四人の実力
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「それじゃあ、先にフランリューレたちの課題を終わらせましょうか?」
「いいんですの?」
「俺の方を先にこなすと、卵を持つことになって身動きがとりづらくなりますので」
ヴォルケノスを振り切れるかわからないし、何より卵を抱えていると機動力がかなり落ちるからな。
「わかりました。では、わたくしたちの課題からお願いいたしますわ」
「了解です」
ひとまず、俺とフランリューレたちの協力作業の始まりだ。
「冷気は常に付与しておきますし、水がなくなれば気軽に声をかけてください」
「……わかった。遠慮なく言う」
「洞窟内にいるってのに、こんなにも快適だなんて最高だな!」
四人にはそれぞれ冷気を纏わせ続けている。
複数人に使えば、それだけ魔力の消費も激しくなるが海守の腕輪に比べれば微々たるものだ。このくらい大した負担でもない。
俺の役目は四人が安全に移動できるように快適な環境を作り出すことだ。
そう思ってフランリューレたちに付いて移動していると、前方の道で魔物の反応があった。
シルエットを見る限り、リザードマンが三体とオイルスライム二匹のよう。
しかし、肉眼で見える位置ではないので、四人とも気付いている様子はなさそうだ。
狭い道内で接敵したくはないので、早めに知らせておくべきだな。
「前方の道にリザードマンが三体。オイルスライムが二匹います」
「わかるんですの?」
「……もしかして、知覚系のスキルを持ってる?」
「ええ、そのようなものを持っています」
スキルを詮索するのはタブーであるが、同じ仲間として活動をする以上は、大まかな能力は教えておくべきだろう。
「かなり正確にわかるんですね。これだけ遠くから相手の情報がわかるのは大きい」
「オイルスライムがいるなら、先に火魔法で誘爆させちまおうぜ!」
「そうですわね。アレクが火魔法でオイルスライムを爆破させ、リザードマンが浮足立っている隙にわたくしたちが魔法を叩き込みましょう」
複数人での戦闘を行う場合は、こんな風に作戦を立てるのか。
いつもは基本的に一人だし、ルミアとロスカを伴うくらいの経験しかなかったので集団戦闘を間近で眺められるのは興味深い。
「……シュウさんは見てて」
「わかりました」
俺は余計なことをせず、四人の実力を見ることにする。
彼女たちがどんな魔法を使い、どのように動くか把握できれば、ヴォルケノスの時も動きやすいからな。俺は手を出すことはせず、傍観することにする。
アレクとギールスが剣を抜いて、フランリューレとネルネが杖を構える。
男子二人が前衛、女性二人が後衛タイプのようだ。
とはいえ、アレクとギールスも魔法を使うので、魔法剣士のようなスタイルなのだろう。
アレクとギールスが道に入って先行し、フランリューレとネルネと俺は後ろで待機。
しばらくすると、アレクとギールスが走って戻ってきた。
その後ろには剣と盾を手にしたリザードマンたちと、オイルスライムが見えている。
「アレク、今だ」
「おうよ! ファイヤーバレット!」
アレクが振り返り、突き出した左手から炎弾を射出。
それはリザードマンの足下を跳ねているオイルスライムに見事命中。
オイル百%の体が激しく燃え上がり、もう一匹のオイルスライムにも引火。
足下からの激しい炎にリザードマンたちが浮足立つ。
火山に生息している魔物だけあって耐熱性は高いのか、炎に巻き込まれてもダメージを負っている様子は見られない。
ただ、その怯んで足を止めた瞬間は格好の的だろう。
それを狙っていて待ち構えていたフランリューレとネルネは魔法の準備をとっくに終わらせていた。
「サンダーアロー!」
「……ウォーターカッター!」
フランリューレが雷の矢を放ち、ネルネが水刃を叩きこむ。
リザードマンが痺れ、胴体を真っ二つにされる。
しかし、それで倒れ伏したのは二体だけ。もう一体は右腕を飛ばされてよろけるに留まった。
アレクが斬りこみ剣で防がれるが、回り込んでいたギールスが首を跳ね飛ばした。
「おお、見事ですね!」
「これくらい大したことではありませんわ」
「……シュウさんが事前に魔物の種類や数を教えてくれたお陰」
四人での戦闘に感動していると、フランリューレがまんざらでもなさそうに髪をいじり、ネルネが眠たそうな口調で答えた。
「こんな感じで進めるなら楽勝だぜ」
「感知系のスキル持ちがいるとありがたい」
普段は一人で便利さを噛みしめているが、誰かと共有できるのはすごく嬉しかった。
にしても、四人ともかなり軽やかな動きをしていた。
アレクの言っていた通り、数々の戦闘を経験しているのだろう。魔法の発動もよどみのないものだったし、相手に合わせて戦い方を変える点も冷静だ。
全員が魔法使いではなく、しっかり前衛をできる剣士がいるのもポイントが高い。
これなら安心して一緒に進むことができそうだ。
「この先も障害となる魔物を知らせますね」
「助かりますわ!」
倒した魔物から魔石だけを回収し、俺たちは先に進む。
「マグマゴーレムはどの辺りに生息しているのですか?」
生憎と俺は頂上部まで何度も行き来しているが、マグマゴーレムに出会ったことはない。
素材の一部や姿を見たことがないと、調査スキルの検索ですぐに見つけ出すことはできないのだ。
調査をして割り出していくにも、大まかな姿、形は知っておきたい。
「身体が岩でできた大きな人型の魔物です。冷えて固まったマグマを何重もの鎧にしており、とても防御力が高いです」
丁寧に教えてくれたのはギールスだ。
冷えて硬くなったマグマを身に纏っているのはヴォルケノスと同じだな。
この厳しい環境の中で、防御力を上げるための生存本能なのだろうか。少し興味深い。
「となると、岩場やマグマの近くに生息しているんですね」
「……擬態していることが多いから見つけ出すのが難しい」
「なるほど。マグマゴーレムもいないか注意して探してみます」
「頼むぜ!」
魔石調査を発動。
岩場やマグマ近くを注視していくが、それらしい姿をした魔物は見受けられない。
「この辺りにはいないようですね。もっと奥に進んでみましょう」
「って、もうそこまでわかったのか!?」
威勢のいい声を上げていたアレクが、どこか拍子抜けしたように言う。
「結構、広範囲まで探索できますから」
「……このペースならすぐに見つかりそう。氷魔法が使えるだけじゃなく、感知もできるなんてシュウさんは万能」
「ありがとうございます」
素材採取に集中できるようにしているだけの能力構成なのだが、喜んでもらえるのは純粋に嬉しい。
「一時的な仲間とはいえ、役に立てるようにしっかり頑張ります」
「いえ、現状ではこれ以上ないくらいの貢献――というか、このままではわたくしたちの立つ瀬がないというか……」
「俺たちは戦いを頑張ろうぜ」
「遺憾ながらそうなってしまいそうだ」
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