食べる時に使ってみようと思う。
火山結晶ははじめて手に入れる素材だ。工房でよく使われるみたいなので、ドロガンやロスカに持っていってあげると喜ぶかもしれないな。
手に入れた素材を鑑定して並べていると、壁の奥に最高品質である金色のものが見えた。 これはレッドドラゴンの鱗と同じく貴重な素材! 何がなんでも採掘しないと!
予期せぬ貴重な素材と出会えたことに喜びながら、俺は勢いよくだけど丁寧に掘り進める。
すると、鮮やかな赤銅色をした金属のようなものが出てきた。
【ヒヒイロカネ 最高品質】
金よりも軽量であるが、オリハルコン並に硬く、絶対に錆びない性質を持っている。
驚異的な熱の伝導性を持っており、少ない力で熱を起こすことができる。
錬金術の材料や炎の武器として使われることが多い。
「おお、ヒヒイロカネだ!」
ゲームで何度か見たことのあるファンタジー金属に興奮を隠せない。
まさか、この世界では本当に実在していたとは思わなかった。
「ヒヒイロカネですって!? そのような稀少な金属がここに!?」
「俺たちも掘るぞ! 掘って一攫千金だ!」
俺が近くでヒヒイロカネを手に入れたからか、フランリューレとアレクが俄然やる気を出して堀り進める。
やる気が出る気持ちはわかるけど、二人の掘っているところはほとんど何もないんだよな。
そこまで伝えるべきか少し悩む。
そんなことを思いながら、壁を掘っていると素材までたどり着いたのか、またヒヒイロカネが出てきた。今度のものは品質が橙なので、最高品質とまではいかない。
でも、レア素材がゲットできるのはやはり嬉しい。
「……シュウさんが石ころのようにヒヒイロカネを掘り当てている。これはおかしい」
「僕たちもシュウさんと同じ場所を掘れば、ヒヒイロカネが出るんじゃないか?」
ヒヒイロカネを手に入れていると、ネルネとギールスの身に纏う空気が剣呑なものになる。
ツルハシを構えながら近づかれると怖い。
「その辺りとかいい鉱石があると思いますよ」
「……本当?」
とりあえず、視界で素材が見えている場所を指さして教える。
ネルネが訝しみながらも壁を掘り進めた。
「……わっ、本当だ」
「ヒヒイロカネ……だと!?」
俺と同じようにヒヒイロカネを見つけだすことができたようだ。
高品質のヒヒイロカネを見事にゲットしている。
「ギールスさんの右側にも何かしらの物が埋まっていると思いますよ」
「本当ですか!?」
そう言うと、ギールスも素直にツルハシを振るい始めた。
「うおおおおおおおお! もっと掘れ! 掘りまくれ!」
「ヒヒイロカネ! 出てきてくださいまし!」
……あの二人に教えるのはなんか怖いからやめておこう。
◆
「くうう、どうして三人だけがヒヒイロカネを手に入れて……」
「ちきしょう。俺たちも手に入れたかったぜ」
採掘ポイントを後にすると、ヒヒイロカネを手に入れることができなかった二人は未だに嘆いていた。
ヒヒイロカネ以外の鉱石ならたくさんあったんだけど、二人の迫力がすごかったのでそっとしておいた。逆に引き当てでもすれば、一日を採掘に当ててしまうような勢いがあったからな。
少し悪いが、二人は掘り当てることができなくてよかったと思う。
「まあ、いいか。ネルネとギールスが手に入れたヒヒイロカネは俺たちの金になるんだからよ」
「……これは私の取り分」
「個人の頑張りによって獲得できたものだ。分けたりはしない」
「おいおい、それはねえだろ!?」
なんて気楽にアレクは言うが、ネルネとギールスはそれをきっぱりと拒否した。
まさかの取り分でのパーティ瓦解か!?
「……冗談。だから、シュウさん。そんな不安そうな顔をしないで」
「ビックリした。本格的に揉めるんじゃないかと思いましたよ」
冒険者が手に入れた報酬の分け前や、獲得した素材の分配で揉めたというのは、ギルドの酒場でもよく耳にしたし、実際に殴り合って喧嘩しているのも見ている。
アレクたちもそんな風になってしまうんじゃないかと思って、ドキドキしてしまった。
自分が助言したからこそ、それは尚更だった。
「四人で活動した時に手に入れたものは、誰が手に入れようと平等に分配すると決めていますので」
「そうですよね。安心しました」
先ほどとは違って、落ち着いた優雅な態度で説明すうフランリューレ。
グランテルの冒険者でもそのように決めているパーティが多いと聞いていた。
きちんと事前にルールを決めているようで安心した。
さて、採掘も終わって懸念も払拭されたことで引き続きマグマゴーレムの探索を再開だ。
気を取り直して、俺は魔石調査を使用する。
すると、マグマの方に反応があった。
マグマレスかと思って注視してみるが違う。その魔物は明らかに魚のような形をしていない。
流れるマグマの中で突出している岩盤かと思ったが、よく見ると突っ立っている人の背中にも見える。
【マグマゴーレム 危険度C】
レディオ火山のあらゆる鉱物、岩石で体が構成された人型の魔物。
岩や壁、マグマに身体を擬態させて、近くを通りかかった者を襲う。
マグマの中でも行動ができ、冷えて硬質化したマグマを何重も纏っている。
……どうやらフランリューレたちが探しているマグマゴーレムのようだ。
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